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物書きとマジシャン#25

「お前さんの師匠、アレクの親父さんだな、
うちの息子を引き上げてくれて感謝してるんだ。」

 アレクが興味深そうに尋ねる。

「何があったんです?」

 当時は小さかったから無理もない。

 ヴォルガさんも「ああそうか」と僕の目を見て察したらしい。


「うちの息子のヴォルフだが、
当時はまだただの"酒場の二代目"でしかなかったんだ。」

 街の至る所に警備兵の詰め所が設けられ、今はすっかり治安が良くなったメイサの街だが、当時まではそうではなかった。

 ほら、はちみつ漬けのお遣いに出た帰りの時にって話をしたでしょ。

「今はもう評議員の一人だな。
ヴォルフ評議の親父さんって呼ばれるようになっちまった。」


「呼んだか?」

 ヴォルフさんの馴染客がちょうど帰ったところで、僕の隣に座る。

「おう、なんだか随分話し込んでたじゃないか。」

「ああ、友人が南の商団の人間と話をしたいって言うから、ちょっと相談をしていたのさ。」

 ただの馴染客ってわけではなかったようだ。


 繋がりがあるんですか?

「ああ、俺の唯一の取柄みたいなもんだからな。」

 へえ、何か良い話があればぜひ相談に乗ってもらいたい。


 ――確か、師匠が連盟の話だからって不安がってました。
重荷を負わせちゃったみたいで大丈夫だっただろうかって。

「アレンはそんなことを言っていたのか?」

 ええ、自分の商売がある俺には荷が重いって話から。

「ははは、アレンらしいな。
それを言うなら各商団から国柄のバランスよく、しかも身元がしっかりした警備兵を編成してくれって話の方がよっぽど重たかったけどな。」

「ああ、あったなそんなこと。
親子で何かを真剣にやったのはあれが初めてだったんじゃないか?」

「そうそう。
まあだから、実際親父の名誉みたいなもんだよな。」

「ははは、俺はそんなんはどうもな。」


「親父は死ぬまでここに立つ気だろう?」

「もちろんだ。
なんだ?早く継ぎたいか?」

「そうじゃねえさ。
親父がここに立ってるから、みんな来るんだって思ってるからな。」

「今もか?」

「うーん。半々かな。」

「言うじゃねえか。」

 評議員も担いながら酒場もできるのかと尋ねてみようかと思ったら、アレクもそう思ったらしい。

「酒場と評議員って両方こなせるもんですか?」

 ヴォルフさんが、うーんそうだなと少し考える。

「連盟が無茶を言ってこなければだな。
ここはもうすっかり取引の街として世界に名が通ってしまった。
国も公館を設けるほどさ。
ただ、取引は商人がいないと話にならない。」

「貴族は商売なんかしないでしょうからね。」

「そうだな。
国の財源にも関わるし、下手をしたら取引の利益が自国の国民が治める税金より多いって国もあるくらいさ。」

「へえ、そんなにですか。」

「まあ、だから俺らがまだまだ元気なうちは商人の力が強いはずさ。
実際、評議会と商人の会合とどちらの影響力があるかと言えば、会合の方だろう。警備の話だって商人会合から決まった話だしな。」

 まだ連盟は揉めているんですか。

「そう。それぞれの国が自分に少しでも有利にしたい思惑があるうちはもめ続けるさ。むしろこのままの方が平和かもしれない。」


「俺もこの期に及んで戦はごめんだな。」

 ヴォルガさんが口を開く。

「もう国からの勲章だの税金免除だのは必要ない。
この店があれば十分だ。」


※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。


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