見出し画像

似た者同士(24.1.10)

実家に帰ると、朝はたいてい母が起こしてくれる。自分で起きれるから大丈夫だよと伝えるが、母のタイミングで予定時間よりだいぶ前に声がかかる。まったく勘弁してくれとまた文句を言ってしまった。

‾‾‾‾‾‾
この文章を書くまで母の気持ちに気づいていなかった。毎度1時間も2時間も前に起こされる事を疎ましいと思っていた。話の噛み合わなさ、言動の激しさに不快になる事も多い。そこで腹が立つ自分にもイライラする。そんな感じで距離をとって20年以上。こうして文字にしてみると母なりの心配と優しさなのだろうと今更ながら気づく。時間と距離のマジックも手伝ってか、やっと母の不器用さを良い感じに捉えれた…気がする。
妹からは「似た者同士」だと言われる。んなわけないと思っていたけど  た ぶ ん  そうだろう。

‾‾‾‾‾‾

上の文にはあんま関係ないけど、思い出した詩を…

     新しい旅立ちの日
              吉野弘

誕生まで
私は母と臍の緒で結ばれていた
満ち足りて。

産婆さんが駆けつけた日
私は母から あっさり引き離され
誕生の日付と 新しい臍の緒を
私は贈られた
『吉野弘(一九二六~   )』
というふうに
不安な空白を 更にその下に吊って。

けれど案ずることはなかった
見えない「わが死の母」は
すぐに私を拾い上げ
私に豊かな栄養を賜ってきた
この異な絆を通じて。

生涯の終り
私が完璧な死に成熟した日
「わが死の母」との強い絆も
おのずと切れる。

その日
私の新しい旅立ちの日を
かのやさしい手は
鮮やかに書きしるすことだろう
とっておきの あの空白の部分に。

吉野弘詩集 岩波書店