ブローカー続き

 この「都市」ではほとんど作物が育たない。都市の独立前は行政区全体がベッドタウンとしての役目を与えられており、かつての首都に内包され、その首都機能の一部を担っていた都市でもあるので、「都市」の有する地は農耕地としての側面をほとんど持たない。現在で言うところの輸入に依存していたのだ。食糧自給率なる指標は都市間の交易が断絶したいま九〇%を下回ることはないが、そもそも食糧難の時代なのでそのような数字を持ち出すまでもない。輸入依存は現在にいたるまでまるで改善されておらず、後述する「菌類」の繁殖によってむしろその問題は深刻化していると言える。
 食糧難の主な原因として挙げられるのが、都市の地表を覆うほどに生育したある「菌類」の存在である。独立以前にアスファルトによる舗装を施されていなかった剥き出しの地表は瞬く間に菌糸によって汚染され、既存の作物は枯死し、菌糸を完全に除去せねば新たな作物も育たぬ死の領域と化してしまった。人の丈ほどもあろうかという白く巨大な茸が地面を這うように生育し、かつての公園や植樹林などは、土壌の露出する部分が見当たらないほどに菌害に蝕まれていた。この茸は触るぐらいでは人体に害はないが、もちろん毒を含んでいるので食用にはできず、また他の菌類の生育を阻害するので食用の茸もまったく採れなくなってしまった。まさに死の菌である。この都市の事実上の封鎖はまさにこれが事由であり、ここの人的リソースを含むあらゆる資源の輸出が「向こう側」から拒絶されているのは、これが所以である。交易の断絶は菌類がもたらしたものだ。加えてその菌の発する膨大な胞子も大きな問題となっており、この地域の子供には呼吸器系に疾患を持つ者がほとんどだ。

 唯一、食糧資源として主に利用されているのは木の実である。わけても各地に自生するブナ科の木々から採れる木の実は貴重な栄養源として都市の独立直後から盛んに喫食されており、この都市の独立後の文化のひとつとなっている。ブナ科は菌害に弱い植物ではあるが、ブナ科を好んで生育する他の菌類が排斥されているためか、菌によって落ちた種子が菌に分解されることはほとんどないという。
 ただしこのブナ科の植物に、新たに発生した菌が少なからず影響を与えていることは確かであり、食用とされる種子、いわゆる団栗とよく似た形をしていながら猛毒を含む種子が都市全体で発生している。菌がどのように作用しているかは定かではないが、何らかの方法で既存の種に突然変異を惹起し、猛毒を含有させるに至ったと考えられている。一説には菌による種子の分解が行われなくなったことで、活発になった人間含む動物による採食に対する防御機構のみ発露した、という研究もあるが、菌そのものが突然変異の原因であるとする学説が現在では主流だという。
 この種子は採取される種子の総量の実に三分の一ほどを占めており、見分け方を心得ていない子供などが誤って食べ、死亡する事故が夥しい件数発生している。餓死にウイルスによる病死、それから主な食物である種子からの中毒死が、この都市内部の死のレパートリーを彩っている。

前回の続き。これでだいたい夢でみた範囲は終わりかな。ただもっと先を予想させるような終わり方だったし、肝心の「仕事」についてはまったく触れず仕舞いだった。
なんだかこうもリアルな夢だとMoMの平行世界を夢に見る、みたいな設定なんじゃないかとさえ思うな。ただ菌類の設定はどう考えても無理がある。あのへんはラストオブアスとかの影響が大だろう。鮮やかな黄や赤といった菌類ではなく、人の背丈ほどもある榎茸みたいなきのこが地面に横たわっているというのはラスアスとは違うが。それにしてもマズそうなきのこだった。
都市の独立はデスストだし、モチーフとしてはチャイナ・ミエヴィルがあったような気がする。進撃の巨人の壁っぽさもある。密入国に関しては現実のメキシコ-アメリカを参照しているはずだし、それは『ボーダーライン』とその続編、あとはキュアロン息子の『ノーエスケープ』からハンターの着想を得ているっぽい。
ブローカーは『ストーカー』だろう。現実のブローカーというよりは、ゾーンへの道案内をする彼らの方がイメージに近い。チェルノブイリで放蕩する若者ではない。
どんぐりはよくわからない。僕の子供時代の経験が反映されているのだろうか。べつにどんぐりに特に思い入れはないのだが。ただどんぐりを食用にする、というのには少しだけ憧れがあった。縄文時代の日本ではどんぐりを原料にしたパンのようなものが食べられていたと仄聞したことがあるから、そこからの発想かもしれない。虫がいそうだからいま食べる気にはならないけど。とはいえ、地方などでは郷土料理として親しまれているようであり、そちらは是非とも食べてみたい。こんど旅行にいくときはちょっと検討してみよう。


生きるわよ