『瓶のコーラ』


僕 「瓶で飲むコーラって、なんか美味いよな。」

彼は思わず聞き返す。

「瓶のコーラって、
 ボーリング場とかにあるやつ?」

僕は頷く。

僕 「わかるでしょ?」

「わかんないなぁ。
 一緒だよ。瓶も缶も、ペットボトルも。」

僕 「いやー、なんか違うんだよな。
   なんていうか、ちょっと甘いんだよ。」

「気のせいだよ。」

僕 「ちょっと冷たいんだよ。」

「それは冷やしてる冷蔵庫の違いでしょ!」

僕 「わかってくれよ。
   なんか雰囲気で美味くなるんだって。」

「わっかんないなぁ。」

僕 「わかんないかぁ。」

「そんなことよりさ、
 缶のラムネで飲むより、
 瓶のラムネの方が美味しいよね。」

僕 「ああ?」

「共感できない?」

僕 「...いや、同じこと言ってるよ?」

「なにが?」

僕 「瓶のラムネの方が、美味しい
   っていう気持ちがあるなら、
   瓶のコーラの気持ちもわかるでしょ?」

「それとこれとは別だよ〜。」

僕 「一緒だよ!」

「だって、コーラが美味しく感じる理由、
 なんて言ったっけ?」

僕 「雰囲気、なんか美味しく感じる。」

「俺が瓶のラムネが美味しいって思う理由と、
 全然違うもの。」

僕 「君はなんで、
   瓶のラムネが美味しいって思うの?」

「懐かしい感じがするから。」

僕 「...一緒だと思うけどなぁ。」

「なに、その感じ?
 わからないかなぁ。
 昔の日本人からのDNAを感じるというかさ、
 ラムネとはこうあるべきっていうか、
 瓶だとそういう気持ちを感じて、
 美味しいんだよね。」

僕 「結局、味が違うわけじゃないじゃん?」

「いや、なんか違うんだよ。
 瓶の方が美味しいんだよ。」


僕 「僕の瓶のコーラだって一緒だよ!」

「なんか、懐かしくて温もりを感じる。」

僕 「ラムネは冷たいでしょうよ!」 

「うるさいな。雰囲気よりはマシだろ。」

僕「さっきは、雰囲気って言ったけど、
  僕も、
  昔のアメリカの雰囲気っていうかさ、
  瓶だった頃を思い出してさ、
  ああ、昔はみんなこう飲んでたんだなぁって、
  考えるとさ!
  アメリカ人のDNAが喜ぶっていうか。」

「でも君、純日本人だよね。」

僕「そうだけど!
  だけど、感じるんだよ!」

「わかんないなぁ。」

僕 「あ!例えばさ、
   海外で食べた方が
   美味しいものってあるじゃん」

「なに?」

僕 「ええと、フィリピンで食べるバナナとか。」

「日本で売ってるのだってフィリピン産じゃん。
 一緒だよ。」

僕 「オーストラリアで食べるOGビーフとか。」

「だから一緒だよ!」

僕 「なんで伝わらないかなぁ。」

「イライラするなよ。
 俺も共感してあげたいんだぜ。
 そんなことよりさ、
 静岡で飲むお茶って美味しくない?」

僕 「いやいやいや」

「まあお前の話とは違うけどさ。」

僕 「もうきみがわかんないよ。」

「ええ?わかんないのこの良さが。」

僕 「わかってるよ!
   良さはわかってる。
   君の思考がわからないんだよ。」

「確かに、お前の言うこと、
 全て共感できないもんな。」

僕 「わかってよ!僕は全部共感できてるよ。」

「あのねぇ!教えてあげようか!!」

僕 「な、なんだよ急に」

「普通のそうめんより、
 流しそうめんの方が美味しく感じるよね!?
 わかるでしょ。」

僕 「感じるのよ!俺も美味しく感じる!」

「君はね、ベトナムのフォーも、流して
 食べた方が美味しいって言ってるんだよ!」

僕 「...言ってねえよ!」

「!?
 言ってないか...」

僕 「でも、今ので思い出した。
   2年前くらいにベトナムに行ったんだけど、
   やっぱり現地で食べたフォーは、
   日本で食べるより美味しかったね。」

「それは本場のフォーだからです!
 はい論破。」

僕 「いや、インスタントの。
   日本から持ってきたやつ。」

「カップラーメンとか持ってけよ!
 気持ち悪い。」

僕 「フォー好きなんだよ。」

「知らないけどさぁ。」

僕 「まとめるとね、
   僕は、食べ物とか飲み物には、
   シチュエーションでより美味しくなることが
   あると思うんだよね。」

「うん。」

僕 「でも、君の場合は、
   ラムネとか静岡のお茶とかそうめんとか、
   ジャパンっぽいものでしか、
   その効果を得たことがないと。」

「なるほど。確かにそうだ。」

僕 「要するに君は、
   世界を知らない鎖国人間ってことだね。」

「ああ、でも!でも!
 喫茶店で食べるナポリタンは、家のより美味い」

僕 「ナポリタンは日本で作られたからね。」

「あっ。」

僕 「あと大体の料理は家より店の方が
   美味しいからね。」

「そうかぁ。
 俺の常識がせまかったのかぁ。」

僕 「そう。
   早く瓶のコーラの美味しさが、
   わかるといいね。」

「でも、そうなると大変だな。」

僕 「なにが?」

「宇宙食あるじゃん。」

僕 「うん。」

「より美味しく食べるには、
 宇宙行かなきゃいけないってことだろ?」

僕 「いや、あれは地球でつくってるから、
   どこで食べても美味しい。」

〜終わり〜

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