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『愛しているのその前に(後編)』#テレ東ドラマシナリオ

【テーマ作品】


【あらすじ】

 三島美咲(29)が宮永晴人(31)からのプロポーズを断った理由。それは美咲の脳に腫瘍が見つかったからだった。手術の結果次第で今度どういう生活になるのか、全くわからない状況の中で、宮永に心配をかけたくなかったのだ。美咲の母、美雪に美咲の状況を告げられた宮永は病院に駆けつける。


 手術を控えた美咲に『好きだ』と言葉にして伝えるも、当然美咲に理解されることなく、宮永はちゃんと自分の気持ちが伝えられているのかどうか不安にかられる。手術当日、病室で美咲に『好き』と言われる宮永。言葉の意味なんてわかっていない、宮永のマネをして口にした言葉だったが、それでも嬉しくて、ようやく自分がしたことの重大さを思い知る。

 謎の男との再会を果たした宮永はどうにか『好き』という言葉を取り返すことに成功する。美咲の手術も無事に成功し、『好き』が戻った世界で元どおりの生活を送る二人。退院した美咲に2回目のプロポーズをする宮永。二人は永遠の愛を誓う。


【人物】

宮永晴人(31)宣伝部
三島美咲(29)美容部員・晴人の恋人
大村翼(26)宣伝部・宮永の部下
田辺由香里(29)美容部員・美咲の同期
三島美雪(57)美咲の母
謎の男     正体不明。よく見ると年をとった晴人の姿にも見える
医者      
看護師

その他


【2−1】 という訳で彼氏と別れました

◯大井大学病院・A棟801号室
6つほどベッドがある大部屋。
髪を短く切った三島美咲(29)がベッドの上で食事をとっている。胸元には宮永から貰ったネックレスが光っている。
美咲「味薄!本当にこんなに美味しくないんだ」
バタバタと言う足音とともに大きなカバンを持った三島美雪(57)が病室に入ってくる。
美雪「ちょっと!美咲!あんた大丈夫なの!?」
美咲「あ、お母さん。来てくれたんだ」
美雪「来てくれたんだじゃないわよ!久しぶりに電話して来たと思ったら急に死ぬかもしれないなんて言われて!来ないわけないでしょ!」
美咲「ごめんごめん。驚かせて」
美雪「お母さん先生にご挨拶に行ってくるから」
美咲「いいよそんなの。迷惑だから」
美雪「こういうのはちゃんとしとかないといけないの!」
美雪、美咲のいうことを聞かずに病室を出て行く。
美咲「あーあ」
美咲、食事をやめて、ベッドに寄りかかり、スマホで宮永との写真を見ている。
美咲N「この感情には、名前があってもいいはずだ。もしかしたら日本にないだけで海外では名前が付いていたりするのかもしれない。アンニュイとかセンチメンタルとか日本語では表せなかったそういう感じで。もしあるのなら教えて欲しい」

◯同・診察室
美雪と医者がレントゲンを見ながら話をしている。
美雪「それで、あの娘の病状はどうなんですか?助かるんですか?助かるんですよね」
医者「お母さん、落ち着いてください。ここ、わかりますか?娘さんの脳には大きな腫瘍があります」
美雪「はい」
医者「これを摘出する手術をします」
美雪「それで、助かるんですよね」
医者「立場上、絶対とは言い切れません。しかも腫瘍がある場所が非常に厄介で、命が助かったとしても、植物状態になる可能性、障害が残ってしまう可能性もあります」
美雪「そんな…どうしてうちの子が…」
医者「覚悟はしておいてください」
美雪、ショックを隠しきれない様子。

◯同・A棟801号室
美咲がスマホで宮永との写真見ているところに美雪が戻ってくる。
美雪「晴人くんにはちゃんと話たの?」
美咲「別れた」
美雪「別れた!?そろそろプロポーズされるかもって言ってたじゃない」
美咲「嫌いになっちゃったんだもん。色々あんの」
美雪「会社は?」
美咲「辞めた」
美雪「辞めた!?病気なんだから辞めなくたっていいじゃない。休職するとか、色々し手段はあったんじゃないの?」
美咲「嫌だったの、心配されるのが嫌いなの、私。お母さんだって知ってるでしょ?」
美雪「知ってるけど…」
美咲「休職なんかして病気のことが会社にバレたら、病気なんて可哀想ねってみんなに言われて。もし、手術が失敗して職場に戻れなかったら、私、一生可哀想な人なの?そんな耐えられない!」
美咲、美雪に枕を投げつけて布団に潜ってしまう。
美雪「美咲…」
アナウンス「面会終了の時間です。ご面会中の方は速やかにご面会を終了して頂きますよう、お願い申し上げます。」
美雪「明日も来るからね」
美雪、病室を後にする。

◯同・A棟801号室(夜)
消灯後の病室。横になった美咲がネックレスを握りしめながら泣いている。
美咲N「なかなか素直になれなかったけど、本当はいつも嬉しかった」

◯(回想)美咲の部屋・内
年齢相当のアパート一室。
大きなドレッサーとコレクションのように飾られている大量の化粧品が目立
つ。
美咲、雑誌で最新の化粧品をチェックしている。宮永が、その隣でテレビを見ている。
宮永「俺は仕事より美咲ちゃんの方が好きだけどな〜」
美咲「それとこれとは別の話でしょ!」
宮永「だって好きなんだもーん」
美咲N「いつもあなたが言っていた顔が真っ赤になるとびっきりの言葉はなんだかぼんやりしてしまって思い出せないけど」

◯(回想)遊園地
宮永、美咲を思いっきり抱きしめる。
美咲「ちょっと!みんな見てますから!」
美咲ネックレスをつけて、
宮永「似合ってる!可愛い!大好き!」
美咲N「私はあなたのことが本当に…丁度いい言葉が見つからないんだけど、なんていうか、これからも一緒にいたいと思った」

◯大井大学病院・A棟801号室(夜)
消灯後の病室。横になった美咲がネックレスを握りしめながら泣いている。
美咲N「プロポーズされるのだって、なんとなく分かってた」

○(回想)レストラン(夜)
慣れないレストランに緊張気味の宮永と美咲。
指輪を出して、
宮永「僕と結婚してください」
美咲、返事こそしないが目に涙を浮
かべ宮永に差し出す。
宮永、震えた手で、指輪をはめようとするが、指輪が指を通る前に美咲が手を引っ込めてしまう。
宮永「美咲ちゃん?」
美咲「ごめんね、晴人。わたし、晴人とは結
婚できない。今までありがとう、バイバイ」
美咲、店を飛び出して行く。

◯(回想)道
レストランから飛び出して来た美咲。
頭が痛くなってしゃがみ込んでしま
う。
美咲「痛たたた」
指輪がはめられることのなかった左手を見つめて、
美咲「私だって結婚したかったよ」

◯美咲の部屋・外(夜)
美咲を訪ねて来た宮永に美雪が頭を下げている。宮永に一枚の紙切れを渡す。
宮永「何ですか、これ」
美雪「面会時間は11時から、もしよかったら行ってあげて欲しいの」
紙を見てみると『大井大学病院A棟801号室』と書かれている。

◯井大学病院・A棟801号室
美咲がベッドの上で食事をとっている。
美咲「…美味しくない」
いきなり、カーテンが開けられる。
美咲「お母さん、毎日来なくてもいいから」 美咲が顔を上げるとそこに立っている
のは宮永晴人(31)。
美咲「晴人…」
宮永「何で言ってくれなかったの?」
美咲「誰に聞いたの?帰って」
宮永、美咲を抱きしめて
宮永「良かった、見つかって」
美咲「何で来たの?帰ってよ!」
言葉とは裏腹に宮永に抱きつく美咲。

◯同・屋上
ベンチに座って話す宮永と美咲
宮永「大丈夫寒くない?」
美咲「うん。たまには外の空気も吸わないとね」
宮永、美咲のネックレスに気がついて
宮永「付けてくれてるんだ」
美咲「ごめん、外す」
宮永「嬉しいんだから付けといてよ」
美咲「だって私…」
宮永「まあ、俺のこと頼ってくれなかったことには怒ってるけど、会いたいって思ってくれてから許す」
美咲、宮永の手を握る。
宮永「ん?」
美咲「なんか、急に手繋ぎたくなった」
宮永「言い過ぎは良くないとか言うけど、
やっぱ俺、美咲ちゃんのこと好きだわ」
美咲「ねえ、晴人?」
宮永「何?」
美咲「好きって何?」
宮永「(驚く)!なんだろうね…病室、戻ろっか」
手を繋いだまま病室に戻っていく二人。

【2−2】 「好き」って何ですか

◯福福デパート・シーズン商品売り場
親子連れで溢れかえる売り場。
着ぐるみを着た宮永が子供に風船を配っている。
隣で大村翼(26)が子供達を誘導している。

◯同・バックヤード
大村に先導されてバックヤードに戻ってくる宮永。
宮永、着ぐるみの頭を外して
宮永「暑い、しんどい、無理」
大村「お疲れ様です」
宮永「後輩なんだからお前やれよ」
大村「それは無理っすね、身長でかいんで」
宮永「さり気なく自慢すんな!」
大村「今水持って来ますね」
宮永「よろしく〜」
田辺由香里(29)が通りかかる。
由香里「宮永さん?何やってるんですか?」
宮永「見ればわかるでしょ、販売促進。いる?風船」
由香里「いりません。そんなことより、見つかりました?美咲の居場所」
宮永「あー…実家!実家にいた。心配しないでって」
由香里「本当ですかあ?ならいいんですけど。美咲に言っといてください、1回くらい返事しろって」
宮永「わかったわかった」
売り場に戻っていく由香里。
その後ろ姿に手を合わせて誤っている宮永。
大村が水とタオルを持って戻ってくる。
大村「何やってるんすか」
宮永「いや、何でも」
大村「30分休んだ、もう一回風船配りますからね」
宮永「了解、了解」
大村「俺、風船の準備してくるんで宮永さんは休憩どうぞ」
宮永「どうも」

◯(回想)大井大学病院・屋上
ベンチに座って話す宮永と美咲。
美咲「ねえ、晴人?」
宮永「何?」
美咲「好きって何?」

◯福福デパート・バックヤード
休憩中の宮永。
宮永「何なんだろうなあ、好きって。…もしかして、やばいもん消しちゃったんじゃ?」

◯大井大学病院・A棟801号室(夜)
美咲が本を読んでいる。
走って病室にやってくる宮永。
宮永「ギリギリセーフ!」
美咲「え!来たの?毎日来てくれなくてもいいのに」
宮永「30分しか会えなくても毎日来るよ」
美咲「どうして?」
宮永「好き…じゃなくて一緒にいたいから」
美咲「ねえ、この前から言ってるその好きって何なの?呪文?おまじない?」
宮永「うーん…一緒にいると、ドキドキすること、もっと一緒にいたいなって思うこと、一緒にいるだけで嬉しくて楽しいこと、その人のために何でもしてあげたくなること、見つめ合うと目頭が熱くなること、心臓がキューってすることをまとめてギュってしたのが『好き』かな?」
美咲「何それ、意味多すぎない?アロハみたいなこと?」
宮永「たぶん違う。ねえ!見てこれ」
スマホで着ぐるみを着た写真を見せる。
美咲「何これ!」
宮永「これね、中身俺なの」
美咲「え!嘘!可愛い〜!」
宮永「でしょ。めっちゃ暑かったよ」
アナウンス「面会終了の時間です。ご面会中の方は速やかにご面会を終了して頂きますよう、お願い申し上げます。」
宮永「あ、もう帰らなきゃ」
立ち上がる宮永。
美咲、宮永の手を掴んで
美咲「ねえ!…その写真送って」
宮永「いいけど、こんなのどうするの?」
美咲「待受にする」
宮永「じゃ、また明日」
美咲「また明日」
病室を後にする宮永。

◯公園(夜)
宮永があの日のようにベンチに缶
チューハイを置いて謎の男を待っている。
宮永「おーい、じーさん。出てこーい」
しかしいくら待っても謎の男が現れる気配はない。
宮永「じーさん!『好き』返してよ!あれがないと俺の気持ち、全然美咲ちゃんに伝わらない!」
その後も凍えながら謎の男を待つが結局姿を表すことはなかった。

◯大井大学病院・A棟801号室
花束を持って病室に訪れる宮永。
眠っている美咲。
宮永、美咲の寝顔を見ながら、
宮永「こんなに好きなのに、こんなに大切なのに。俺の気持ちちゃんと伝わってる?」
美咲、目を覚まして
美咲「あれ、晴人」
宮永「おはよ」
美咲「おはよう」
宮永「お花買ってきた」
美咲「あはは、なんかより病人ぽいからやめてよ」
宮永「いいじゃん別に。綺麗だろ」
美咲「綺麗だけどさ」
宮永「…明日だね、手術」
美咲「うん」
宮永「大丈夫、絶対成功するよ」
美咲「もし、手術が失敗して歩けなくなっちゃったらさ」
宮永「大丈夫、俺が車椅子でどこにでも連れて行くし」
美咲「もし、目がさめなかったらさ」
宮永「大丈夫、目がさめるまで、こうやって毎日会いに来るよ」
美咲「もし…」
宮永「大丈夫だから」
美咲「…ねえ、明日も来てくれる?」
宮永「もちろん」
美咲「ありがと」
宮永「喉乾かない?売店で飲み物買って来るよ。待ってて」
逃げるように病室から出て行く宮永。

◯同・廊下
宮永、病室から出て泣いてしまう。

◯同・A棟801号室(夜)
消灯後の病室。美咲が待受にしている宮永の着ぐるみの写真を見ている。
美咲「…好き…か」

◯同・A棟801号室(朝)
美咲と美雪が話している。
そこに宮永がやって来る。
美雪「あ、晴人くん!今日仕事休んでくれたんだって?ありがとね、美咲のために」
宮永「いえ、僕がそうしたかったので」
美雪「良かったわね、美咲。じゃあ、あとは二人で。美咲、頑張るのよ」
美咲「うん」
美雪が病室から出て行く。
宮永「体調は?」
美咲「大丈夫」
宮永「そっか…」
美咲「ちょっと黙らないでよ、私より緊張するのはやめて」
宮永「だって、でも、いや!美咲ちゃんなら大丈夫!大丈夫大丈夫」
美咲「なんじゃそりゃ」
宮永「ずっと応援してるから、大丈夫!」
美咲「ねえ、晴人。好き、だよ」
宮永「え?」
美咲「ごめん、意味は正直よくわからないんだけど、晴人が言ってくれた時、なんか嬉しかったから。言ってあげたくなった」
宮永が涙ぐんでいる。
美咲「やだ、なんで泣いてんの?」
宮永「初めて言われたかも、美咲ちゃんから『好き』って」
美咲「そんなに嬉しい言葉なんだ」
宮永「そうだよ!好きな人に好きって言われたらめちゃくちゃ嬉しいんだよ!」
美咲「いいなあ〜私もそんな気持ち味わってみたい」
宮永「美咲ちゃん!好きだよ、大好き!」
美咲「(首を傾げて)あんまりよくわかんないや」
宮永「わかんないよね」
美咲「ごめんね」
宮永「美咲ちゃんは悪くないから、悪いのは全部俺だから」
病室に看護師が二人入って来る。
看護師「三島美咲さん、時間ですので移動しますね」
美咲「はい。晴人、行ってくるね」
宮永「行ってらっしゃい、ここで待ってるね」
美咲「うん」
ベッドごと運び出されて行く美咲。
ヘナヘナと椅子に座る宮永。


【2−3】 返してください!

◯大井大学病院・屋上
なんとなく病室にいることが出来ずに屋上のベンチで美咲の手術が終わるのを待っている宮永。
傍らには冷めきった缶コーヒー。
宮永、祈るようなポーズをしている。
缶を開ける音がする。
謎の男「冷た!」
宮永が顔を上げると、謎の男が隣に座っている。
宮永「あ!お前!」
謎の男「ダメだよこういうのは、暖かいうちに飲まないと」
宮永「(ため息)」
謎の男「今日は言わないのか、『好き』を返せよ!って」
宮永「返して欲しい気持ちは山々だけど、今日はそれどころじゃない」
謎の男「『好き』を消してみてどうだ?」
宮永「自信がなくなった」
謎の男「自信?」
宮永「手を繋いでみても、抱きしめてみても、ちゃんと『好き』って気持ちが伝えられてるか、ちゃんと伝わってるか全然自信がない」

◯(回想)公園(夜)
酔っ払った宮永と缶チューハイを持った謎の男。
謎の男「いいから、何が欲しい?」
宮永「欲しいものはないなあ〜しいて言うなら、この世から『好き』って言葉を無くして欲しいかな。それならもう好きって言い過ぎることもなくなるし、言われなくて傷付くこともないからね」

◯(回想戻り)大井大学病院・屋上
謎の男「好きって言いたくなくて消したのにな」
宮永「『好き』は伝えなくちゃ意味がない
し、見返りを求めるようなことじゃなかった。気づくのが遅すぎたかな。なあ、じーさん」
謎の男「どうだろうね」
宮永「『好き』ってちゃんと伝えてあげられたら、手術に行く美咲ちゃんをもっと安心させてあげられたかもしれないのに。…どうしよう、美咲ちゃんにもしものことがあったら」
毎度のように、いつの間にか宮永の隣から姿を消している男。空き缶がベンチから落ちて転がって行く。
宮永は気がついていないが、宮永に向かってグーサインをして去って行く謎の男の後ろ姿。

◯同・A棟801号室
手術が終わり、ニット帽を被って眠っている美咲と美咲の手を握ってベッドに突っ伏して寝てしまっている宮永。
ゆっくりと目を覚ます美咲。宮永に気がついて、
美咲「晴人、晴人、起きて」
宮永「んー?」
寝起きの宮永が美咲の姿を捉えて
宮永「美咲ちゃん!良かった!目が覚めて」
美咲「意外と人間ってしぶといもんだね」
宮永「手術終わって第一声がそれって。美咲ちゃんらしいね」
美咲「褒め言葉?」
宮永「褒め言葉でしょ」
美咲「何?第一声は晴人好きだよ、とかが良かった?」
宮永「い、今なんて?」
美咲「好きだよ?」
宮永「意味わかってる?」
美咲「わかってるよ。何言ってんの?」
宮永「嘘、嘘でしょ?」
美咲「何喜んでんの?」
宮永「美咲ちゃん!好き好き好き好き好き好き好き!」
美咲、恥ずかしくなって顔を手で覆う。
美咲「もうやめてってば!」
宮永「ちゃんと伝わってる?」
美咲「伝わってるってば!わかったから!」
宮永「好き好き好き好き好き好き!」
照れている美咲と言葉が伝わっていることが嬉しくてたまらない様子の宮永。

◯福福デパート・シーズン商品売り場
『愛してる』から『好き』に戻ったバレンタインチョコ売り場。
女子中高生や若い女性の姿も目立つ賑やかな売り場。

◯美咲の部屋・内
宮永と美咲が美咲の手料理を食べている。
宮永「うまい!」
美咲「どーも」
宮永「もう体調は大丈夫なの?」
美咲「まだ仕事は厳しいけど、こうやって家でのんびりしてる分には平気」
宮永「すごかったよね、美咲ちゃんの回復力」
美咲「元気だけが取り柄だからね」
宮永「一時期信じられないくらい弱ってたのが嘘みたいだよ」
美咲「あれは自分でもびっくりした」
宮永「もう無理はしないでよね。どんなことでも俺を頼ること」
美咲「はいはい」
宮永「はいは一回」
美咲「はい」

× × ×


料理を食べ終え、洗い物をしている宮永。
そわそわしている、美咲。背中にバレンタインチョコを隠している。
宮永「洗い物終わったよー」
美咲「ありがと」
宮永「…なんか、隠してる?後ろに」
美咲「…これ」
美咲、ハート型の箱を宮永に渡す。
宮永「これは、もしかして」
美咲「ゴタゴタしてたからバレンタインはだいぶ過ぎちゃったけど。作ったの」
宮永「ありがとう!大事に食べるね!」
美咲「そんな大したものじゃないから」
宮永「俺も、渡したいものがあるんだけど、いいかな」
カバンからあの日渡せなかった指輪を取り出す。
宮永「僕と結婚してください」
あの日と同じように宮永の前に左手を差し出す。
震えた指で宮永が美咲の指に指輪をは通す。ピッタリと美咲の指にはまる指輪。
美咲「晴人、大好き!」
左手の指輪を見て嬉しそうな美咲。
そんな美咲を見て嬉しそうな晴人。

◯道
嬉しそうな顔のまま、空き缶を蹴っ飛ばしながら自宅へと帰る宮永。
宮永「結局何だったんだろうなあ、あのじーさん。まあいっか」
遠くから宮永のことを見ている謎の男の姿。その口元は少し笑っている。

(完)

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