シェア
年末に虎屋の羊羹が届いて、仏前に供えてある。 小ぶりな箱だがずっしりと重く、白地に赤い文字の包装が端正で麗しくて、我が家のさみしいお正月にも彩りを添えてくれ、ありがたかった。小豆のやさしい舌触りと甘味は、亡き父の好物でもあったから。 しかし、まだ包みを開けていない。 正直に言うと、開けられないのだ。 開けてしまうと劣化が始まる。私と母のふたりでは、到底食べきれない一本ものの羊羹は、さながら我が家にとっての甘い生の「のべ棒」で、その確かな味わいの記憶に舌を濡らし