#2〜開戦〜

ロード・セレスタントのアルヴィン・サンダーブレイドから見て、敵は極めて小部隊だった。
スケイヴンと呼ばれる混沌の鼠人間は一般的に、数にモノを言わせた戦いを得意とする。
しかし、目の前にいる舞台はせいぜい10匹程度である。
おそらく斥候なのだ。
そうであれば、どんな情報であれ奪われてはならない。ましてや、エクセルシスに近づけるなどもっての外だ。
跨るドラコスに命じ、より一層速度を増す。
後ろからはコンカッサー達が遅れることなくついてきていた。
随伴した重戦車ストームストライクチャリオットは意図を汲み挟撃の構えを見せる。
部下達は十二分に有能だ。
まずはあのでかぶつヘルピットアボミネイションを倒す。

「イチゴウを前に出セ!」
スーキノックの甲高い声がアコライト達の耳を突く。
言われずとも、自分達は前に出る気などない。
せっかくモウルダーの奴らに高いカネワープストーンを払って買ったのだ。
使わない手はない。
自分が前に出るなど御免だ。

最初に仕掛けたのはコンカッサーだ。
2人でペアを組むこのエリート部隊は、瞬く間に距離を詰めヘルピット・アボミネイションへと躍りかかる。
そして、握りしめたハンマーに雷光の輝きを乗せて振り回した!
横なぎに振られたハンマーはヘルピット・アボミネイションの横っ面を捉え、その頭を歪ませる。
弾力のある皮膚でも吸収しきれない衝撃と、纏った雷がヘルピット・アボミネイションの頭蓋を揺らした。
だが、同時に怪物もその巨体でコンカッサーの1人を踏み潰そうと躍りかかっていた!
幸にして、ハンマーの一撃により揺らいだ巨体がコンカッサーを踏み潰すことはなかったが、それでも圧倒的な巨体を避けることは難しく、振り回された腕がコンカッサーに当たり、鎧が悲鳴を上げる。
ドラコスから投げ出されたコンカッサーは、腕がもげたかと錯覚する。
「今ダ!投げロ!地獄を見セてやレ!」
そして金切り声と共に毒ガス爆弾ポイズンウィンドグローブが投げつけられた。
ほとんどが狙いを外して行ったが、1発がコンカッサーの至近で爆ぜる。
避ける余裕のないコンカッサーはすぐに息を止めたが、それでも自分の肺が焼かれていくのを感じる。
だが、それに負けてはエクセルシスを守ることなどできぬと自分を奮い立たせ、ハンマーを爆弾を投げてきたネズミへと振り下ろした!
脳天を貫く一撃を加えたつもりだったが、俊敏なネズミ達は辛うじてそれを回避。
だが体は無事でも、戦意を砕かれたネズミ達は散り散りになって逃げ出す!
臆病な混沌ケイオスの手先め。
心の中で嘲ると、怪物の方を向き直る。だが!
天に登るコンカッサーが見た最後の光景は、再び押し潰さんと迫る巨体だった。

「やっタゾ!やっタゾ!やレ!やっチマいナ!」
スーキノックは興奮しながら訳もわからず叫んでいた。
もはやそこに冷静さなど無い。
ただ勝利に狂乱するスケイヴンの姿があった。
ストームキャストも負けてはいない。
コンカッサーに続き、すぐさまアルヴィンが突っ込んだ。
鋭いその槍の先端は、イチゴウの皮膚を貫き内臓に致命的なダメージを与えていく!
お返しとばかりにイチゴウの牙と腕が襲いかかるが、アルヴィンは巧みに盾でいなし纏った雷で逆襲を果たす!
連続して与えられるダメージに、イチゴウの動きが鈍ったその瞬間!
乗り手を失ったドラコスと、残されたコンカッサーが襲い掛かる!
見事な連携にイチゴウは再生も追いつかずその皮膚を切り裂かれた。
アルヴィンが勝利に一瞬気が緩んだその時、引き裂かれた皮膚の中からおぞましき鼠の群れが現れた。
「止めロ!止めロ!」
哀れにも逃げ遅れたアコライトが瞬く間に鼠の群ヴァーミンタイドに喰らい尽くされる。
腹をすかせた鼠達は、そのままアルヴィン達にも襲いかかる。
ただではやられまいと槍やハンマーで応戦するが、多勢に無勢だった。
特に、乗り手を失ったドラコスは何もできぬまま全身を齧られ、のたうち回る。
「モットダ、モット歪みの稲妻ワープライトニングを、モット!」
ただでさえ周囲はひどいありさまだったが、悪夢は重なる。
興奮に満ちた詠唱と共に、穢らわしき黄緑色の光が天より降り注いた。
そして抗うように黄金の稲妻が天へと昇って行った。

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