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無題

数年前に僕は自分を捨てた。
「才能のない自分」を切り捨てた。


「才能のない自分」を受け入れることが
できなかったのだ。


それからずっと、
切り捨てた自分をタンスの奥に閉まって
見てみぬフリを続けて生きてきた。


「それを直視しなさい」
と言われることもあったけれど
「他人に指示される謂れはない」
と全部突っぱねてきた。


「あなたにはそれがすべてでしょう」
と言われるたびに
「それがなければ俺は無価値なのか」
「そうでないことを証明してやる」
と余計に反発を強めた。


自分の大切な一部を捨てた僕は
何者でもなくなっていて
その一部が全部であったと分かってはいても
決して認める勇気は持てなかった。


「あんなものなくても大丈夫」
「自分を捨てて仕事を選ぶということ」
それが、大人になるということだ。
そう思うことで自分を守った。


「あんなものなくても大丈夫」と言いながら
捨て切れない物が沢山あった。
捨てるタイミングはいくらでもあったのに。

でも、捨てられなかった。

だから、それらは僕の手元にあった。





僕は今まで独りで何でもできると思っていた。

他人に頼ることは「恥だ」「情けないことだ」
そう思ってきたし
まだその思考のクセは抜けていない。



今日、僕はタンスの奥に閉まっていた
切り捨てた自分を引っ張り出してみた。



「自分だけの力でやってきた」
と思っていたもの達が
本当はそうでなかったってこと。


沢山の仲間や、友達や、親や、
色んな大人に支えられて、
助けられて、
あの時の僕が在ったってこと。


独りじゃなかった、ってこと。
独りじゃ何も出来なかった、ってこと。

そして、それが幸せだったということ。





僕は受け入れる。

「才能のない自分」を。
それを捨てて逃げたという事実を。
独りでは何も出来ない
ちっぽけな人間であるということを。


そして、誰かの助けを必要としなければ
こんな簡単なことにすら気づけない愚か者で
万能感まみれの幼稚なクソジジイだと。





僕は、新しいことを始めたい。


けれど僕は、また思う。
「僕は独りだ」と。
「独りで何でもやらなくては」と。

こんな愚か者なので
言わせて下さい。


僕を助けて下さい

僕を手伝って下さい

僕と関わって下さい


独りじゃ何も出来ません。
力を貸して下さい。

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