近視的度合い

スペリオールで連載中の「響~小説家になる方法」という漫画のあるエピソード。30代で売れない純文学の作家がとてつもない才能の若手と出会い小説家をやめる。筆を折ったほうの作家は純文学作家としてはそこそこの評価をされているものの、5年ほどかけて2冊単行本を出したが重版がかからなかったという設定だったと思う。ご丁寧に小説家を辞めた後、主婦として一生を終えるところまで書いてあった。

これが、どうも自分におこる話のような気がする。まだ本を2冊出したわけではないが、2冊目を出したところでどうなるか、、、それでこの「とてつもない才能にあふれた若手」といわれてすぐに思い浮かぶヤツがいる。西村ツチカだ。

私とツチカ氏は今は同人誌仲間だが、初めて作品を知ったときはまだ男か女かもわからない未知の作家だった。初めての単行本「なかよし団の冒険」を読んだ際、あまりに絵が衝撃的で大江戸線から降りるのが億劫になってしまうほどだった。その後、担当編集者の紹介などいろいろあって今は同人誌仲間になったのだ。

いまでも私は彼に会ったとき、いかに作家として尊敬しているかほとんどつつみ隠さず話すようにしている。好きな作家とそんな風に話せることがとても誇らしいが、かといってそんな話で長時間盛り上がるはずもない。
先日その同人誌の打ち上げの帰り、戯れにメガネを交換してみた。(尊敬する作家相手ならドガだろうがツチカだろうがどのくらいの近視なのか確認したいものだ)私がツチカ氏のメガネをかけたその瞬間!世界は光に包まれた!いや、世界は自分のメガネをかけた具合と全く同じだったのだ。
近視がひどくて友人とメガネを交換したことがある人ならわかると思うのが、「俺のほうが近視がひどいから偉い」みたいな妙な自慢が始まったりすることがある。ましてや視力でいうと0.05を切っているような強度近視になると人と同じことなんて一度も経験したことはない。
尊敬する氏と近視的度合いだけでも同じというだけで少しうれしくなった。先ほどの純文学の作家ももう少し仲良くなってメガネを交換していたらまだあきらめなかったかもしれない。

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