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【インタビュー】カメレオン・ライム・ウーピーパイ -違和感を突き詰めた先に… |MIDNIGHT RADIO

ZAIKOによるサブスクリプション型プレミアム会員サービス「ZAIKO プレミアム」にて、深夜ラジオ風番組『MIDNIGHT RADIO』の配信が2021年12月からスタートした。本企画は、ermhoi、カメレオン・ライム・ウーピーパイ、食品まつり a.k.a foodmanxTaigen Kawabe (Bo Ningen)、SUKISHAといったいま注目のミュージシャンがトークと演奏を披露する映像コンテンツで、各エピソードにつき1組のミュージシャンが登場する。

『MIDNIGHT RADIO』本編のトリを飾ったのは、ヴォーカリストのChi-とその仲間Whoopies1号・2号によるユニット、カメレオン・ライム・ウーピーパイだ。ロックやヒップホップ、あるいはエレクトロニック・ミュージックをフレキシブルに混ぜ合わせながら、新世代のミクスチャー・ユニットとして快進撃を続けている。昨年2021年は、Spotifyによる『RADAR:Early Noise 2021』に選出されるなど、間欠的にセンセーショナルな活躍を見せた。同年11月にはUKの気鋭プロデューサー / DJ・TCTSと「Rich Girl」を共作し、いよいよその勢いは国外にまで波及している。

この記事を読む皆さんには、本稿について「MIDNIGHT RADIO」のボーナストラックのようなものだと考えてほしい。この記事を読んでからMIDNIGHT RADIOを聴き(あるいは観に)に行っても楽しめるだろうし、その逆もまたしかりである。また、今回のインタビューに際し、カメレオン・ライム・ウーピーパイと共同でスペシャルなプレイリストも作成した。ぜひそちらも併せて楽しんでほしい。

取材:川崎友暉
撮影:マジック・コバヤシ

― 昨年は間欠的にセンセーショナルな活躍をされていたと思うのですが、決定的な瞬間はありますか?

やっぱりSpotifyの『RADAR:Early Noise 2021』ですかね。ただ、デビューシングルの「Dear Idiot」(2019年)の時点でも様々なプレイリストに選んでもらってましたから、自分としては徐々に広まっていった感覚を持っています。

― これまでの音楽シーンってライブ(とりわけフェス)が主に新しい音楽の出会いの場だった気もするので、プレイリストのようにソーシャルなコミュニケーションを取りながら広がってゆく様子はコロナ禍においてもポジティブで良いですね。

そうですね。こんな状況なので何本か自分たちが出演するイベントも飛んでしまったんですけど、その分音楽を探すのに時間を割いている人は多い気がします。本当に多くのプレイリストが自分たちをフィーチャーしてくれて、想定よりもずっと多くの人に楽曲を届けられている実感があります。

― カメレオン・ライム・ウーピーパイの曲ってポップなニュアンスを持ちつつ、内省的なものが多い印象があります。まさしく“ネガティブ・ポップ”というような。ロックダウンにより、もはや強制的に内省が求められている点でも、皆さんの楽曲には時代性があるように思います。

それに関しては奇しくも一致してしまいましたね。自分たちはあまり社会の状況や情勢を考えておらず、私も感じるままに歌詞を書いていたので…。「Wonderful」とかの反応を見ても、結構そういった感想を書いてくれる人が多いですね。「今の歌だ!」とか「現在の世の中が表現されている」みたいなフィードバックがあって、確かに私も社会とリンクした実感はありました。以前もそういった手応えを感じる場面はあったんですが、昨年は特に多かったですね。そういう意味では、コロナ禍を経て私みたいな人が増えてるのかなと思います。

― 他者性といいますか、楽曲を受け取る側の存在はカメレオン・ライム・ウーピーパイの音楽性における重要な変化だと感じます。「Dear Idiot」と比較すると、例えば『PLAY WITH ME』に収録されている楽曲はリスナーの存在があるように思います。

やっぱり「Dear Idiot」をリリースした頃って、誰が私の曲を聴いてくれるか分からなかったんです。そんな人いないとすら思ってました。自分自身、私には何もないと思って活動してたんですけど、段々自分の音楽を聴いてくれる人が増えてきて、色々なフィードバックをもらえるようになってきたんです。それは大きく影響していると思いますね。曲を作ってくれるWhoopiesの2人ともより仲良くなれている実感もありますし、端的に言うと変化したのは私の環境ですね。仰るように、以前よりも“私だけじゃない感”は強いです。制作面においても、音楽を聴いてもらうことにおいても。ただ、必ずしも良いことばかりではないかもしれないです。関わってくれる人の数が増えると、良くも悪くも流されそうになる場面も多くなるんですよ。そういう中で、私たちがブレずに持っていなきゃいけないものを改めて認識しました。

― アーティストとしてのフェーズも変わってきていると。流されそうになる瞬間というのは、具体的にどういった場面なのでしょうか?

私たちは特定のジャンルの音楽をやっているわけではないので、次にどういう曲を作ろう?と考えるときは結構慎重になってきましたね。私たちが“カッコイイ”と思っている部分と、世の中にそのまま届けると伝わりづらいのかなとか。でも自分たちとしては、カッコイイものを純粋なまま表現したいんですよ。思っていることを正確に届けたいけど、そのためにごまかすことをしたくないと言いますか。そういった“社会との距離感”みたいなものと戦っている最中ですね。さっきお話したように、共感してくれる人が増えたとはいえ、やっぱりまだ「やりたいことが分からない」とか「このジャンルって何?」と言われることはあるので。私たちに指標があるとすればジャンルではなくて、“カッコイイ”って感覚だけだと思います。

― 「Love You!!!!!!」(2021年)なんかはその典型ですね。Beastie BoysやThe Jon Spencer Blues Explosionなどが重要なインスピレーションと伺いましたが、そういった諸々が一切合切詰め込まれている。

まさに自分たちがブレないために作った曲ですね。その前に「Amefuri no Bambina」という曲をリリースしてるんですけど、こっちは私たちなりにJ-Popに寄った内容で。もちろんこの曲はこの曲で好きなんですけど、あくまで“アーティストとしてできることを広げるために”という意図があって制作しました。そういう流れもあって、「Love You!!!!!!」では私が思う“カッコイイ”を詰め込みましたね。「Amefuri no Bambina」を出した段階で、次は絶対こういう曲って決めてました。

― 個人的にも暫定では「Love You!!!!!!」が一番好きですね。次いで「Who am I」か「Rich Girl」かというところ…。今浮かんだ3曲を考えても、やはり特定のジャンルには準拠していないように思われます。ディスコグラフィーを見渡しても複雑な構造を持つ楽曲が多いですが、バンド間ではどのようにコンセンサスを取るのでしょう?MIDNIGHT RADIOでも各々のルーツとなったアーティストが挙げられていましたが、共通項はBeastie Boysぐらいという。

結構カジュアルにやってますね(笑)。私は海外のインディーズをよく聴くんですが、新たに見つけたアーティストや楽曲をWhoopiesにシェアしたり、もちろんその逆もあります。お互いの好きなものがぐちゃぐちゃに混ざった感じが、カメレオン・ライム・ウーピーパイの曲になっていると思います。そもそもBeastie Boysがそういうニュアンスを持っていると感じるんですね。あの感じが“ちょっとダサいけど好き”という認識までWhoopiesとは共有できていて、そういう人が今までの私の人生にはいませんでした。その感覚が2人と合うのが、活動を続ける上で最も大事なバランスになっていると思います。例えばこの間「Crush Style」という曲のMVが出たんですけど、メキシコのおもちゃの「ピニャータ」をモチーフにしていて。それに対して馴染みがなくとも積極的に取り入れようとする価値観というか、ポップにしていこうとする姿勢が全員の共通認識としてあると思います。

― なるほど。それが先ほど仰っていた、カメレオン・ライム・ウーピーパイが考える“カッコイイ”の難しさに繋がる話ですね。

そうだと思います。お互い“カッコイイ”ものの基準にカッコよくないものが入ってるんですよ。「Rich Gril」のMVもその価値観のもとに制作したので、多分奇妙に感じる部分は少なからずあると思います。私が「トイレの便座に座って歌うシーンを作ろう」と言えば、2人も「めっちゃカッコイイじゃん!」と乗ってきてくれる(笑)。普通に考えれば「どういうこと?」って感じられる場面でも、Whoopiesとは妙に波長が合ってしまうんです。それが私にとっては本当にありがたい。

― ずっと前から存在している言葉ではありますが、最近海外アーティストのインタビューをやると高確率で出会うフレーズが“push the boundaries(限界を拡張する)”というもので、それに似た価値観を感じます。変革を迫られている今、そういった態度は各所で求められているのでは…。

違和感をすごい意識してます。その場にそぐわないことをやるというか、例えば「Normal Luck」のMVでは砂丘の上に畳を置いてみたり、変な掛け合わせに惹かれるんですよね。

― 「Rich Girl」のように、海外アーティストとのコラボレーションが増えると違和感に関しても新たな発見がありそうですね。

「Rich Girl」では本当にそれを実感しましたね。やっぱり3人で活動していると、好きなものが違っても段々お互いのことが分かってきちゃうんです。自分たちがエッジーなことをやっているつもりでも、型にハマってしまうことはあり得るのかなと。その意味で、TCTSとのコラボは外部からもらう刺激の大切さを改めて知る機会になりました。

― いやしかし一発目のコラボがTCTSというのも凄い話だと思いますよ。

私たちもビックリしました(笑)。インスタのDMから連絡が来たんですけど、私はハウスに詳しくないし作ったこともなかったので、最初は不安だったんです。でも海外アーティストとのコラボレーションは私の目標でもあったので、ここはやってみようと。彼もSpotifyのプレイリストから私たちのことを知ってくれたみたいです。楽曲の内容だけじゃなくて、ユニットの名前も面白いからって(笑)。

― 海外への訴求については他のインタビューでも度々仰ってますが、もはや完全にリアルなものになってますよね。

やっぱり求められているものも含め、カルチャーが自分に合っていると感じますね。制作のスピード感だったり、言いたいことをズバズバいう感じだったり。実際「Rich Girl」も今までで一番体力を消費しましたし、緊張感を持ってやれました。今一番何がしたいかって言われたら「海外でライブしたい」と真っ先に答えるぐらい、現在進行形で海外での活動が目標ですね。前までは漠然と考える“海外”だったんですが、確かにずいぶんリアルに想像できるようになってきましたし、そういう意味では大きな変化だと思います。以前までは漠然と考える海外も、日常の逃避としての意味合いが強かったですし(笑)。今はそういう鬱屈とした心境ではなく、ポジティブなマインドで海外に行ってみたいと感じています。

― 状況が落ち着いたらすぐに行けてしまいそうなスケールを感じます。

いやー、本当に早く収束してほしいですね。今の3人の感じをそのままに、どこまでやれるのか挑戦したいです。そしてゆくゆくは、この何とも言えない感じが日本のスタンダードになれば良いなと思います。私たちがやっているような音楽に対して「カメレオン・ライム・ウーピーパイっぽい」と言われたい(笑)。デカい目標ですけど、真面目にそう考えています。

カメレオン・ライム・ウーピーパイ
Chi-によるソロユニット〈カメレオン・ライム・ウーピーパイ〉。オレンジの髪が特徴的なChi-。そして仲間にWhoopies1号・2号がいる。作詞や作曲、レコーディングはもちろん、映像もアイデア出し、小道具を集めるところから、撮影、編集までありとあらゆるものを全て3人のみで手掛け、常に新しいクリエイティヴを生み出し続ける次世代型アーティスト。2019年末に1stシングル「Dear Idiot」を配信リリース。結成から3年、水面下で磨き上げ、満を持して出した楽曲がSpotifyの公式プレイリストに選ばれ、瞬く間に日本のみならず世界中のリスナーから注目を集め、国内外のレーベルから問い合わせが殺到。ネットには彼らの素性と活動の全貌を知りたいという声が溢れる。2021年には、「RADAR: Early Noise 2021」に選出され、今後ますますの活躍が期待されている。懐かしくも新しい、既存のルールに囚われない、強いて言うならば“ネガティヴ・ポップ”という新たなジャンルをカメレオン・ライム・ウーピーパイは体現している。
https://twitter.com/chi_clw
https://www.instagram.com/chameleon.lime.whoopiepie/
https://lit.link/clwp


カメレオン・ライム・ウーピーパイ『Crush Style』
2021.12.15 OUT NOW (Download & Streaming)
https://CLWPRecords.lnk.to/CrushStyle


MIDNIGHT RADIO
出 演:ermhoi、カメレオン・ライム・ウーピーパイ、食品まつりxTaigen Kawabe (Bo Ningen)、SUKISHA
配信日時:12月2日(木)より隔週木曜日(全4回)

各エピソード1組のミュージシャンが、真夜中をイメージした、未来的でありながら80年代の懐かしさもあるDJブースの中で、深夜のラジオ番組風パーソナリティとなって視聴者にトークと曲をお届けします。フリートークのほか事前にTwitter等で募集された“リスナー”からの質問に回答するコーナーと、自らのライブ演奏や好きな音楽をオンエアする構成になっています。出演するアーティストには、millennium paradeにも参加しているermhoi、Spotify選出の「RADAR: Early Noise 2021」にも名を連ねるカメレオン・ライム・ウーピーパイ、UKレーベルHyperdubから作品をリリースした食品まつりと彼に親交の深いTaigen Kawabe (Bo Ningen)、幅広い音楽性で支持を集めるSUKISHAがラインナップ。曲やトークを通して、まさに今要注目なアーティストと繋がりを感じられる番組です。
https://zaiko.io/premium/media/midnight-radio
https://youtu.be/8e8ggSzy6X8