変愛教室 3


翌日、いつものように出社して、席につく。
竹田さんは、私よりも早く来ている。
「おはようございます」
必ず、私の方から声を発する。
「おはようございます」
竹田さんは、こちらを見ずに挨拶を返してくる。
PCの電源を入れる。起動までの間、行きのファミリーマートで買ったホットコーヒーに口をつける。たいがい、まだ熱すぎて、飲めない。
始業時刻の九時になる。
石田さんの朝礼が始まる。
わたしは、葉山さんの笑顔を思い出していて、竹田さんは無表情で何を考えているのかわからないが、石田さんの話を聞いていないことは確かだ。
この展開は、まずい。おそらくこの後、竹田さんは、石田さんの指示と違うことをし始める。悪意があるわけではなく、単に、口頭の説明を理解するのが苦手なのだろう。だから、いつも、そこをフォローするのが自分の役目なのだと、勝手に思っている。お節介なのかもしれないが。
しかし、今日は無理だ。私は、葉山さんについて考えるのに忙しい。
石田さんの説明が終わった。なんとなく頭に入ってきた情報によると、今日やるべきは、営業員の報奨金の計算業務のようだ。
左隣に座っている吉井さんに、聞く。
「すいません、今日ぼーっとしちゃってて、今、石田さんが言っていたことって、何ですか」
右から、竹田さんの視線は感じないものの、気配は伝わってくる。しかし、表情は変わらず、視線はPCだ。
吉田さんは、微笑みながら教えてくれた。

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