世界選手権直前!スタンダード変遷解説
皆さんこんにちは。
いよいよ今週末は世界選手権が開幕。競技マジックの頂点を決する激闘は、スタンダードとドラフトの2フォーマットで行われます。
最高峰のプレイヤーたちが名誉と賞金を目指して戦うこのイベントを観戦しない手はありません!
そして、どうせ見るのであれば、各フォーマットへの予備知識があった方が、より楽しく観戦できるでしょう。
というわけで今回は、『イニストラード:真夜中の狩り』が加入してからのスタンダード環境を、時系列でお届けしていきたいと思います。
時系列を飛ばして直接世界選手権のデッキ紹介が読みたい方は、「8.世界選手権の注目デッキ紹介」に飛んでください。
1.グルール旋風
《恋煩いの野獣》や《砕骨の巨人》、《エッジウォールの亭主》がスタンダード落ちした後も、赤と緑の組み合わせは依然として強力でした。
それもそのはず。強力な緑のカードである《レンジャー・クラス》や《エシカの戦車》は残ったまま、新たに強力な赤の狼男が加入したからです。
その名は《無謀な嵐探し》。
出したターンに自分を対象に取ることで実質3/3速攻となり、生き残れば、後続のクリーチャーにも速攻を付与できる強力なカード。特に《エシカの戦車》とは抜群の相性です。
マジックオンライン上で行われたスタンダードチャレンジでは、《無謀な嵐探し》と《エシカの戦車》を組み合わせたグルール系デッキがトップ8の内の約半数を占める結果となりました。
この結果を受けて、プレイヤーは2つの事実を痛感します。
1つはグルールが強力なデッキであること。そしてもう1つは、この環境の攻略の鍵は、《レンと七番》だということを。
《レンと七番》は『イニストラード:真夜中の狩り』で登場した5マナのプレインズウォーカー。このカードの前評判は決して高くはありませんでした。
最も見誤っていたのは、マイナスによって生み出されるトークンが非常に強力であるという点でしょう。
《レンと七番》を、グルール側は1枚のカードで対処することはできません。5ターン目に出てきた5/5の到達トークンをグルールは除去できず、生き残れば土地を供給され、その間にトークンは成長しながら、また新たなトークンを作られてしまいます。
土曜日に行われたトーナメントでは《レンと七番》の採用枚数は押さえられていましたが、翌日には多くの緑のデッキが《レンと七番》を採用するようになりました。
グルールの5マナ域の定番は《黄金架のドラゴン》でしたが、ドラゴンに対しても《レンと七番》は非常に強力で、先手で出てくる5/5到達の前に完全に沈黙することとなり、最強の5マナのカードの座を《レンと七番》は見事に奪い取ったのです。
緑に勝つには《レンと七番》であり、その中でも《無謀な嵐探し》・《エシカの戦車》と一緒に使用することができるグルールは、初週において最強の名を欲しいままにしていました。
2.ミッドレンジの復活
さて、こうして初週でグルールが頭角を現したことで、メタゲームはめまぐるしく回転していくことになります。
仮想的として定められたのは、《無謀な嵐探し》+《エシカの戦車》のパッケージに、同型に強い《レンと七番》を採用した形のグルールです。となれば、今度はこのグルールに強いデッキが現れます。
一般的に、アグロデッキに強いのは、マナカーブを後ろに寄せたミッドレンジです。
《エシカの戦車》には《エシカの戦車》、《レンと七番》には《レンと七番》をぶつけながら、最終的にグルールの場に残るのが《ヤスペラの歩哨》や《厚顔の無法者、マグダ》などの軽いクリーチャーなのに対し、ミッドレンジ側は《収穫祭の襲撃》などの重いマナ域のカードをぶつけていき、この後半のカードの質で押し潰していくのです。
このミッドレンジ戦略は近年のスタンダードではめっきり見られなくなっていました。それは忌まわしきスゥルタイ根本原理が原因です。
クリーチャーに対して除去ではなくクリーチャーをぶつけ、重いマナ域のカードを叩きつける戦略は、クリーチャーデッキとコントロールに対してある程度有効であるのに対し、コンボデッキには無力です。
7マナのカードをただ1枚唱えるだけでゲームに勝利するスゥルタイ根本原理は、ミッドレンジ殺しのデッキでした。
思い返してみれば、『エルドレインの王権』が使用できた環境は、スタンダードでは珍しく、常にコンボデッキが存在していました。ジェスカイファイアーズにティムール再生、ジェスカイ変容、そしてスゥルタイ根本原理など、ミッドレンジが生き残れないほど、環境は熾烈を極めていたのです。
というわけで冬の時代を乗り越えたミッドレンジ/ランプは、実はグルールが大活躍したスタンダードチャレンジより更に数日前に行われた、Hooglandia Standard Openを制していました。
グルールを含めた緑系アグロは『イニストラード:真夜中の狩り』の発売前から強いと噂されており、本大会でも多くの緑系アグロを倒しての優勝でした。
時を同じくして、サクリファイスシナジーを搭載した黒単コントロールや、その黒単に《レンと七番》を入れたゴルガリコントロールなども台頭してきました。
黒系コントロールの最大の魅力は《雪上の血痕》です。《エシカの戦車》や《レンと七番》による圧倒的な盤面を一気に吹き飛ばし、逆に《レンと七番》を解決するという、ミッドレンジ対決を制するフィニッシャーと言えます。
こうして緑系アグロを制するミッドレンジ、そしてその両者に睨みを利かせる黒系コントロールという図式ができあがったのです。
3.台頭する《アールンドの天啓》
さて、『エルドレインの王権』などの退場で緑系デッキが一度は瓦解した一方、ほぼ無傷でローテーションを迎えたデッキもあります。
それがイゼットドラゴンです。
《砕骨の巨人》や《厚かましい借り手》といった便利な出来事クリーチャーこそ消えたものの、デッキの根幹である《黄金架のドラゴン》は残っていますし、むしろ《くすぶる卵》と《記憶の氾濫》の登場、そして何より除去できない《恋煩いの野獣》がスタンダード落ちしたことで、イゼットドラゴンは強化されたデッキと言っても過言ではありません。
環境初期こそ、打ち消し呪文がグルールに対して効果的に働かず、《レンと七番》の前に《黄金架のドラゴン》が屈し、結果として高い勝率を上げていませんでした。
しかし環境が減速して《アールンドの天啓》の価値が高まったことで、イゼットドラゴンは再びトーナメントで勝ち始めました。
《アールンドの天啓》は、《雪上の血痕》のように盤面をひっくり返す力こそありませんが、逆に言えば少しの劣勢であれば、大幅な優位に持っていけるようなカードです。《黄金架のドラゴン》→打ち消し→《アールンドの天啓》という勝ちパターンに、打ち消しの入っていないミッドレンジ・コントロールは抗う術がありません。
更に《アールンドの天啓》はイゼットドラゴン以外のデッキでも採用され始めるようになりました。既に紹介したセレズニアランプに《アールンドの天啓》を入れたバントや、マナ加速から《アールンドの天啓》という動きに特化したシミックランプも現れていたのです。
緑系アグロに勝つには緑系ミッドレンジ、それに勝つためにはより重く、盤面をひっくり返す力のあるコントロール。そしてコントロール対決を制するには、追加ターンを得る《アールンドの天啓》デッキ。
この中で、最初に完成度の高いデッキが現れたのは、《アールンドの天啓》デッキでした。
4.イゼットターンの登場とメタゲームの崩壊
稀代のデッキビルダーが、とあるデッキでミシック1位になったことをツイッターで報告します。
知る人ぞ知る関東のデッキビルダー、山川 洋明くんです。
大量のタップインランドから各色の強力なカードを唱え、フィニッシュに《残酷な根本原理》を据えるという、子供の夢をそのまま体現したようなデッキを構築していた彼が今回公開したのは、《アールンドの天啓》を《感電の反復》でコピーして追加ターンを2回得ようというデッキ。
後にイゼットターンやIzzet Epiphanyと呼ばれるデッキです。
イゼットターンは、中速以降のデッキをすべて粉砕しつつ、《アールンドの天啓》同士のデッキにも強いという、凄まじいデッキでした。
8マナに到達して《感電の反復》と《アールンドの天啓》が手札にあるだけでゲームに勝利することができ、これに抗う術はほとんどありません。打ち消しで《アールンドの天啓》に対処しようとも、土地を置き続けて《感電の反復》の複数キャストから仕掛けていくことで、無理やり追加ターンを得て勝利できます。
レガシーでも使われる性能のドロースペル《表現の反復》と、こちらも下環境レベルのドロー《記憶の氾濫》は《アールンドの天啓》と《感電の反復》の力が非常に大きく、これらが除去と打ち消し、そしてコンボパーツを苦なく揃えてくれるのです。
イゼットターンはメタゲームを崩壊させました。アグロデッキ以外のすべてに存在を許さなかったのです。更にデッキの核となるコンボ部分がアグロ以外に強力なため、フリースロットのほとんどを除去にあてることができ、対アグロ耐性も決して低くはありません。
そのため、「有利なデッキにとことん有利で、不利マッチがほとんど存在しない」という夢のようなデッキが爆誕してしまったのでした。
5.緑単アグロの躍進
イゼットターンの一強に待ったをかけたのが、初週からちらほらと入賞していた緑単アグロ。
前環境からほとんどローテーション落ちの影響を受けなかったデッキだったものの、ミッドレンジの活躍によって一度は沈んでしまったデッキでした。
その原因は緑単アグロの、単色デッキゆえの不器用さにありました。クリーチャーで殴ることと除去以外、緑単アグロは基本的に行えません。そしてその除去も格闘であり、効果的な相手もあれば、そうでない場合もあります。
そしてこれはサイドボード後も改善されることはないのです。
《雪上の血痕》はどうあっても食らいますし、緑系のミラーでも相手からだけ《バーニング・ハンズ》を受けることになります。インスタント除去を持つ相手に《吹雪の乱闘》は打ちにくく、サイド後から増やせる除去もまた格闘呪文だけです。
つまり、特定のデッキに対してサイドボードが全く足りないことが大きな問題となっていたのです。
しかしミッドレンジ・コントロールがイゼットターンにすべて食い殺されたことで、緑単アグロのサイドボード不足問題は解消しました。
イゼットターンには《蛇皮のヴェール》以外に必要なサイドカードはほとんどありません。《雪上の血痕》に対応するカードや、ミッドレンジ対決を制する重く強力なカードも必要なくなったのです。
この「サイドボードが弱い」という問題は、実は緑単アグロだけが抱えていた問題ではありませんでした。グルールがさほど活躍していない現状も、ローテーション落ち後の、カードプールが最も狭い環境のスタンダードだからこそ起きていると言えます。
前環境のグルールを例に挙げると、対コントロールに《運命の神、クローティス》や《乱動する渦》に《アゴナスの雄牛》、同型には《レッドキャップの乱闘》や《アクロス戦争》に《轟く叱責》などなど、特定のデッキに対して少し異なる役割を持つカードを入れていました。
《アゴナスの雄牛》を4枚入れて3枚引くよりは、1枚目の《アゴナスの雄牛》で3枚引いてその中に《乱動する渦》があった方が良いですし、3ターン目なら《運命の神、クローティス》が最も強力です。
しかしカードプールが狭い現状は、アグロには《火遊び》や《バーニング・ハンズ》、対コントロールには《秘密を知るもの、トスキ》程度しかありません。
環境初期にグルールに青をタッチしたティムールが流行したのも、このサイドボードが弱い問題を解決するためと言っても過言ではありません。
このように、サイドボードが弱いという問題を、現在のスタンダードの多くのデッキが抱えています。履修カードがよく使われているのも、サイドスロットが余りがちであるという側面もあるでしょう。
話を緑単に戻しますと、
ミッドレンジなどの相性の悪いデッキが台頭し、それに対して有効なサイドボードを用意できなかったことで、一度は環境から消えてしまったものの、それらのデッキがイゼットターンによって消滅した結果、緑単アグロは復権したのでした。
6.世は二強状態に
こうしてスタンダードは、緑単アグロとイゼットターンの二強状態になりました。
緑単アグロはイゼットターンに対して五分以上の相性があり、イゼットターンは緑単以外のほぼすべてのデッキに強いという状態です。
これが、アグロの中で緑単アグロだけが大きく勝っている理由でもあります。
この記事の冒頭の初週で起きた出来事を思い出してください。環境初期にはグルールやそれに強いミッドレンジが台頭し、ゆっくりと環境は減速していきました。そして緑単アグロも同じく、その数を減らしていくはずなのです。
しかし、緑単以外のほぼすべてのデッキに有利なイゼットターンの存在が、環境の減速化を許しません。緑単を倒しにいこうと躍起になればイゼットターンが立ちはだかるからです。
皮肉なことに、イゼットターンが最も相対したくない緑単アグロは、イゼットターン自身が原因で、アグロデッキの筆頭となっているのです。
さて、この緑単アグロとイゼットターンの直接対決についても少し言及しておきましょう。
この2つの相性は、決して緑単側がものすごく有利というわけではありません。緑単も1マナ域が大量に入った超高速アグロというわけではなく、2マナ域も8枚のみと、アグロというよりはミッドレンジに近い速度のデッキです。
特に大きいのは、緑単アグロがイゼットターンを意識せずとも相性が僅かに良好である一方、イゼットターン側はメインに《バーニング・ハンズ》を採用するなどでしっかりと緑単を意識しておかないと負けてしまうという点です。
そのため、実際の勝率では緑単VSイゼットターンは、緑単が大きく勝ち越しています。しっかりと除去を入れたイゼットターンで緑単と戦っているプレイヤーからすると、「こんなに緑単に負けないはずなのに」と思うかもしれませんが、その感覚は間違っていません。
実際には、打ち消しが多かったり、《感電の反復》が大量に採用されているような、イゼットミラーを大きく意識したリストが緑単アグロに食い殺されているのです。
7.三強環境で世界選手権へ
このまま緑単とイゼットの二強状態で世界選手権に突入するかと思われました。
現環境で要求されるのは、イゼットターンにスピードで勝てるデッキでありながら、緑単に強いこと。どちらかを達成するのは容易である一方、両方を満たすことは困難だからです。
が、ここで第三の刺客、白単アグロが登場しました。緑単アグロと違い、1ターン目からしっかりとクロックを刻むことができ、3点火力で処理されない《輝かしい聖戦士、エーデリン》や《精鋭呪文縛り》という妨害手段が用意できるため、イゼットターンに十分に対抗する力があります。
緑単に対しても決して不利ではありません。除去が《吹雪の乱闘》しかない緑単に対しては、《光輝王の野心家》と《剛胆な敵対者》は非常に強力ですし、《輝かしい聖戦士、エーデリン》+《スカイクレイブの大鎚》という必殺技も存在します。
緑単とイゼットターンの両方に対してクリティカルなサイドカードがあるのも、白単アグロの魅力です。
《傑士の神、レーデイン》と《パラディン・クラス》、《ガーディアン・オヴ・フェイス》は対イゼットターンで強力で、緑単にも《スカイクレイブの大鎚》や《粗暴な聖戦士》など、効果的なカードをしっかりと採用しています。
イゼットターン側も白単の存在でサイドボードに取るカードが難しくなってきました。《燃えがら地獄》は緑単には全くと言って良いほど効果がないのに対し、白単には強力です。
また、タフネス4を持つ強力なクロックである《輝かしい聖戦士、エーデリン》も頭を悩ませます。
8.世界選手権の注目デッキ紹介
時系列順でメタゲームを追ってようやく現在まで辿り着き、いよいよ週末には世界選手権が行われます。
そしてデッキリストも公開され、予想以上にイゼット(グリクシス)ターンが多かったものの、白単アグロ・緑単アグロを複数のプレイヤーが選択する、事前に想定されていたものに近いメタゲームとなりました。
公開されたばかりの世界選手権の出場者のデッキリストから、注目のポイントを紹介していきたいと思います。
【Izzet Epiphany by Stanislav Cifka】
チェコの誇る天才プレイヤー、Stanislav Cifka選手とOndřej Stráský選手が持ち込んだイゼットターンは、《予想外の授かり物》が4枚採用された革新的なリストです。
イゼットターンは8マナと《アールンドの天啓》+《感電の反復》を揃えることが勝利条件のデッキです。《予想外の授かり物》による2つの宝物が、コンボの早期達成を助けます。
《感電の反復》が4枚入っているというのも注目です。基本は《アールンドの天啓》をコピーするカードではありますが、《予想外の授かり物》をコピーする動きも非常に強力であり、この2種をフル投入するのは実に理にかなっています。特に単体でフィニッシュ以外に関与しづらい《感電の反復》は、《予想外の授かり物》を4枚入れない限りは、デッキに4枚投入したくないカードです。
《感電の反復》を4枚入れていることで、このイゼットターンはミラーマッチでとても強力なデッキと言えます。
通常、イゼットターン同士の戦いは、互いに《アールンドの天啓》を打ち消すカードを手札に貯めていきます。自分がコンボを決めるより、相手のコンボを阻害するカードを手札に集めていく方がリスクが低いためです。
そして互いに動かぬままゲームが進んでいきますが、ここで仕掛ける際に重要になるのが《感電の反復》。なぜなら《感電の反復》は、後に《アールンドの天啓》をコピーすることから、実質2マナで《アールンドの天啓》を唱えるカードになるからです。
たとえば《感電の反復》×2+《感電の反復》フラッシュバック+《アールンドの天啓》の計4回の《アールンドの天啓》。これを相手はすべて打ち消せるでしょうか?結論としては、これは十分に打ち消せるでしょう。《ゼロ除算》3枚と《才能の試験》で事足ります。
しかし、《感電の反復》が手札に4枚あれば話は別です。《感電の反復》×4+《感電の反復》フラッシュバック+《アールンドの天啓》で計6回の《アールンドの天啓》をすべて打ち消すには4枚の《ゼロ除算》に2枚の《才能の試験》が必要になります。このリストに入っているすべての打ち消し呪文です。
実際には打ち消し呪文の代わりに《感電の反復》でも問題ありませんが、逆に言えば、《感電の反復》は仕掛けられる側に立った状態でも強力なカードとなります。つまり《感電の反復》は《アールンドの天啓》でありながら、《才能の試験》なのです。
メインに《才能の試験》を入れていることからも、このリストはイゼットターンミラーを強く意識しているのは間違いありません。
そして蓋を開ければ、メタゲームの50%を占めているのがこのイゼットターン。後述するグリクシスターンに対して強ければ、このイゼットターンが優勝するのは、想像に難くありません。
【Grixis Epiphany By Gabriel Nassif】
フランスの殿堂プレイヤーにして世界最高峰のデッキビルダーのGabriel Nassif選手らが持ち込んだのが、このグリクシスカラーの《アールンドの天啓》デッキ。《感電の反復》と《アールンドの天啓》のコンボを決める点は通常のイゼットターンと同様ですが、大きく異なるのは3枚採用された《溺神の信奉者、リーア》です。
自分の墓地の呪文すべてにフラッシュバックを付与するこのカードは、コンボを助けるわけではありませんが、ひとたび戦場に現れることで、対アグロに置いてすさまじい制圧力を発揮します。
特に白単と緑単はいずれも除去がデッキに少なく、緑単に至っては格闘除去であるため、こちらも除去やバウンスを構えておくだけで簡単に対処できます。《消えゆく希望》が4枚なのは、この《溺神の信奉者、リーア》との相性の良さを鑑みてのことでしょう。マナを立てて《溺神の信奉者、リーア》を出して、除去されてしまいそうなら、《消えゆく希望》で《溺神の信奉者、リーア》を手札に逃がすことも可能です。
対イゼットターンにおいても、《溺神の信奉者、リーア》は活躍してくれるでしょう。メインから投入された《強迫》とサイドボードの《真っ白》を《溺神の信奉者、リーア》で使い回すだけでゲームに勝利できます。
《溺神の信奉者、リーア》の常在能力である「呪文は打ち消されない」は、イゼットターンミラーでメリットとなります。こちらは相手のコンボを手札破壊で阻害する一方、相手は打ち消し呪文を使用するため、相手のコンボを手札破壊で妨害しつつ、打ち消しを持っている相手に《アールンドの天啓》+《感電の反復》を決めることができるのです。
既に名前の出た《真っ白》は、今の青系コントロール対決に置いて非常に強力な1枚です。《強迫》は対青の定番カードですが、《記憶の氾濫》の前ではいまひとつです。強力なスペルを1枚落としたとしても、時間が立てば《記憶の氾濫》を打たれてしまい、序盤に有効牌を落とす意味がほとんどありません。
しかし、《強迫》に《真っ白》が加われば別です。序盤に《記憶の氾濫》を落としておき、《真っ白》で追放してしまうことで、フラッシュバックを防ぎつつ、土地などを捨てさせることで、《記憶の氾濫》のフラッシュバックの支払いを困難にさせます。
これからの黒いデッキでは《強迫》と《真っ白》を同時に採用するのが良いと思われます。
《竜巻の召喚士》も面白いチョイスです。
緑単の《エシカの戦車》・《レンと七番》などを一撃で吹き飛ばしつつ、盤面に7/7が立ちはだかるため、他の全体除去のように、返しのターンに《不詳の安息地》でダメージを食らうことがありません。
また、《消えゆく希望》で《竜巻の召喚士》を戻すことで、何度もバウンスを使い回せます。緑単にとっては悪夢でしょう。
緑単アグロに強く、同型にもしっかりと勝てるグリクシスターン。今大会の台風の目となりそうです。
【緑単アグロ By Paulo Vitor Damo Da Rosa】
世界選手権の大本命デッキにして、優勝予想に大本命という、大本命+大本命の組み合わせ。
使用している緑単アグロは、比較的オーソドックスな形と言えるでしょう。
2マナのマナクリーチャーの選択で《冬を彫る者》を採用するリストが増えていますが、これには2つの要因があります。
まず1つ目は、《老樹林のトロール》との相性です。死亡した《老樹林のトロール》がエンチャントされた土地は2マナを生み出すことができるため、《冬を彫る者》によるマナの供給量が2倍となるのです。
もう1つは、イゼットターンがミラーマッチで《心悪しき隠遁者》を除去するために《棘平原の危険》を採用するようになったためです。《水蓮のコブラ》は《棘平原の危険》を受けてしまうので、《冬を彫る者》がより安全なマナクリーチャーであるという結論に至ったのでしょう。
追加の2マナのマナクリーチャーとして《絡みつく花面晶体》を採用していますが、《棘平原の危険》がちらつく相手にはセットランドしていくのでしょう。とにかく《棘平原の危険》を意識していることがうかがえます。
《豊穣の碑文》は近頃使われ始めた便利なカードです。同型での《吹雪の乱闘》の追加となる除去呪文でもあり、イゼットターン戦では火力からクリーチャーを守る際に役立ちます。インスタントで格闘が行えるので、《吹雪の乱闘》より強い場面も比較的多いカードです。
Paulo Vitor Damo Da Rosa選手のリストは通常と大きく異なるスパイスが加えられてはいないものの、非常に綺麗な、お手本のようなリストです。とても完成度が高く、これからの緑単のスタンダードとなるリストだと思われます。
【白単アグロ By 井川 良彦】
ガントレットやチャンピオンシップで調整を重ねてきた井川 良彦選手と佐藤 レイ選手が持ち込んだのが、第三勢力の白単アグロ。
まず目につくのは、サイドボードに採用されていることが多い《傑士の神、レーデイン》。
これは間違いなくイゼットターンを強く意識したものです。単体火力は受けてしまうものの、《家の焼き払い》や《アールンドの天啓》をほぼキャストできなくさせてしまうこのカードは、対イゼットターンで絶大な効力を発揮します。
緑単に対しても飛行である点と、氷雪土地がタップインになることから、決して悪いカードというわけではありません。
他のリストでは大量に採用されている《素拳のモンク》や《戦場の猛禽》、《施しの司祭》などの1マナ域が一切採用されておらず、《石縛りの使い魔》だけが投入されているのも珍しいポイント。
メイン戦でこのカードを強化できるカードは《精鋭呪文縛り》と《日金の歩哨》《ポータブル・ホール》。《スカイクレイブの亡霊》や《粗暴な聖戦士》がメインから入ったリストでは一緒に姿を見かけますが、いずれもサイドボードです。
《素拳のモンク》は1ターンにスペルを2回唱えてようやく2/2、《戦場の猛禽》や《施しの司祭》は1/1。一方、《石縛りの使い魔》は《日金の歩哨》で継続的に成長させることができます。
《日金の歩哨》が活躍しにくいマッチでは《スカイクレイブの亡霊》や《粗暴な聖戦士》をサイドインするため、どんなマッチでも安定して成長が見込めるカードという評価なのでしょう。
イゼットターンと緑単アグロに強いとされる白単アグロをしっかりと持ち込んだ両選手。ガントレットで勝ち組デッキを生み出し続けるこのチームは、今回の世界選手権でも結果を残すことができるのか、注目です。
9.おわりに
というわけで、長々とお付き合いいただいたわけですが、すべての答えは世界選手権にあります。今回はもちろん日本語放送もあるので、寝不足なんて気にせずに視聴しましょう!
ワールドチャンピオンが決まる瞬間をお見逃しなく!
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