新潟でNetwork Operators' Groupを続けている話

かねこです。みなさんこんにちは。ようこそ。

この記事は「第二弾 地方IT勉強会 Advent Calendar 2019」の10日目のエントリです。


はじめに

私は仲間たちと一緒にEchigo Network Operators' Group(ENOG)というエンジニアコミュニティを運営しています。簡単にいうと、新潟県内在住のネットワークエンジニアが集まり、インターネットの技術や運用に関して情報共有をしたり議論をしたりする集まりです。2010年の1月に設立したので、年が明けたらちょうど10年ということになります。ここではENOGという地域コミュニティがどのように出来上がったのか、そしてENOGをずっと続けてきて私自身が得たことや感じたことをご紹介したいと思います。

そもそもNOGとは

インターネットは様々な組織のネットワークが相互に接続しあうことで成立する巨大な「ネットワークのネットワーク」です。それぞれ独立し主体的に運営されているネットワーク群があり(自律)、様々な情報や処理機能はそのネットワーク群の中にバラバラに存在し(分散)、それらネットワーク群が互いに協力し作用しあうことで(協調)、世界中のヒト・モノ・コトを結びつけている、これがインターネットと呼ばれているものの姿です。

この「自律・分散・協調」という重要なコンセプトのもと、インターネットを支えるネットワークエンジニアたちは通信プロトコルのような技術仕様、効率的で安定した運用の実現手法、インターネットの健全性を脅かす課題に対する解決策など、あらゆることをオープンに議論し、情報共有を行い、共通の約束事やベストプラクティスを作り上げるという文化があります。互いに異なる組織に所属していても、たとえそれがライバル関係にある企業同士だったとしても、エンジニアたちはともにインターネットを作り上げている仲間として、とてもフレンドリーかつオープンに話し合います。私自身、この業界に入ってから随分と長い時間を過ごしてきましたが、今も昔も変わらぬこの文化が本当に大好きです。

そんなわけで、インターネットのネットワークエンジニアが集まる場というのは様々あるのですが、Network Operators' Group(NOG)というのはその名前の通り、主にネットワークの「運用」に携わるエンジニアたちが集まり、「運用」の目線で議論や情報交換を行うコミュニティとなっています。NOGは世界各地にあり、北米には古くからNANOG(North American Network Operators' Group)というコミュニティがあり、今でも活発に活動しています。またこのNANOGをお手本に、日本でも1997年にJANOG(JApan Network Operators' Group)というコミュニティが設立され、こちらもずっと年2回以上のペースでミーティングを開催し続けており、今では毎回1000人以上の参加者を集めるビッグイベントに成長しました。

ENOG設立まで

1995年頃からインターネットに関わる仕事をしてきた私がJANOGに出会ったのは、2000年6月のJANOG Special Session In Interop 2000 Tokyoでした。その翌週に開催されたJANOG6 Meetingにも参加し、このコミュニティの熱量と専門性の高さ、そして極めてオープンな雰囲気がすっかり気に入り、以後定期的にJANOG Meetingに顔を出してきました。

2004年にそれまで勤めていた東京の会社を退社し、地元である新潟の会社に転職したのですが、その後もJANOG Meetingへの参加は続けていました。そして、新潟の同僚にもJANOGを知ってほしいという思いと、私自身を育ててくれたJANOGへの恩返しの気持ちから、2010年1月のJANOG25 Meetingのホスト企業に立候補し、新潟でのJANOG開催の夢を実現することができました。

JANOG25 Meeting開催にあたり、自社の人間だけでなく、新潟県内でISP事業を営む他社に所属するメンバーがスタッフとして手伝ってくれたのですが、その準備会合の飲み会で「新潟でもNOGを作ったらどうだろう」という話が突如盛り上がり、JANOG25 Meeting開催の一週間前、2010年1月13日にEchigo Network Operators' Group(ENOG)が誕生する運びとなりました。

ENOGの活動

ENOGの設立メンバーは、新潟県内でISP事業を営む5つの会社に所属する人間でした。日本には歴史的に多くの地域ISP事業者が存在しており、新潟県にもこの5社を含め多くのISPがあります。ENOG設立前からそれぞれ顔見知りの関係にはありましたが、定期的に集まって技術や運用の話をする機会はありませんでした。幸運なことに、ちょうど私と同年代のエンジニアが各社におり、それぞれが私と同じように転職して地元に戻ったというバックグラウンドがあり、コミュニティ活動の価値についても同じ意識を共有することができました。タイミングと人に恵まれたのだと思います。設立から現在に至るまで、途切れることなく2ヶ月に一度のペースでミーティングを開催しています。隔月でやるなんて大変でしょ!とよく言われますが、5社+αが持ち回りで分担しているので、実はそんなに大変ではありません。年に一回程度、会場を手配してネタを仕込んで発表すればいいだけです。もちろん、持ちネタがあれば自分の幹事回でなくても自由に発表できます。

最初は創立メンバーのISP事業者5社が中心でしたが、その後CATV事業者やデータセンター事業者など、県内の他の会社のメンバーも定期的に参加してくれるようになり、裾野が広がりました。また当初立ち上げの経緯からJANOGとの繋がりも強く、JANOGで常連となっている東京の大手事業者やその他の地域の事業者に所属するメンバーの参加も多くあり、毎回のように刺激的で面白い発表をしていただいています。地域の中だけに閉じるわけでもなく、地域の外に依存するわけでもなく、結果的にちょうど良いバランスが保てていることも、長続きした要因だと考えています。

ENOGの活動や発表資料は基本的に全てウェブ上に掲載していますので、どんなことをやっているのか興味があれば、ぜひENOGのウェブサイトをみてください。さらに言えば、ENOGはいつでも誰でも大歓迎です。機会があれば、参加して、発表して、一緒に懇親会で盃を交わしていただけたら、本当に嬉しいです!

ENOGを通じて自分が感じていること

ENOG設立の話が出たとき、実を言うと私はやや消極的で、新潟でやっても長続きしないだろうと思っていました。ところがやってみたら思いの外うまくいって、今となってはENOGがあって本当に良かった、新潟でENOGのない生活など考えられないというくらいの気持ちになっています。

2004年に東京から新潟に転職したのは、子供のためにも自分のためにも、新潟の自然豊かな環境で生活したいと考えたのが理由でした。転職を決めた当時は、正直仕事のやりがいという面では多少諦めざるを得ないだろうと覚悟していました。ところが、新潟に戻ってもう15年以上になりますが、ずっとそれなりにやりがいのある仕事ができている実感があります。それは間違いなく、業務とコミュニティ活動が両輪となって自分に刺激やモチベーションを供給し続けてくれているからで、とりわけENOGというホームグラウンドを持っていること、そこに気の知れた仲間がいるということが精神的にも本当に大きいと思っています。

東京などの都会に比べて地方は確かに人が少ないし、いろんな意味でレベルの差は感じます。しかし、ただちょっと少ないだけで、決して人がいないわけではないんだということをENOGの活動から学びました。地方にも確実に人材はいます。飛び抜けてすごい人もいます。近年はリモートワークの環境も整い、豊かな生活環境を求めてUターンやIターンをする人も増えていると感じます。地域にいる人との繋がりを発掘し、仲間になり、互いに刺激を与え合う関係を作ることができれば、どこにいても仕事のやりがいは見つけられるし、技術へのモチベーションは高められる。なにより仲間と定期的に集まって、ミーティングのあとは一緒にお酒を飲んでいろんな話をして、本当に楽しい時間を過ごせる。ENOGをやってきて私が得られたものは、こういうことだと思います。

他地域のNOG

ENOGのような地域NOGが他にもたくさんあるかというと、実はあまり数は多くありません。やはりENOGはいろんな幸運が重なってここまでうまくいったのだろうと思っています。しかしENOG設立以後、2014年には九州・沖縄地域のQUNOGが、2019年には東北・北海道地域のTDNOGが設立され、どちらも順調に活動を続けています。地域ごとにそれぞれの事情があり苦労があると思いますが、これからもいろんな地域にNOGが設立され、地方にいるネットワークエンジニアが活性化されることを、そして地方が全体的に元気になることを、心から願っています。

もしもあなたがネットワークエンジニアで、自分の地域にはNOGがないんだよなーと残念に思っているのだとしたら、とにかく仲間を見つけて、自分たちのNOGを作ることをおすすめします。たった一人ではつらいかも知れないけど、二人いればなんとかなるし、三人いればかなり強力です。一度やり始めれば、意外となんとかなるものです。そしていつかぜひ、一緒におらが地域の自慢と、地域NOGの楽しさや未来を語り合いませんか。その日が来ることを楽しみにしています!


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