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ホットコーヒーがジャムってる

ボトンっ!ナニカが落ちて来た!よかった、ナニカが肩に当たったが痛みはない。安心したその刹那、左目の端に、黒いコートにはない、ナニカがあった。人間、経験したことのない驚きには、本当に二度見するらしい。二度見、そして三度目に、再度確認した肩には丸いくて白いナニカがあった。

東京ど真ん中、表参道の人混みのなかで、僕はナニカに当選したらいしい。

GORE-TEXだったことが唯一の救いなのか、コートを脱ぎながら、道行く人をポーカーフェイスでやり過ごす。商業ビルのトイレに駆け込んで、ナニカを落とす。洗えばいい。僕の収入では、買い直すなんて贅沢な選択は元からないけれど、自分で決めたことだと、自分に呪いをかける。

偶然に思えるこの結果にも、森羅万象、すべては自分に理由があるはず。そうでなければ、きっとダレカやナニカのせいにしてしまう。

今日でアノヒトから連絡が来なくなって1ヶ月が経った。自分にナニカ悪いところがあったのだとよくよく自覚する機会になった。アノヒトとは、ダレカと会える流行りのマッチングアプリで出会った。ただ、このアプリは会う直前までどんな人か分からないお見合いスタイル。お見合いとの違いは、両家のプレッシャーもなく、気軽に会えるところ。

アノヒトは、そのアプリで出会った2人目のダレカだった。

1人目のダレカは、5才年上で、正直、話は合わないし、旅行の趣味も楽しみ方が違い過ぎて、1時間の食事ですら苦痛だった。

「落ち着いてらっしゃいますね」

1人目のダレカは、そんな風に褒めてくれたが、つまらない会話を繰り返せば嫌でも冷静になる。こうなったら、あとは接待だ。相手が求めていることにできるだけ近づいて、外せば修正し、当たればここぞと攻めたてる。そして、時が過ぎるのを待つのだ。

時間は無事に2時間弱ほど過ぎた。相手の時間を心配していることを伝えて、今日の予定を聞く。有ろうが、無かろうが、どちらでもいい。こっちの予定を披露して、タイムリミットを伝えるのだ。1人目のダレカとのお見合いは苦痛に終わった。自分の恋愛スキルにはナニカが足りないことを自覚するには、まだまだ、鼻が高かった。

2人目はダレカは、アノヒトだった。


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