物書きとマジシャン#39
「お、帰ってきたな。
何人か両替希望の客が訪ねてきてたぞ。」
隣のお店のご主人が待っていたとばかりに声をかけてくれた。
ああ、ごめんなさい。
ちょっと手間取っちゃって。
「ははは、午後から開けますって書置きを見る限り、もう少ししたら帰ってくるはずだって伝えておいたから、急ぎじゃない限りはその辺に居るはずさ。」
ありがとうございます。
「あまり不用意に店を空けるわけにいきませんね。」
ほんとだね。
「結構な道のりでした。
たまにならいいかもしれませんが、これが続くとなると大変そうです。」
うん。ちょっと考えてみようか。
「いたいた、待ってたよ。
メルさん、イリスを替えてくれないか。」
ああ、お待たせしてすみませんね。
「銀貨が50枚、銅貨が30枚あるんだが――」
「――師匠、今日は忙しかったです。」
ごめんね、朝早くから。
「途中で商館にお遣いに行きましたが、
今日は飛び込みが多かったですね。」
このくらい来てくれると良いね。
「ちなみに、今日だとどのくらいなんですか?」
うーんと、メイサ銀貨7枚、銅貨が11枚。
イリス銀貨5枚、銅貨で4枚。
これが今日の利益だね。
「結構な量の持ち込みがあったのが大きかったですね。」
そうだね、特にイリスからメイサに替えたいって人の量が多かったから、多少サービスしても取り分が大きくなったのが良かったな。
どうしてもイリスが今弱い分、少なく感じちゃうんだよ。
「どういうことです?」
今、メイサの住人がイリス通貨でメイサを買い戻す場合、メイサが1.6倍も強いんだ。
「1.6倍ですか。」
そう。10枚のイリスをメイサに交換だと差し出して、お客さんは6枚しかもらえない。
「4枚取られた感覚になっちゃうんですね。」
その通り。ぼくたちも手数料を貰わないと商売にならないからね。
そこから手数料を取るとなるとどうだい?
「お客さんは余計に損した気分になりますね。」
それに、お客さんはメイサの住人であれば、普段街を歩いていてもふと顔をあわせることだってあるだろう。
「気まずくなりますね。
別に悪いことをしているわけじゃ無いんですが。」
そうなんだよね。
お互い解っちゃいるのさ。いるんだが、どうしても本能の領域のひとつである損得勘定の不満は遺恨を残すことが多い。
だからこそ、まとまった量を扱わせてくれるお客さんは特に、ありがたい存在なんだよ。
「そうか、量が多いから手数料が目立たなくなるんですね。」
そう。
そしてそういうお客さんは、今日明日の生活費に困っていないからね。
「それはそうですね。
意外と気を遣うんだなあ。」
だけど、注意したいのは様子見で少しだけってお客さんかな。
「どういうことですか?」
どんな商人か見極めたいのさ。
いきなり大金を扱わせるなんて怖くてできないでしょう?
「ああ、なるほど。」
だから量が少ないからって手数料を取りすぎるのも考え物なんだよね。
「具体的にどうしてるっていうのはあるんですか?」
あるよ。ああ、それこそ付き合う人は選べって話になっちゃうかもね。
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。
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