ほうれん草の緑色

私が好きな色は黒、白、赤、青、紫。極端で潔く、悪い意味では痛烈な色が好き。でも身に付けること以外で、生活してて好きな色っていくつかある。

会社員時代から、仕事で一杯一杯だけど無理しない程度に自炊はしていて。レパートリーが沢山あるわけでもないというか、調べればネットで沢山色んなレシピが出てくるけれどそこまでは頑張れなくて。野菜はとりあえず炒めるかおひたしにするしか頑張れない時期もあった。
料理はどちらかというと好きだけれど、疲れているときはやりたくないしとても面倒。何で人は食べなきゃいけないのか?毎日違うものを食べなきゃダメ?とかバランスがどうとか無理だよ!考えたり。ひとり暮らしの時より「誰かの分も作る」ということが気づかないフリをしていたけれどどう考えても圧倒的にストレスで。たったそれだけ、な工程ばかりなのにやりたくなくなる。好きなこと、と面倒なこと、は必ず抱き合わせされるもの。

でも鍋に沢山のお湯を沸かして、お塩をばーっと投入し、ほうれん草を入れた時のあの瞬間的な色がとても好きなのです。
鮮やかで深みのあるグリーンが花咲く瞬間。

何故か生命力をすごく感じて、もしかしたら「生活の中で好きな色」一番かもしれない。熱湯の中で舞い広がる感じも相まって心が浄化される感じ。

余裕のない生活をしてたりする時に、このほうれん草の緑色を見るとはっとする。どきりとする。大袈裟かもしれないけど、こんなただ葉物を茹でているだけの行為なのに「あ、綺麗」「ねぇ、見て見て」って口に出したり人に見せたいくらいときめく。熱湯に入れた時の食材の鮮やかさって、食べる頃には同じ色じゃない気がして。花がパッと開くような華やかさ。気持ちの問題かもしれないけど、ほうれん草は特に。おかしなことにキャベツじゃだめなんです。
きっと「ただほうれん草を茹でるだけの映像」を沢山見せられても別にときめいたりはしないのだろう。
もっと美しい自然の空や紅葉の色に感動するべきでは?とすら思うのだけれど、こんな小規模で些細なところでどきりとしたり、ときめける瞬間って素朴な幸せだなと思う。

高価で素敵なものを買ったりするのも間違いなく気分が上がって好きだけど、愛猫の背中に顔を埋めて「お日様の匂いがする」とか、寒くて嫌な時期に庭で咲いてる寒椿が可愛らしいとか、春夏秋冬の季節の初めに外に出るとそれぞれの「季節の匂い」がして「春の匂いがするー!」とか幸せでいちいちTwitterで呟きたくなる。たまに不思議ちゃんアピールかとか思われてるかもしれないけれど、春夏秋冬のそれぞれの匂いってありますよね。とても抽象的だけれど嬉しそうだったり、寂しそうだったり、緊張していたり、怠惰そうだったりする匂い。あれも堪らなく好き。

そして間違いなく、それに気付くことができることがとても嬉しかったりする。

私は強欲だし、感受性強かったりセンスがあるわけでもないからあらゆる物への感謝とかすぐにさっぱり忘れてしまうような人間で。失ってから気付く典型的な愚かなタイプ。だからこそその辺のスーパーで買ってきたほうれん草を茹でたときに色が綺麗だったとか、出掛けてみたらもう春の匂いがしたとかそんなことに気づいた事だけで内心は大はしゃぎできるのです。騒がしくおめでたい。でもそれはそれで良いことなのかも。

以前よりも丁寧な生活に憧れている。余白や余裕に憧れる。珈琲を豆から挽いて飲んだり、繊細な下着を手洗いしたり、シーツにアイロンをかけたり、靴を磨き上げたり、凝った料理を作ったり、丁寧にネイルを塗ったり。

けど、私には難しくて。

ならば、ほうれん草を茹でようかと。比較的お手軽に、実用的に、気分が上がる方法。
明日のご飯は何を作ろう。

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