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下請け体質から脱却する修理業界のマーケットプレイス開発

【修理ビジネス業界構造の変革】

 日本でも中古市場の成長と共に、修理サービスへの需要は高まっている。メーカーは修理スタッフの出張ネットワークを全国に広げているが、それらの人材は大半が下請けの自営業者である。

住宅業界の場合には、大手住宅メーカーが顧客向けのサポートセンター(電話窓口)を作り、そこで受けた修理依頼の内容によって、住設メーカーの修理部門、さらに下請けの修理業者という流れで出張修理が行われている。この問題点は、上流にいる会社のマージン率が高く、実際に修理作業を行う職人の手取り収入はかなり低くなってしまう。これは、割高な修理代金を払うことになる顧客(住宅オーナー)にとっても、不利益なことである。

たとえば、キッチンの水漏れがあり、修理依頼したケースでは、修理代金は住宅メーカーから顧客に4万円が請求されたが、修理を担当した自営業者には8000円しか支払われていないという事例がある。
このようなピンハネの実態は、家全体のリフォームやクリーニング、家電の出張修理などでも多数存在している。そのため、業界の末端にいる修理職人の実収入は低く、新たに開業しようとする者が増えてこない。この問題を解決するために、消費者と修理職人とを直接マッチングするマーケットプレイスの役割が求められている。

米国で運営される「Thumbtack」は、住宅の修理、メンテナンス、設備の取付などができるプロ人材を探せるマーケットプレイスで、依頼者が住んでいる地域毎に、電気技師、配管工、内装工などを検索することができる。サイト上には、過去の取引履歴から集計した、各作業の平均単価が表記されているため、妥当な料金設定による修理依頼をすることができる。たとえば、ニューヨーク州の電気技師に住宅内のコンセント配線やブレーカーパネルの修理を依頼するのは、1回の訪問につき80~100ドル(部品代は別)が相場になっている。

■Thumbtack■

【Uber for Handymanトレンド】

 米国では、電気技師、鍵屋、配管工など家周りの修理をするプロ人材のことを「Handyman(ハンディマン)」と呼ぶが、彼らの集客ルートは大手業者の下請けに付く従来方式から、オンラインマーケットプレイスからの直接取引に変化してきており、そのトレンドは「Uber for Handyman」として注目されている。

一般家庭のハンディマンに対する依頼は、地域別、作業の内容別(電気工事、水回り、屋根修理、ハウスクリーニング等)に細分化できるため、それぞれのカテゴリーでオンラインマーケットプレイスの立ち上げにチャンスがある。

「Sharetribe」は、Uber、Airbnb、EtsyのようなP2P型マーケットプレイスをコーディングのスキルが無くても開発できるようにしたプラットフォームで、世界で70ヶ国以上の起業家が独自のマーケットプレイスを立ち上げている。月額29~299ドルの固定料金でマーケットプレイスの開発~運用ができるため、個人の起業にも使われている。

■Sharetribe■

具体例として、英国で子育て中の女性が立ち上げた「The Octopus Club」というサイトは、家庭で使わなくなった子ども服、ベビーカー、ベッド、玩具などの個人売買を行うためのマーケットプレイスだ。中古の子ども用品をebayなどで販売する副業者は多いが、独自のマーケットプレイスを運営することにより、英国内の母親達とのネットワークを広げることができ、主婦層をターゲットとしたい複数企業からの協賛も受けられるようになっている。

■The Octopus Club■

ハンディマン(修理職人)の分野でも、マーケットプレイスの運用は有益である。職人は、元請け業者から中抜きされていたマージンをカットして一般顧客からの仕事を獲得できるし、顧客にとっては、職人のスキルや実績を確認して依頼することができるため、作業内容についての満足度も高くなる。これからのメーカーは、修理対応を充実させていく必要があるが、全国各地で修理職人のネットワークをゼロから作ることは難しいため、既に運用されているマーケットプレイスと提携していく方法も模索されている。

世界の製造業は、大量生産・大量廃棄の時代が50年以上続き、修理ができる人材の育成を怠ってきた。しかし時代は変わり、壊れた製品を修理して長く使うことのムーブメントが消費者側から起き、それを国や自治体が支援するための法制化も進められている。市民運動として広がるリペアカフェは、次第に事業規模を拡大して、メーカー企業と対等に渡り合うリペア団体が出てくることも予測される。

JNEWS LETTER 2024.1.27より、一部抜粋


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