思いついた漫画のネタ「夢でしか行ったことのないスナック」

夢でしか行ったことのないスナックを見つけた。出張先の打ち合わせを終えて町外れを歩いていた。寒空の下の色の濃い海とやっぱり寒空を反射したような草原が広がっている。ポツリと建っている二階建ての飲み屋の看板がでている。こんなところにあったのか。「スナックターバン日本海支店」。ピンク色にモスグリーンの看板。何度も夢で見たものだ。断っておくが、「夢にまで見た」ではない。「夢で見たことがある」のである。夢の中ではいくら常連とはいえ、、現実世界では入ったことがない。
店の前ですこし躊躇した。もし、会員制ですからと冷たく断られたら、、、頭に不安がよぎる。
「私、ほら、、、実はこの店よく夢でくるんです。」と言ってみるのはどうだろう。案外面白い客が来たと思って入れてもらえるかもしれない。店を開けた先をイメージした。確か店内はママが拾ってきたガラクタで飾られている。卵の殻でつくられたシャンデリアがぶら下がっているはずだ。もう店の扉に手をかけてしまっている。開けよう。意を決して扉を開けた。
 
「あら!いらっしゃーい!」
店にはママとホステスが二人。
「あ、こんばんわ。」といって会釈した。店内には拾ってきたピアノやよく使い方のわからない楽器などの一見すると
ガラクタのような物が綺麗になれべられ色とりどりにはライトアップされている。やはり夢でよく見るあの店に間違いない。サランラップに包まれた有名人のサインが並ぶ。「今日は何にします?」
「じゃあ、焼酎、、、ロックで、、あ、やっぱりソーダ割りにします。」
カウンターには3人ほどの先客がいた。
「えー!実家がお寺なの?」
隣の客が毛むくじゃらのホステスと話している。
「そうなんです。パンフレットみます?」
A4を四つ折りにしたものだ。カルフォルニアの由緒あるお寺らしい。
「へえ、西海岸に、、、」
「最近は中国からのお客さんがすごく多いんですよ。」
「俺も、実家のパンフレット作ろうかな。」
自分の大田区の実家のパンフレットをイメージした。駐車場完備。最寄り駅から徒歩8分です。両親がバブル期に買ったマンション。お寺でもなんでもない普通の家のパンフレット。誰のために作るんだろう。

「今日はどうしたの?起きたまま来てくれたのは初めてじゃない?」
ママがだしてくれるコースターにも見覚えがある。
「実は出張で近くまできてて、偶然見つけたんですよ。」
「そう……ウチ結構いるのよ。そういうお客さん。お住まいは東京よね。」
「ええ。」
 
 その後、しばらく最近ママが自作したマイクで採集した金属音などを聴いていたらすっかりいい気分になってしまった。
「いい時間になっちゃったし、そろそろ帰ろうかな。お会計お願いします。」
「え~~、もう帰っちゃうの。今日はホテルに泊まるんでしょう。もう少し飲んでいったらいいのに。これはお店からだからもう少し飲んでいって。」といってママは赤ワインを乱暴にグラスに注いだ。そしてそれを飲み干すころには先客もいなくなった。店には俺とママ、ホステスが一人。三人しかいない。
「みんなそろそろ起きる時間だもんね。俺、ホテルに帰るね。」

夢でこの店に来ていた他の客も東京で目を覚ましただろうか。
「なんなら、うちに泊まって行ってくれてもいいんだよ。」
「そんなこと言うと俺、いつか本当に口説きますよ。おやすみなさい。」
店をでるとうっすらと空が染まり始めている。その昼の新幹線で東京に帰った。領収書をもらうのを忘れた。 

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