見出し画像

『愛しているのその前に(前編)』#テレ東ドラマシナリオ

【テーマ作品】

月がきれいですね

【あらすじ】

 「この世界で『好き』と言う言葉を知っているのは、どうやら僕だけらしい。」福福デパートに勤務する宮永晴人(31)は付き合って4年目の記念日に大好きな彼女の三島美咲(29)にプロポーズをする。結果は惨敗。ヤケ酒をしていた宮永は、謎の男に出会い、酔った勢いで『好き』という言葉をこの世界から決してしまう。


『好き』が消えた世界で代用品として使われているのは『愛してる』困ることはないと思っていたが、バレンタインチョコが売れなくなり、困り果てる宮永。宮永は『好き』は気になっていると愛してるの真ん中にある、相手に好意があることを認めるための大切な言葉であるということに気がつく。

 そんな宮永の元に、プロポーズをしたあの日から連絡が取れていなかった美咲が会社を辞めたという知らせが届く。思い出の場所を探し回るが、美咲は見つからない。最後に美咲の家に向かうと家から出て来たのは美咲ではなく美咲の母親。美咲が入院していることを告げられる。


【人物】

宮永晴人(31)福福デパート勤務・宣伝部
三島美咲(29)美容部員・晴人の恋人
大村翼(26)宣伝部・宮永の部下
田辺由香里(29)美容部員・美咲の同期
林裕二(45)宣伝部・宣伝部長
坂下夏菜子(24)広報部
三島美雪(57)美咲の母
謎の男     正体不明。よく見ると年をとった晴人の姿にも見える

その他

【1−1】 『好き』を消してください

○福福デパート・シーズン商品売り場                  デパートの催しものスペース。
お正月の飾り付け、売れ残った福袋を
片付けている、宮永晴人(31)と大村翼(26)。
宮永「これでやっと俺たちも正月休みだな」
大村「宮永さん、ついに作戦決行ですか?」
宮永「そうだよ!今夜!作戦決行!ここだけの話、冬のボーナスは全部アレになった」
大村「マジすか、エグ」
宮永「でも一生に一回だからね、美咲ちゃんが喜んでくれれば良いんだ〜」
大村「宮永さんって本当一途ですよね。絶対成功しますよ、今日。」
宮永「やっぱり、そう思う?」
大村「はい!宮永さん、ガンバです!」
黙々と作業する二人。

○同・男子トイレ                           宮永が鏡の前で、デート前の女の子のように髪型やネクタイを気にしている。
宮永「僕と結婚してください!」
プロポーズの練習をしていると掃除のおばさんが入ってきて目が合う。気まずい空気。

○同・化粧品売り場                         『蛍の光」が流れている閉店間近の店内。もう客はほとんどいない。三島美咲(29)と田辺由香里(29)が売り場の片付けをしている。
由香里「ね、今日飲み行かない?」
美咲「あーごめん、今日予定あるんだよね」
由香里「あ、デート?」
美咲「そう、デート」
由香里「あんたたち長いよね、もう3年くらい?」
美咲「今日で4年」
由香里「まじ!?もう結婚するやつじゃん」
美咲「どうかな?」
由香里「お互い、今の彼氏逃したらアラサー
にとって損害でかいよ〜。美咲はもう宮永さんにしときな」
美咲「確かに、最後の恋かもね」
美咲、思い悩んでいるような表情を浮かべている。

○同・バックヤード                          帰宅する宮永。すれ違う販売員たちと愛想良く「お疲れ様です!」と挨拶を交わしている。

○同・化粧品売り場
化粧品売り場で遠くから美咲を探している宮永。美咲を発見して笑顔で大きく手を振る。
宮永の姿に気がつく由香里。
由香里「ね、宮永さん」
美咲「うわ、手降ってる…まだ営業中だってば…」
小さく手を振る美咲。
宮永「(口パクで)外で!待ってる!」
美咲「(口パクで)え?」
宮永「(口パクで)外で!待ってる!」
美咲、小さくOKサインをする。                    宮永、嬉しそうに外に出て行く。
由香里「いいな〜。この年齢になるとさ、いないよ、あんなに好き好き〜って素直にアピールしてくれる人」
美咲「恥ずかしいからやめてって言ってるのに」
由香里「言葉はツンツンしてたって口元緩んでるぞ」
美咲「え…」
由香里「あんたデート中もその調子?たまには言ってあげなよ、素直に好きって」
片ずけを続ける二人。

○カフェ(夜)
寒空の下、誰もいないテラス席で震えながらココアをすする宮永の姿。
私服に着替えた美咲が早足でやっててくる。宮永を見つけて、
美咲「晴人!何でこんな席にいるの!?」
宮永「外にいた方が美咲ちゃんが見つけやすいかと思って」
美咲、宮永の耳に手を当てて
美咲「バカじゃないの!?耳もこんなに冷たいし」
宮永「あー美咲ちゃんの手あったかい」
そのまま美咲の手をとって、
宮永「じゃあ、行こっか。デート!」
美咲「うん」
手を繋いで歩き出す、二人。

○道(夜)
手を繋いで歩く二人。
美咲「何ニヤニヤしてるの?」
宮永「いや?何でも?」
美咲「ふーん」

○レストラン
慣れないレストランに緊張気味の二人。
美咲「コース料理って何だか背筋が伸びちゃうね。」
宮永「そうだね」
宮本、テーブルの下で指輪の箱を、開けたり閉めたりしている。
美咲「晴人?どうしたの?」
宮永「いや、何でもない」
美咲は嬉しそうに何かを話しているが、宮永は緊張で会話をする余裕がなく、ただただコース料理が進んで行く。

× × ×

テーブルに並べられたデザート。
美咲「ん!これも美味しい!ね?」
宮永「…うん」
美咲「晴人、具合悪いの?いつもだったら、美咲ちゃん、美咲ちゃんってうるさいぐらい一人で喋ってるのに」
宮永「(大きく深呼吸をして)美咲ちゃん、大好きです」
美咲「あ、ありがとう」
指輪を出して、
宮永「僕と結婚してください」
美咲、返事こそしないが目に涙を浮かべ宮永に差し出す。
宮永、震えた手で、指輪をはめようとするが、指輪が指を通る前に美咲が手を引っ込めてしまう。
宮永「美咲ちゃん?」
美咲「ごめんね、晴人。わたし、晴人とは結
婚できない。今までありがとう、バイバイ」
美咲、店を飛び出して行く。
宮永「…え?」
宮永、状況が理解できず、指輪を手に持ったまま、立ち尽くす。

○公園
ベンチに座り、缶チューハイを飲んでいる宮永。ベロベロに酔っ払っている。地面には空き缶が数本落ちており、宮永の隣には未開封の缶が1本。
美咲に電話をかけている。
電話アナウンス「おかけになった電話番号への通話は、お客様のご希望によりお客様のご 希望によりお繋ぎできません」
宮永、電話を放り投げる。
宮永の様子を遠くから見ている謎の男。
宮永「(大声で歌って)もう恋なんてしないなんて〜言わないよ…ん?違うこの曲じゃない」
謎の男が宮永の隣に座り、缶チューハイを買ってに開ける。
宮永「あ!最後の一本!誰ですかあなた」
顔をよく見ると歳をとった宮永の姿にも見える。
謎の男「まあまあ、フラれたんだろ。愚痴聞いてやるから一本よこせ」
宮永「んー…じゃあ一本分ちゃんと聞いてくださいね」
缶チューハイに口をつける謎の男。
宮永「家にもいない、LINEもブロック、着
信拒否。俺、フラれたんすよ。4年も付き合ってたのに、たった一言で。本当に好きだったんすよ、本当に本当に好きだったんです。どこがとかじゃなくて全部好きだったんです。でもね、思い返してみれば、美咲ちゃんは全然俺のこと好きって言ってくれてなかったなって。付き合ってたはずなのに、片思いだったんすかね。俺は自分の思いを伝えるばっかりで、全然美咲ちゃんの気持ち考えてなかった」
宮永、ポロポロ泣き出してしまう。
謎の男「(缶を指差し)これのお礼に、お兄ちゃんの願い事何でも叶えてやるよ。何が欲しい」
宮永「人の酒勝手に飲むような人がそんなことできる訳ないでしょ?ランプの妖精的な?」
謎の男「いいから、何が欲しい?」
宮永「欲しいものはないなあ〜しいて言うなら、この世から『好き』って言葉を無くして欲しいかな。それならもう好きって言い過ぎることもなくなるし、言われなくて傷付くこともないからね」
謎の男「本当にそれでいいんだな」
宮永「いいよ〜てかそんなことできる訳ないじゃん」
謎の男「わかった」
そう言って去っていく謎の男。
宮永「美咲ちゃん…」
宮永、ベンチに横になり眠る。


【1−2】 バレンタインチョコが売れません!

○福福デパート・給湯室
宮永がやつれた顔でコーヒーを入れていると、坂下夏菜子(24)がやってくる。
夏菜子「あ!ちょうどいいところに宮永さん!もし良かったらチョコレート食べませんか?広報部宛にお客様から頂いたんですけど、みんな食べなくて」
宮永「食べる食べる!俺チョコレート好きなんだよね」
夏菜子「…好きって何ですか?」
宮永「え?好きは好きだよ」
夏菜子「新しい若者言葉ですか?」
宮永「…いや、いいや。忘れて。チョコレートって美味しいよね、ありがと」
宮永、給湯室から出ていく。

◯同・シーズン商品売り場
デパートの催しものスペース。
バレンタイン用の飾り付けをしている宮永と大村。
考え込んでいる宮永。
宮永声「まさかな…でもやっぱり…?いやーでも、そんなことできる訳ないし。そもそもあのじーさん、何者だったんだ?」
大村「宮永さん、宮永さん!」
宮永「うわ!」
大村「手、動かしてください」
宮永「ごめんごめん」
やっぱり考え込んでしまう宮永。
大村「一年中イベントに追われてますよね、日本って。正月終わったらすぐにバレンタイン。まだ一月っすよ、早くないっすか」
宮永「……」
大村「宮永さん?聞いてます?」
宮永「ん?あ、聞いてる聞いてる。…あのーさ、大村ってさ、好きな女の子からバレンタインチョコ貰ったことある?」
大村「好きな女の子って何ですか?」
宮永「まじか…」
大村「宮永さん、母親以外からチョコ貰ったことあるんすか?」
宮永「あるに決まってんだろ、失礼だな!自慢じゃないけど、高校生の時、クラスで1番可愛い女子に告られてるからな」
大村「嬉しいですか?可愛い女の子からチョコ貰って。重くないですか?」
宮永「何言ってんだよ、いくつ貰っても嬉しいだろ」
大村、宣伝用のポップを宮永に見せる。ポップには『愛してるをちゃんと伝える日』と書かれている
大村「バレンタインは愛してる人にチョコレートをあげるイベントですよ。俺は貰ったら重たいな〜ってちょっと引いちゃいます。だから断られたんじゃないですか?プロポーズ」
宮永「お前〜言うなよそれ〜」
売り場をバレンタイン仕様に飾り付ける二人。ポップや看板、のぼりには『好き』の代わりに『愛してる』が使われている。
宮永N「この世界で『好き』と言う言葉を知っているのは、どうやら僕だけらしい。代用品として使われているのは『愛してる』間違ってないけど…たぶん違う」
宮永「ま、いっか。困ることないっしょ」

◯同・オフィス
宣伝部・営業部・広報部・総務部などが全てワンフロアにまとまっているオフィス。
宣伝部で宮永、林を含めた数名の社員が働いている。
林裕二(45)が売り上げ金額の資料を片手に貧乏ゆすりをしている。
林「おい!宮永!どうなってんだ!」
怒鳴り声にフロア全体が静まりかえる。
宮永「はい!何、が、でしょうか」
宮永、林のもとに駆け寄る。
林「今年のバレンタインの売り上げ、去年の同時期と比較して3分の1減だぞ!どうなってんだ!」
宮永「え!?」
資料を見ると確かに売り上げ金額が3分の1になっている。
宮永「本当だ…」
林「どうしたらこんなことになるんだ!ちゃんと説明しろ!」
宮永「どうしたらと言われましても、去年から何か大きく変更したことはありません」
林「そんなわけないだろ!2月に入ればいよいよ書き入れ時だ。それまでに原因を突き止めて、すぐに改善しろ!」
宮永「は、はい!」
林、怒りがおさまらない様子で席を立つ。
宮永、机に残された資料手に頭を抱える。
宮永「わかんないよこんななこと〜」

◯同・シーズン商品売り場
閑散としているバレンタインチョコ売り場。

◯同・オフィス
宮永が自分のデスクでバレンタインについて検索している。
『【突然】若者のバレンタイ離れで冷え込むチョコレート市場』のページがヒットする。
宮永「若者のバレンタイン離れ?」
『本誌の調査ではバレンタインチョコが重たいと思ったことがあると答えた男性は85%。女性からも、愛してるは重たすぎ。バレンタインは家族とのイベント。などの声が多数寄せられました。』などと書かれている。

◯駅前・街頭テレビ(夜)
人が行き交う交差点。その中に帰宅途中の宮永の姿。
街頭テレビで夕方のニュースが流れている。
テレビ「もうすぐバレンタインですね」
宮永、立ち止まってテレビを見上げる
テレビ「愛してるを伝える特別な日。今日は反抗期の息子にも愛が伝わる、簡単手作りチョコレートを特集します」
宮永「あーもー、どうなってんだよ!あのじーさん!」
宮永、歩き出す。

◯公園(夜)
宮永、凍えながらベンチに座って謎の
男を待っている。
宮永「寒すぎ、何だよ、今日は来ないのかよ」
寒さに耐えられず、自動販売機でココアを買い、ベンチに戻る。
宮永「あ」
靴紐がほどけていることに気がつき、ココアをベンチに置き、縛りなおしていると、缶を開けるプシュっと言う音が聞こえる。
宮永「え?」
謎の男が勝手にココアを飲んでいる。
宮永「あ!じーさん!どうなってんだよ!本当に『好き』が消えてんじゃん!」
謎の男「消せって言ったから消したまでだ」
宮永「意味わかんないよ。ていうかじーさん何者?」
謎の男「消えて嬉しいだろ」
宮永「質問に答えろよ!こっちは消えて困ってんの」
謎の男「何で困るんだ、消えて欲しかったんだろ」
宮永「チョコレートが売れないんだよ、バレンタインの」
謎の男「それは必然だろうな」
宮永「何でだよ」
謎の男、ココアを一気に飲み干す。
謎の男「悪いね、もう飲み終わっちゃったから帰るわ」
謎の男がゴミ箱に空き缶を投げ捨てる。宮永が缶の行方に目を奪われている間に、姿を消している。
宮永「あれ、いなくなってるし」

◯同・給湯室
大村と夏菜子が楽しそうに話している。
そこにマグカップを持ってやってくる、宮永。二人の姿に気づき、身を潜め、夏菜子が出て言ったタイミングで給湯室に入っていく。
宮永「おいおいおいおい、いい感じじゃんかよ!」
大村「宮永さん、見てたんすか?」
宮永「ちょっとだよ、ちょっと。告白しちゃえば?いい感じだったぞ」
大村「そういうのじゃないですから」
宮永「じゃあどういうのだよ」
大村「話してると楽しくて、もっと喋ってたいなあとか、もっと色んなこと知りたいなあとか。気づくと目で追っちゃってたりとか、あと心臓のあたりがキューってなる感じはありますけど、そういうのじゃないです」
宮永「好きじゃん、めちゃくちゃ好きじゃん」
大村「だから何なんすか、その好きって。何語っすか」
宮永「あー…。いいから、告白しちゃえよ告白!誰かにとられちゃうぞ」
大村「告白ってどうしたらいいんすかね」
宮永「そりゃもう思いの丈をぶつけるしかないだろ」
大村「こう、この気持ちを伝えるいい感じの
言葉が見つからないんですよね。宮永さんは美咲さんにどういう告白したんですか?」
宮永「何回も断られたんだけどさ、とにかく、好きです!って何回も……あっ!あーそういうことか」
大村「どういうことっすか」
宮永「何でもない、ありがと」
宮永、給湯室を後にする。

◯同・シーズン商品売り場
親子が数組要るだけの閑散としている売り場。
宮永が売り場の掃除をしている。
宮永N「気になっていると愛してるの真ん中。『好き』って相手に好意があるってことを認めるための言葉だったんだ。その気持ちを伝えるための唯一の言葉」
『愛してるをちゃんと伝える日』と書かれたポップを見て、
宮永「そりゃあ家族のイベントになるよな」
遠くから由香里が宮永の姿を見つけて、怒った様子で宮永の元にやってくる。
由香里「宮永さん!」
宮永「(気まずい様子)あ、由香里ちゃん。久しぶりだね。美咲ちゃん元気?」
由香里「はあ?ちょっと顔かしてください」
由香里、宮永の手を引っ張ってバックヤードに連れていく。


【1−3】 元カノが行方不明

◯福福デパート・バックヤード
由香里が宮永を壁に追い詰めている。
宮永「どうしたの、そんなに怖い顔して。可愛い顔が台無しだよ〜」
由香里「宮永さん、何したんですか」
宮永「何の話?何もしてないよ」
由香里「何かひどいこと言ったんじゃないですか」
宮永「だから何の話?」
由香里「美咲、仕事辞めたんです」
宮永「え?」
由香里「宮永さんとデートに行った次の日から仕事来なくなって、そのまま辞めたんです。どう考えても宮永さんに原因があるとしか考えられません!」
宮永「本当にやめたの?」
由香里「はい。連絡もつかないし。宮永さん、あの日、美咲に何したんですか?」
宮永「…プロポーズ、した」
由香里「ポロポーズ!?」
宮永「断られたけどね。家にもいないし、着拒されてるし、ラインもブロックされてるから、俺もあの日から美咲ちゃんと連絡が取れてないんだよ」
由香里「じゃあ宮永さんが仕事辞めてください」
宮永「はい?」
由香里「きっと美咲はプロポーズを断った宮永さんに会うのが気まずくて辞めたんですよ。だから宮永さんが辞めたら美咲戻ってくるじゃないですか。仕事、辞めてください」
宮永「そんなのめちゃくちゃだよ。それに、美咲ちゃんは俺に会うのが気まずいからとか、そんな理由で仕事を辞めるような子じゃない」
由香里「どうしてそう言い切れるんですか?」
宮永「だって美咲ちゃんは本当にこの仕事が好き…じゃなくて楽しんでやってたし、天職だってよく話してたから」
宮永を離して、
由香里「美咲と連絡がついたら教えてください」
宮永「わかった」
由香里、その場を立ち去る。宮永その場にしゃがみこんでしまう。

◯(回想)美咲の部屋・内
年齢相当のアパート一室。
大きなドレッサーとコレクションのように飾られている大量の化粧品が目立つ。
美咲、雑誌で最新の化粧品をチェックしている。宮永が、その隣でテレビを見ている。
美咲「見て!この色!超可愛くない?」
宮永「え、こういう色持ってなかった?」
美咲「持ってないよ!あれはラメが入ってないの!次の給料日に買っちゃおっかなー」
宮永「美咲ちゃんって本当に化粧品好きだよ
ね」
美咲「うん、大好き。だからね、今の仕事は天職なの!新しい化粧品を一番に使えるし、お客さんにお化粧してあげて喜んでもらったり。本当に好きなんだよね」
宮永「俺は仕事より美咲ちゃんの方が好きだけどな〜」
美咲「それとこれとは別の話でしょ!」
宮永「だって好きなんだもーん」
美咲「そんなに好き好き言ってたら好きって言葉が軽くなっちゃうからやめて!」
宮永「そんなことないもんね、気持ちはちゃんと伝えないと」
イチャつく二人。

◯美咲の部屋・外(夜)
宮永、何度もインターフォンを押すが出てくる気配はない。
宮永「やっぱいないし。美咲ちゃん、どこ行っちゃんたんだよ」

◯福福デパート・オフィス
仕事をしている宣伝部の社員たち。
宮永、仕事をしている格好をしているが全く手につかない様子。
林「おい!宮永!」
宮永「やってます、大丈夫です!考えてます!」
喝を入れられ背筋を伸ばすが、やはり仕事が手につかない宮永。大村がその様子を心配そうに見ている。

◯定食屋
お昼時。サラリーマンたちで満員の定食屋。
大村と宮永が向かい合ってサバの味噌煮定食を食べている。
大村「宮永さん、どうしたんすか」
宮永「何が?」
大村「全然仕事が手についてない感じだから」
宮永「美咲ちゃんがさ、仕事辞めたんだって」
大村「え!?マジすか」
宮永「マジだよ」
大村「プロポーズ断ったから、気まずくなって辞めたんじゃないですか?」
宮永「だからそんなことで辞める子じゃないんだってば」
大村「心配ですね」
宮永「心配に決まってんだろ。あー、ダメだ、俺、早退する!部長に言っといて」
大村「あ!ちょっとまた怒られますよ!」
大村の言葉も届かず、店を出て行く宮永。

◯(回想)カフェ
宮永と美咲、まだぎこちない様子。
宮永「好きです!付き合ってください」
美咲「ごめんなさい。何度も言ってますけ
ど、私、宮永さんのこと先輩としてしか見れないっていうか」
宮永「今日もダメか〜」
美咲「何回言われてもダメです、すみません…」
美咲、気まずそうに水を飲む。

◯同
宮永、思い出のカフェを外から覗くが、もちろん美咲の姿はない。

◯道
宮永が猫でも探しているかのように走り回る。
宮永「美咲ちゃーん!」

◯(回想)大きな公園
緑が多い大きな公園。
お弁当を広げてピクニックを楽しむ宮永と美咲。
宮永「え!本当にお弁当作ってきてくれたの!?」
美咲「もー白々しい。何日も前からお弁当のおかずはあれが好き、これが好きって、作ってくれアピールしてたじゃないですか」
宮永「バレてたか。いただきまーす!うま!」
美咲「まだ味わからないでしょ?」
宮永「いや!本当にうまい!美咲ちゃん料理も出来るの!?もー本当に好き!付き合って!」
美咲「だからからかわないでください!」
側から見ると二人の様子はカップルそのもの。

◯同
やはり美咲の姿はなく、寒くて子供も遊んでいない、がらりとした公園。

◯福福デパート・オフィス
仕事をしている宣伝部の社員たち。
林「おい、宮永はどうした」
大村「早退しました。体調不良で」
林「たくっあいつ。どうしようもねえな」

◯遊園地(夕)
走り回って疲れきった宮永がベンチに座り込む。
宮永「いるわけないよな、こんなとこ。もう心当たりがないよ」

◯(回想)遊園地
並んで歩く二人。
宮永が急に立ち止まる。
宮永「もうこれで最後にする」
美咲「え?」
宮永「好きです!付き合ってください」
美咲「……はい」
宮永「え!?まじ!?本当に?本気で?」
美咲「はい」
宮永「やったー!!!」
宮永、美咲を思いっきり抱きしめる。
美咲「ちょっと!みんな見てますから!」
宮永、カバンからネックレスが入った箱を取り出す。
宮永「これ、成功したら渡そうと思ってたんだ、受け取ってくれる?」
美咲「綺麗!」
美咲ネックレスをつけて、
宮永「似合ってる!可愛い!」
二人、手を繋いで歩き出す。

◯美咲の部屋・外(夜)
宮永、最後に駄目元で美咲の部屋に向かう。
インターフォンを押すと三島美雪(57)が出てくる。
宮永「美咲ちゃん!…のお母さん」
美雪「晴人くん、来てくれると思ってた。」
美雪が、宮永に一枚の紙切れを渡す。
宮永「何ですか、これ」
美雪「面会時間は11時から、もしよかったら行ってあげて欲しいの」
紙を見てみると『大井大学病院A棟801号室』と書かれている。
宮永「病院?」

◯大井大学病院・A棟801号室
消灯時間を過ぎ、暗くなった病室で、髪を短く切った美咲が眠っている。
胸元には宮永からもらったネックレスが光っている。


後編に続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?