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ニューカペナ・チャンピオンシップ調整録

こんにちは。

先月半ばに行われた『ニューカペナ・チャンピオンシップ』に参加していました。

プロツアー・ミシックチャンピオンシップ・プレイヤーツアーと競技の最高峰に位置するイベントはこれまで何度も名前が変わってきて、チャンピオンシップ(CS)もその中の一つ。

次回からはプロツアーが復活するため、CSは今回で最後となってしまったので、僕にとっては最初で最後のCSとなりました。

今回はそんなCSの調整録になります。

■調整チームと方針

ご存じの方も多いでしょうが、CSはダブルフォーマット。スタンダードとヒストリックによって行われました。

スタンダードは『ニューカペナの街角』リリースから間もなく、調整に大幅な時間を要することは目に見えていました。その上でヒストリックも控えているので、とても一人で練習をしていては時間がありません。

僕が参加したのは、Andrea Mengucciを中心としたヨーロッパ勢の調整チーム。Lee Shi TianやMatt Nass、Christian Hauck‎などは皆様にも馴染みのある名前ではないでしょうか。

調整チームの方針として徹底されたのは、「ランクマッチよりチーム内のダイレクトチャレンジ」「スタンダードにほぼ時間を割き、ヒストリックは時間が余れば」の2つでした。

ランクマッチよりダイレクトチャレンジが重視された理由はいくつかありますが、最も大きいのはプレイの精度の向上でした。

対戦する二人がお互いに画面を共有し、議論しながらゲームを進めることで、ミスが少なく、その結果メタデッキ同士の相性などがブレにくくなります。

例を挙げて説明しましょう。Andrea Mengucciがエスパーミッドレンジを使用してランクマッチで調整を始めたとします。一般的にエスパーミッドレンジはナヤルーンを苦手としますが、ランクマッチで当たるナヤルーンにはAndrea Mengucciは圧勝するでしょう。

その結果、エスパーはナヤルーンに強いという結論になり、そうなればナヤルーンを試さないことはもちろん、サイドボードに《エメリアのアルコン》を入れなくなります。

チーム内での練習を徹底すればこのような本来の相性をプレイヤーの力が跳ね返す事態が起きにくいのです。

もちろんこの手法にも「新たなアイディアをランクマッチを通じて得られなくなる」という欠点はあるのですが、スタンダードという狭いカードプールのフォーマットではそれは起きづらいと判断しました。

事実として、今回のCSの上位に入賞したデッキは、チャネルファイアーボール勢が持ち込んだグリクシスを除いて、どれも一度はテストしていました。

■スタンダード調整はエスパーから

スタンダードとヒストリックの練習比率については、ヒストリックの項目で述べるとして、まずは時間の大半を費やしたスタンダードのお話です。

スタンダード環境は、一言で言うならば「最強のデッキ、エスパーミッドレンジをどのように打ち破るか」。これに尽きました。

エスパーミッドレンジを最強たらしめる理由、それは『ニューカペナの街角』でとんでもないカードが現れたからです。

そうです、《策謀の予見者、ラフィーン》です。このカードが本当にとんでもない。

2ターン目にクリーチャーから3ターン目に《策謀の予見者、ラフィーン》が出てくるだけで、2マナクリーチャーを強化しながら手札を循環させていきます。そして次のターンには2体のクリーチャーで攻撃し、《策謀の予見者、ラフィーン》のサイズが上がるとともに、更に手札は向上。土地まみれの手札もあっという間に《放浪皇》などの次なる脅威に変わります。

そしてこの《策謀の予見者、ラフィーン》は1/4というサイズに護法1と、高い除去耐性を持っています。火力で落とすには《轟く叱責》か追加コストを支払った《電圧のうねり》しかなく、しかも一度でも殴られて謀議されると、もう火力圏外です。

護法のせいで除去も一苦労です。《冥府の掌握》で対処するには後手3ターン目しかなく、そうなると先に出ていた2マナクリーチャーに続けて殴られることに。

この2マナクリーチャーから《策謀の予見者、ラフィーン》というアクションがあまりにも強力で、「これを返す術を探し、見つからなければエスパーを使おう」というのが早くも共通認識となりました。

■消えていく様々な候補たち

こうしてエスパーを倒すべく、様々なデッキたちをテストしてみます。

・ラクドスサクリファイス

前環境では人気の、クリーチャーデッキに有利で、白単の隆盛によってその立ち位置を確立しました。

今回は前評判の高かった《敵対するもの、オブ・ニクシリス》という新戦力を手にし、エスパーミッドレンジの対抗馬として名乗りを上げる!

…ことはできませんでした。エスパーミッドレンジは序盤からクリーチャーを展開しつつ、《婚礼の発表》や《漆月魁渡》、《放浪皇》と終盤戦にもしっかり備えのあるデッキです。

もともと、ラクドスサクリファイスはアグロデッキに強い反面、ミッドレンジにはさほど強くありませんでした。《敵対するもの、オブ・ニクシリス》がその相性差を跳ね返るほどだと期待していたのですが、そもそも《敵対するもの、オブ・ニクシリス》がエスパーに全く強くありませんでした。

《敵対するもの、オブ・ニクシリス》は3ターン目に犠牲で唱えられたら強いカードであるという認識は間違っていません。しかし、大事な事実を無視していました。《敵対するもの、オブ・ニクシリス》は犠牲で出さなければあまりに弱すぎるカードなのです。

3ターン目に犠牲で出すためには、「1~2ターン目にクリーチャーを展開」「相手に除去されない」の2つのハードルを越えなければなりません。今のスタンダードでこれが簡単ではないことは、《策謀の予見者、ラフィーン》を使っている方ならわかるのではないでしょうか。

先手3ターン目に犠牲込みで出す最高のムーブを見せたとしても、エスパーミッドレンジにはあまり効果的ではありませんでした。3ターン目に犠牲で唱えるため、戦場には《敵対するもの、オブ・ニクシリス》で生み出したデビルと忠誠値1と4の《敵対するもの、オブ・ニクシリス》が並ぶだけです。

相手が《しつこい負け犬》から《策謀の予見者、ラフィーン》と展開すれば、それだけで戦場はイーブンからこちらが不利なのです。最高の回りをしたにも関わらずです。

先手3ターン目に《策謀の予見者、ラフィーン》を出されようものなら犠牲でもプレイしたくありません。

同じ3マナ域の《策謀の予見者、ラフィーン》との性能差にただただ絶望し、ラクドスサクリファイスは終了となりました。

・ジャンド

『ニューカペナの街角』で大量にカードを手に入れたジャンドこと土建組一家。今回はすべての一家(3色デッキ)を一通り試しましたが、最終的にはジャンドの対抗馬となるまで調整され、実際に一部メンバーはCSに持ち込みました。

ジャンドの優れた点はいくつかありますが、中でも魅力的だったのは後手や序盤の土地関連のもたつきが起きたとしても、エスパーミッドレンジに戦えるという点でした。

エスパーミッドレンジ同型は後手番において防戦一方となります。2ターン目のクリーチャーをしっかり除去し、《策謀の予見者、ラフィーン》で手札を整えられないようにするのが後手のセオリーです。

しかし、ジャンドには2マナから4マナにジャンプアップするカードがあり、これによって後手でも攻めるプランをしっかりと取れます。

相手の2ターン目のクリーチャーを《電圧のうねり》で除去しつつ、《裕福な亭主》、相手の《策謀の予見者、ラフィーン》の返しに《エシカの戦車》と回れば、《策謀の予見者、ラフィーン》に1度謀議されるだけで済みます。

ここまでだと良いことづくめなデッキに見えますが、もちろん弱点もあります。

まず、ジャンドはエスパーと違ってマナフラッドしやすいデッキです。

マナを生み出すクリーチャーは序盤こそ強いものの、ミッドレンジ対決の中盤以降は土地に等しいカードとなり、それがデッキに4~6、多ければ8枚入っているため、長引けばジャンド側が不利になります。

そしてゲームを長引かせる要因である《食肉鉤虐殺事件》がとても刺さってしまうのも、ジャンドのマイナス点。

更に結局、相手の先手3ターン目の《ラフィーン》が辛いのは変わりませんでした。《ラフィーン》が1度謀議で成長すると《電圧のうねり》が届かなくなり、《エシカの戦車》への対抗策を謀議で探しに行かれ、あっという間にゲームエンドです。

総じて、エスパーミッドレンジに対して地力の劣るデッキだと感じ、メンバーのほとんどがジャンドは断念することとなりました。

ただ、エスパーに強い要素である《エシカの戦車》、《策謀の予見者、ラフィーン》を除去できる《冥府の掌握》や《電圧のうねり》に魅力を感じた一部のメンバーは、ジャンドを調整してそのままCSに持ち込みました。

懸念材料だったマナフラッドについては、そもそも2マナ域にマナを生み出すクリーチャーを入れないことで解消しました。後手で3ターン目に《エシカの戦車》を出すことを諦めて、しっかりと除去で立ち向かうことに決めたのです。

メンバーが使用したジャンドを掲載しておきます。

・ナヤミッドレンジ

《エシカの戦車》、《婚礼の発表》、《鏡割りの寓話》とスタンダードの強いスペルを詰め込めるデッキですが、やはりネックとなったのは《策謀の予見者、ラフィーン》でした。

《婚礼の発表》以外はジャンドと変わりなく、戦略がトークン一辺倒なことで、《食肉鉤虐殺事件》がより効きやすい構成になっている印象でした。

《策謀の予見者、ラフィーン》を倒せない=何度も謀議され続ける=《食肉鉤虐殺事件》に辿り着かれる=負け。魅力を感じませんでした。

・ナヤルーン

エスパーミッドレンジに強いデッキ。実際、練習段階ではエスパーミッドレンジによく勝ち越していました。

ですがそれも《エメリアのアルコン》をサイドに入れるまでの間。メインこそ有利なものの、サイド後は除去と《エメリアのアルコン》で減速を強いられ、ナヤルーン側には除去がないので《策謀の予見者、ラフィーン》が止まりません。

《エメリアのアルコン》は青赤系にも刺さるということで枚数が増え、調整している時は常に2~4枚でした。

本戦でも《エメリアのアルコン》をたくさんプレイされることは容易に想像できたので断念。

・ジェスカイストーム

エスパーミッドレンジに対して高いメイン戦での勝率を誇るデッキ。ナヤルーンはまだエスパーが勝つこともそこそこありましたが、ジェスカイストームにはほとんど勝てませんでした。

ですが、ネックとなったのはやはりサイド後。ジェスカイストーム側はゲームプランを切り替える手段がなく、ほぼメインボードのまま戦うことになります。

一方、エスパーは《軽蔑的な一撃》や《否認》、追加のインスタント除去に加え、《強迫》などの手札破壊もサイドインします。そしてこれらのカードを序盤から殴りつつ《策謀の予見者、ラフィーン》で探してくるのです。

ジェスカイもまた、《策謀の予見者、ラフィーン》にとても触りづらいデッキです。《策謀の予見者、ラフィーン》に触りづらく、特定のカードに依存しているデッキは、総じて《策謀の予見者、ラフィーン》でサイドカードを探されてしまうため、どうしてもサイド後の勝率が伸びませんでした。

・イゼットランデス

そしてついに本命のお話です。

今までのエスパーの強みを一度おさらいすると、「《策謀の予見者、ラフィーン》による圧倒的なデッキの安定感」「序盤から終盤まで強力なカードで構成されているデッキ」「にもかかわらずマナカーブが低く設定されており、早いデッキ」といったところです。

一見すると非の打ちどころのないデッキに思えますが、そんなエスパーにはただ一つだけ弱点がありました。

それが基本地形の枚数です。エスパーは少し青マナが少ないだけのほぼ均等三色のデッキで、1色しか出ない土地を入れるスロットはほとんどありません。そしてその内数枚は《目玉の暴君の住処》や《見捨てられたぬかるみ、竹沼》など、クリーチャーの頭数になるカードです。これらのカードが入っていないと、消耗戦となるミラーマッチで不利を強いられます。

ここに対して《浄化の野火》と《廃墟の地》がよく刺さりました。デッキ公開性トーナメントでは相手の基本地形がわかるため、平地しか入っていなければ黒マナと青マナを攻めるなど、便利に土地は破壊できます。

イゼットランデスは、《平地》が1枚しか入っていないエスパーにひたすら勝ち続けました。
序盤を《浄化の野火》、除去、《消えゆく希望》に費やし、《表現の反復》や《大勝ち》で次の攻め手を確保し、最終的には《溺神の信奉者、リーア》でゲームセット。除去耐性を持つ《策謀の予見者、ラフィーン》も土地を壊してしまえば場に出ないため、怖くありません。

調整チーム内でも複数人が同時にエスパーとテストして、大きく勝ち越しました。サイド後に《強迫》を数枚用意していたものの、イゼットランデスは《軽蔑的な一撃》が効かないことが大きく、手札破壊だけでは《表現の反復》擁するイゼットを打ち崩せなかったのです。

ほとんどのメンバーがイゼットランデスに決めかけており、僕に至っては「スタンダードはランデスで決まりだから残りの時間はヒストリックに費やせるな」と思い、ヒストリックの調整を始めてしまっていました。

イゼットランデスの細部について調整をしていたそんなある時、Andrea Mengucciがエスパーに基本土地を3枚入れ始めました。《見捨てられたぬかるみ、竹沼》などのバリューランドを抜いて、3色のそれぞれの基本土地を入れてみたのです。そしてイゼットランデスとのテストを始めました。

結果は燦燦たるものでした。2ターン目の《浄化の野火》、3ターン目の《廃墟の地》の返しに普通に3マナが揃うので、《光輝王の野心家》→《策謀の予見者、ラフィーン》と展開された時にこちらはまだ何もやっていないことになります。土地を攻める戦略は、相手の土地が場に出てこないことが前提です。たった2枚の基本土地をエスパー側が入れるだけで、この戦略は崩壊してしまいました。

エスパー相手に土地破壊戦略が通用しなくなると、サイドボード後も悲惨な結果になります。もともと白単やナヤルーンなどのアグロには《浄化の野火》をサイドアウトして《くすぶる卵》をサイドインするようにしていたのですが、エスパー相手には《くすぶる卵》は強力なカードではありません。《溺神の信奉者、リーア》対策の《真っ白》を《強迫》の上から入れられるだけで、メイン不利、サイド後不利という結果に終わってしまったのです。

「イゼットランデスが世に出るのがCSのデッキリスト締め切り直前だったら…」と思わずにはいられませんでした。泣きながら我々はイゼットランデスを削除することとなりました。

最後に、CSでサブミットする予定だったイゼットランデスのリストを掲載しておきます。諦めきれずに土曜日のゲームデーで使用して優勝し、無事に供養しました。

■チームエスパー

結局、あらゆるデッキが対面から姿を消し、結局残ったのはエスパーミッドレンジだけになりました。

エスパーミッドレンジを調整する上で最も議論となったのは、2マナ域にどのクリーチャーを採用するかでした。

《光輝王の野心家》は最強の2マナ域であり、このカードを抜くことはありません。この《光輝王の野心家》の上から入れるべき2マナとして、様々なカードがテストされました。その中でプレイアブルだったのは以下のカード。

・《しつこい負け犬》

今回のチームエスパーで4枚採用することとなったカード。「まるでミシュラランド」と言われており、マナが余った後半には《目玉の暴君の住処》のように攻撃していけることからそう呼ばれています。事実、《しつこい負け犬》のおかげでミシュラランドの枚数が減ってもマナフラッドはあまり気にならなくなりました。

同時に2枚奇襲することがないため、4枚入れてしまっても腐りやすいのですが、ミラーマッチは《消失の詩句》されてしまうので、4枚というのがチーム内の結論。

これに関しては僕は反対で、《消失の詩句》はミラーマッチで《策謀の予見者、ラフィーン》を倒せないことから、枚数が減っていくのではないかと考えていました。《冥府の掌握》の枚数が増えることが予想されるので、《しつこい負け犬》を複数枚入れるよりは、他の役割を持つカードを採用した方が良いと思っています。

しかし、《消失の詩句》の枚数が減ることはないというのがチームメンバーの結論でした。後手番で《消失の詩句》を構えれば、《策謀の予見者、ラフィーン》と《漆月魁渡》には当たらないものの、《婚礼の発表》や《しつこい負け犬》、《光輝王の野心家》に打つことができます。特に《婚礼の発表》はミラーマッチのキーカードであり、枚数が3枚から減ることはないだろうとのこと。

ふたを開けてみれば全員が《消失の詩句》をたくさん採用していたので、僕の意見が間違っていると言わざるを得ませんでした。

・《穢れた敵対者》


元々は平山くんの案で、増田さん経由でオススメされ、チーム内で初期は大絶賛だったカード。

2/3というサイズが後手でミラーマッチの《光輝王の野心家》を受け止めるのに便利で、《エシカの戦車》に対しても、トークンでは殴れないし、《エシカの戦車》が殴れば相打ちと完璧な性能です。

また、5マナでトークンを2体生み出せば《策謀の予見者、ラフィーン》で大量に謀議することができるため、2マナ域でありながら後半引いてもなかなか強力でした。

しかし、この枠をマルチカラーの何かにすべきだったと今では思っています。エスパーのミラーマッチでは「いかに後手をまくるか」が最重要であり、2ターン目の《消失の詩句》が当たらないカードこそ、2マナ域に求められるものでした。ここは《シルバークイルの口封じ》か《敬虔な新米、デニック》にすべきだったと思います。

・重いカードの選択

2マナ域以外についてはすんなりとチームの意見はまとまりました。《放浪皇》はすぐに4枚となり、その理由はエスパーミッドレンジがソーサリータイミングのカードだけで構築されたデッキだからでした。

デッキを見返すとわかりますが、このデッキにはインスタントタイミングで相手に干渉する手段がほぼ除去のみとなっています。いわゆるソーサリーデッキです。プロレベルの戦いにおいて、ソーサリーデッキはそれだけで不利です。相手が上手ければ上手いほど、ソーサリーデッキの勝率は下がっていくものです。CSでエスパーミッドレンジの勝率が低かったのは、しっかり意識されているからというものありますが、エスパーミッドレンジというデッキがソーサリーデッキだったからだと僕は思っています。

だからこそ、数少ないインスタントカードは増やしたいと思いました。最強のインスタントカードである《放浪皇》はすぐに4枚目を入れ、その後《常夜会一家の介入者》も1枚入りました。

正直言って全く強いカードだとは思いませんが、リスト公開性かつ、前述のようにこのデッキがソーサリーデッキであることを加味して、1枚程度ならば邪魔をしないだろうという結論に。実際使い勝手は良かったとのことでした。

プレインズウォーカーは《不笑のソリン》や《蜘蛛の女王、ロルス》、《華やいだエルズペス》などが採用されていた初期から比べると、《蜘蛛の女王、ロルス》1枚のみは少し寂しく思えるかもしれません。

プレインズウォーカーはミラーマッチにおいてたびたび議論されてきましたが、結局軽いところで勝負が決まってしまうため、プレインズウォーカーはなるべく少なく、かつインパクトのある《蜘蛛の女王、ロルス》だけ入れることとなりました。

手札にプレインズウォーカーがダブつく展開は確実に負けてしまいますし、多少固くても《策謀の予見者、ラフィーン》がアクティブならいつでも死んでしまうため、《不笑のソリン》も《華やいだエルズペス》もミラーマッチで弱いカードな印章でした。

負けている時に弱く、勝っている時に強い。そんなカードは不要!

エスパーはとにかく軽く構築していくことが重要で、それは早い段階から徹底されていました。

最終的なチームのエスパーミッドレンジのリストはこちら。


■ヒストリック

さて、一方のヒストリック。冒頭で「時間が余ればヒストリック」と言いましたが、その理由はメタゲームが一向に変わっていないからです。

すなわち、今回もゴルガリフードとイゼットフェニックスの2強だったのです。

これはゴルガリフードとイゼットフェニックスが強力なデッキである点はもちろん、ヒストリックがアルケミーに影響されていることも理由の一つとなっています。

スタンダードの強力なカードはアルケミーでバランス調整され、ヒストリックもその調整されたカードを使うことになります。つまり、ヒストリックに新たに入ってくるカードの内、特に強力なカードは、弱体化しているのです。

もしも『エルドレインの王権』の頃にアルケミーが存在していたなら、間違いなく《大釜の使い魔》は弱体化されているでしょう。《弧光のフェニックス》も然り。しかし、実際にアルケミーが実施されたのはずっと後。弱体化の影響を受けるのは現在や未来のカードだけです。

ゴルガリフードとイゼットフェニックスを打ち破るようなスーパーカードがスタンダードに登場するとも思えませんが、その上で更にバランス調整が待っています。この2強は、アルケミーの存在によって、より強固な立場のデッキとなってしまっているのです。

さて、話を戻しましょう。ヒストリックで僕が着手したのはイゼットフェニックス。《帳簿裂き》を試してみたいという軽い気持ちからと、ゴルガリフードは練習効率が悪いからでした。

ちなみに、Lee Shi Tianはゴルガリフードを回して「老人にはこのデッキは難しい」と嘆いていました。

そして少し回してみて早速《帳簿裂き》の強さに感動しました。《スプライトのドラゴン》の枠をそのまま差し替えていたのですが、2ターン目に出して返しの相手のターンにサイズが上がる可能性があり、しかもルーターのおまけつき。初期サイズも1/3と大きく、ブロッカーの役目も果たせます。

特に後手時や中盤引いた時の性能が《スプライトのドラゴン》と比べた時にすさまじく、すぐにこのカードを4枚使おうと決めました。

ミラーマッチにおいては《考慮》や《表現の反復》でカードを探しに行くと成長し、《稲妻の斧》や《邪悪な熱気》を超えるサイズになるなど、採用するかどうかで勝敗が変わると言っても過言ではありませんでした。

《帳簿裂き》を採用するにあたってデッキをなるべく軽くしたいということから、《弾けるドレイク》をすべてデッキから抜き、《帳簿裂き》と相性の良い《嵐翼の精体》に。

《弾けるドレイク》を抜いたことにより、対ゴルガリフード用の《碑出告が全てを貪る》が使いやすくなったので、これは良い変更でした。

結局、ゴルガリフードに対しては《弧光のフェニックス》や《信仰無き物あさり》をすべてサイドアウトし、打ち消しと《反逆の先導者、チャンドラ》と《碑出告が全てを貪る》をサイドインする、グリクシスコントロールプランを取り、大きく勝ち越せるように。

攻め一辺倒でゴルガリフードにはイマイチだった《スプライトのドラゴン》が《帳簿裂き》に変わったことは、サイド後にグリクシスコントロールになる場合にも大きく影響していました。

イゼットフェニックスは間違いなくもう一段階上のステージに上がったと思います。

デッキリスト登録前日にLee Shi Tianが持ってきた青白親和がイゼットフェニックスとゴルガリフードをなぎ倒し、それに感動した数名が青白親和に乗り換えたものの、本戦で青白親和がボロボロに負けてしまったのは、また別のお話。

使用したイゼットフェニックスはこちら。

■終わりに

というわけで今回はCSの調整録でした。

結果は振るいませんでしたが、英語で調整の結果を伝えたり聞いたり、とにかく今までの練習では味わえないような体験が多かったです。

チームメンバーはトップ8こそ出ませんでしたが、チェインしたプレイヤーが何人かいて一安心といったところ。エスパーミッドレンジとイゼットフェニックスという大本命中の大本命2つがチームデッキだったので、大勝することは難しいですからね。

久しぶりに競技マジックに取り組めて、プロツアーを回っていた日々を思い出すことができました。強い相手との対戦はもちろん、強い相手との練習も刺激になりました。Andrea Mengucciとの練習中に「こいつ強すぎだろ!!!」と何回叫んだことか。

強いプレイヤーと戦っている時の高揚感は最高です。この熱い気持ちが自分に競技マジックをプレイさせ続けているのですよね。

次に競技マジックの舞台に上がれるのはいつかわかりませんが、その機会をぜひ掴み取りたいと思います。

それではまた。

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