物書きとマジシャン#38
「危ない人かと思いましたが普通に良い人でしたね。」
正午はすっかり越えてしまい、陽が傾きつつあるので早々に帰らないと慣れない土地で闇をさまよう事になる。
頼れる場所も知り合いもこの辺りにはいない。
最悪、来た道を戻ってバーナックさんを頼るしかないだろう。しかし、あの小屋で3人が無事に夜を過ごせるとは到底思えない。
この辺りはオオカミも多い上に、ノスの野盗も山には潜んでいるはずだ。
「結局、農家の人とは話が出来ませんでしたね。」
物乞いと思われているのもあっただろうけど、彼らはよそ者と親しそうに話をするだけで捕まったりすることもあるからね。
「そんなことがあるんですか?」
そうだよ。村の話を少ししただけでも、秘密を漏らしたって密告されることになりかねないし、何ならそれを利用されて、誰かの隠してた罪まで着せられかねないから、危ないったらありゃしない。
「うわあ。なんでそうなっちゃうんですかね。」
そうやって互いを監視させることで国の瓦解を防いでると言えば、防いでるんだろうね。
「逃げる気になれば、逃げれるんですかね。」
出来ない事は無いはずだけど、逃げるにもお金と場所が必要だから、そうできる人が少ないんじゃないかな。
余裕のある人たちはそもそも指導部側にいて優遇されてるから、粛清に巻き込まれそうになって亡命するくらいじゃない?
「粛清?」
ああ、指導部側の人間でも元首に逆らう力を持っていて裏切る恐れがある人物には疑いをかけて処刑するんだよね。
あと意に沿わない事をした人物とかさ。
「ずいぶん曖昧な感情で命を奪うんですね。」
ほんとどうしようもない思想だよ。
「街がうっすら見えてきましたが、
ここも放置されている畑がありますね。」
まだノスの国境の方が近いし、事情がわからないから手を出さない方がいいかもしれない。
持ち主を探すのも難しいだろうし、そのまま使ってしまっても文句は言われないかもだけど。
「お得じゃないですか?」
周りがどんな人かわからないからね。
収穫の時期に差し掛かってそろそろと思った矢先に、クスリを撒かれて全部ダメになったなんて嫌がらせの話も聞くから。
「…。」
そうなると土自体がダメになって、数年は使えなくなっちゃう。
「…関わろうとする人間って大事なんですね。」
お、良いこと言うじゃん。
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。
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