円暴落に備えてドル収入を稼ぐデジタル副業の着眼テーマ



円暴落に備えてドル収入を稼ぐデジタル副業の着眼テーマ


 日本のサラリーマンの平均年収は、2022年の国税庁調査によると458万円。前年比では2.7%増となっているが、物価の高騰分を考慮すれば、一般世帯の暮らし向きは厳しくなっている。さらに、円の価値は下がっているため、国際的にみると、日本で昔と同じ働き方をしていくだけでは、実収入を伸ばしていくことが難しい時代になっている。

OECDがドルベースで換算した世界主要国の平均年収ランキングでは、日本人は21位(平均34,393ドル)で、米国(77,463ドル)とは2倍以上の差が付いている。



欧米の物価上昇率は年間6~8%と非常に高いため、単純に比較することはできないものの、米労働統計局のデータ(2022年)によると、レストランで働くウェイターとウェイトレスの平均年収は、カリフォルニア州が37,060ドル、ニューヨーク州が47,640ドルで、さらに15~20%のチップ収入が加算される。そのため、年収4~5万ドル以上を稼ぐことが可能である。一方、日本で同じ職種の平均年収は280~330万円という差がある。



この賃金格差から、日本人が海外へ出稼ぎに出ることも現実的な行動として注目されている。ただし、どの国でも外国人の就労は厳しく規制されているため、本格的な移住を決意しなければ、外貨で給与を稼ぐことは難しい。

唯一、例外として認められているのは、語学学校や大学に留学しながら就労もできるワーキングホリデーのビザだが、この制度の対象となるのは、29の協定国に限られており、米国はその中に含まれていない。年齢も18歳~30歳未満に制限されて、ビザの有効期限も1年間と短い。最近では、ワーキングホリデー制度を利用して、オーストラリアやカナダへの「出稼ぎ留学」をコーディネートする業者も出てきているが、物価の高い現地で生活しながら、十分な貯金もできるほど甘いものではない。

ワーキング・ホリデー制度(外務省)

一方、自国通貨の価値が急落している新興国では、ネット経由のビジネスで外貨を稼ぐ方法が模索されている。たとえば、アルゼンチンの通貨(ペソ)は、ここ数年で100分の1の価値に暴落している。そのため、ペソで給料を得ていたのでは生活ができなくなり、ドル収入を稼げるか否かが、貧困の境界線になっている。

具体的な方法として、アルゼンチンの不動産所有者は、Airbnbなどの短期レンタルプラットフォームでドル収入を稼ぐことが実行されている。通常、アルゼンチンの物件をAirbnbに出品して得られる収入は、ペソ建てで支払われることになるが、国際決済プラットフォームの PayPalや Payoneerを利用すると、宿泊者が支払った料金をドルで受け取ることができ、ペソ建てとの比較で、実質収入を2倍以上に増やすことができる。さらに、ドルと連動した暗号通貨(ステーブルコイン)に両替して、食料品などの買い物に使える闇市場がアルゼンチン国内では流行っている。

アルゼンチンの例に限らず、ネット経由で外貨を稼げるビジネスや仕事を持つことは、自国通貨の暴落リスクを回避する手段としても重要視されるようになっており、世界では様々な方法が開拓されている。


【ドルを稼ぐデジタル副業モデル】

 日本国内に居ながらドル建てで収入を得るのに、最もわかりやすいのはebayなどの海外のECプラットフォームで商品を売ることだが、物販には売れ残り在庫、送料、返品などのリスクがあり、副業としては手間がかかるわりに、利益率はそれほど高くない。

それよりも効率的な副業は、デジタルコンテンツを販売することだ。ハンドメイド作品販売サイトの「Etsy」でも、出品の方向性はリアル作品の販売から、ダウンロード商品の販売へと変化している。たとえば、裁縫用のパターン(型紙)をPDDデータとして販売することは、服を制作して販売するよりも利益率が高く、ジャケット、スカート、セーターなどの型紙が、1着あたり5~15ドル程度で販売されている。

米国では、以前からハンドメイド服の制作が人気化しているが、サステナブルファッションの高まりにより、服の自作にチャレンジする人が増えており、デザイナーが作成した型紙データのダウンロード需要が高まっている。型紙には、サイズ別に服のパーツが図面化されているため、プリントアウトして生地に貼り付けながら裁断すれば、初心者でもデザイン通りの服を作ることができる。

Etsy clothing patterns

Etsyの中では、衣服の型紙以外でも様々なダウンロード商品が販売されるようになっており、Tシャツのデザインに使える画像データ、洗練されたデザインの履歴書テンプレート、業種別の広告テンプレートなど、独自のアイデアで制作されたデジタル商品が出品されている。

そのため、新興国のデザイナーやクリエイターの中でも、Etsyを活用することでドルベースの収入を稼ぐことに成功する事例が増えている。

ルーマニアのデザイナーが Etsy内で運営している「Outline Planner」は、iPadなどのタブレット端末で使えるスケジュール帳(デジタルプランナー)のテンプレートをダウンロード販売しているショップで、月間3000~4000ドルの売上がある。スケジュール帳は、年が変わる度に買い換えのリピート購入が期待できるのが特徴で、同ショップの注文が年間4000件ある中で、約20%がリピーターとなっている。

Outline Planner

また、「Pretty Arrow budget」は、運営者自身が3万ドルの学生ローン返済に苦しんだ経験から、Excelで楽しく返済計画を立てられるスプレッドシートを独自に開発して販売している。スプレッドシートは、返済の年間計画をグラフで視覚的に見やすくしたものや、不規則な収入構造になっているフリーランス向けのものなど、複数の商品がある。

これらのスプレッドシートでは、複数の借り入れをしている場合に、どの借金を優先して返済すると返済総額が下げられるか、返済金を増額すると、完済日数がどれだけ短縮できるのか等を、わかりやすく表示させることで、日々の無駄遣いを減らしながら、借金返済のモチベーションを高められるようにしている。各シートの価格は、5~25ドル程の設定だが、月間の売上は1万ドルを超している。

これらの事例は、ショップ運営者が1人で行っているビジネスであり、開業資金も500~1000ドル程度に抑えられている。

Pretty Arrow budget

【外貨を稼ぐEtsyペイメント】

 Etsyでは、2021年4月から「Etsyペイメント」という独自の決済システムを導入したことにより、セラー会員は他国のユーザーが購入した売上でも、自動的に自国通貨に両替されて専用口座に入金されるようになった。このシステムでは、45ヶ国の通貨に対応しているため、世界で約1億人の Etsyユーザーをターゲットにしたデジタル商品を販売するセラーが急増している。

特に、自国通貨の弱い新興国では、ドルやユーロの料金相場で収入が稼げるプラットフォームとして活用されている。ただし現状では、日本は Etsyペイメントの対象国から外れているため、新規でショップを開設することができない状況となっている。※対象国は随時追加されている。また、Etsyペイメントの導入前からショップを運営している日本人セラーは、従来の方法(PayPal)によって、国際決済をすることができる。

Etsyペイメントについて(Etsy)

JNEWS LETTER 2023.10.15 より抜粋
JNEWS LETTER


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