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両陛下の英国ご訪問

7月31日、読売新聞6面にて「両陛下の英国ご訪問」の
特集記事が掲載された。「日英親善、陛下と国王の絆」と
題するものだが、やはり日英親善については、どうしても昭和天皇、上皇陛下の英国ご訪問について触れなければなるまい。

この度の英国ご訪問の成果は、昭和・平成・令和の御代を貫く天皇の大御心があってこそ、親善の絆が一層深まったことに他ならないからだ。

昭和天皇御製 イギリス(昭和四十六年)

戦果てて みそとせ近きに なほうらむ
人あるをわれは 思ひかなしむ
さはあれど 多くの人は あたたかく
むかへくれしを うれしとぞ思ふ

昭和46年、昭和天皇は欧州各国をご訪問。英国に立ち寄られた際、歓迎の傍ら、日本軍の捕虜となった英国軍人の中に日本に対する恨みを持つ人たちが根強く居た。そのような中で昭和天皇は
「さはあれど」
「あたたかくむかへ」てくれる
英国の方々の声の中で、双方の心を受け止めて親善のために尽くされた。

しかし、「うらむ人」の存在は、平成の御代においても消えることは無かった。

平成10年、上皇陛下の英国ご訪問の際、ロンドンでは歓迎式典が行われた。
その中、ホース・ガーデンからバッキンガム宮殿までの馬車パレードの際、
沿道で何人もの元捕虜たちが背を向けて並び、抗議の気持ちを表していた。

パレード当日の朝、両陛下は渡邉侍従長(当時)との
朝食の場で、「デモはしませんが、背を向けた抗議行動はするようです」
と、現地大使館からの報告を受けられた。陛下は黙って頷かれたという。

陛下の胸中は、この日の晩餐会でお述べになった「お言葉」に凝縮されている。

「戦争により人々の受けた傷を思う時、深い心の痛みを覚えますが、(略)
私どもはこうしたことを心にとどめ、滞在の日々を過ごしたいと思っています」

このとき、関係者の記憶に、強く残った場面がある。

パレードの後、両陛下は無名戦士の墓があるウェストミンスター寺院をご訪問された。寺院にご到着された両陛下が車から降りると、道を挟んで元捕虜らがズラリと立っていた。気付いた付き人らが、
急ぎ両陛下にお伝えした。「どうぞ建物にお入りになってください」だが、陛下は立ち止まったまま動かない。

道を挟み、元捕虜らとじっと向き合われていた。上皇后様も、陛下の傍らに寄り添われていた。わずか数十秒だったが、日本側の関係者にとっては
緊張で押しつぶされそうになるほどの
長い時間だったという。

寺院に入られた両陛下は、無名戦士の墓に花と祈りを捧げられた。

寺院を出発する両陛下に「エンペラー、ノット・カム!」とシュプレヒコールを繰り返した元捕虜の団体だったが、後日談がある。

このときに天皇が向かい合ってくれたことで、自分たちの気持ちをわかってくれたと感じたと、メンバーがのちに吐露したという。
言葉を交わさなくても、水が染み入るように、相手に伝わるものがある。
随行した渡邉元侍従長は次のように語っている。

「両陛下はいずれの場合も端然と対応され、ウェストミンスター寺院ご訪問の際には、遠くから大声で抗議している元捕虜の人たちに対し、
皇后さまが
『あなた方の気持ちはよくわかっていますよ』
というふうに軽く頭を下げる仕草をなさったと報道されました」

ロンドン・タイムズは上皇陛下のご訪問を次のように記した。

「(ご訪英は)大成功だったと思う。このご訪問の前までは、ロンドンの街角で普通のイギリス人に日本の天皇の名前を尋ねたら、おそらく『ヒロヒト』という答えが返ってきただろう。残念ながら、英国人にとって、ヒロヒトといえば、戦争の記憶と結びつく。
けれども、今日からは、同じ質問に人々は『アキヒト』と答えるだろう。
しかも、日本の天皇も皇后も、本当に穏やかで誠実な人だったと
付け加えるにちがいない」(ロンドン・タイムズ記者)

昭和天皇のご訪英におけるご感慨、そしてそれを御心に抱きご訪英された平成の御代における上皇上皇后両陛下の慈しみの大御心―それらによって、次第に氷が溶けるように恨みを抱く英国人の心は変わっていった。

両陛下は、ご訪英後に次のような御製をお詠みになられた。

上皇陛下御製 英国訪問(平成十年)
戦ひの 痛みを越えて 親しみの
心育てし 人々を思ふ

上皇后陛下 旅の日に(平成十年)
語らざる 悲しみもてる 人あらむ
母国は青き 梅実る頃

上皇陛下は英国との親しみに心を育てて来た両国の方々の
尊い営みを心から思い、上皇后陛下は、英国のデモを見る度に、
わが日本において同様の苦しみを持つ戦中派の方々の言い知れぬ苦労と努力に深く想いを致し、英国ご訪問を続けられた。

今上陛下は、上皇陛下、昭和天皇の御心を深く心に留め、
更なる英国親善の絆を深められるべくご訪問されたのではなかろうか。

一般社団法人日本令和研究所 令和6年8月8日メルマガより抜粋

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