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2020年のマジックに俺は完全敗北した

2020年、俺のマジックの成績は最悪だった。

新型コロナウイルスの影響で卓上マジックをやる機会はなくなり、グランプリの代わりにマジックフェストオンラインが、プレイヤーツアーもMTGアリーナでの開催となった。

俺の成績は散々だった。マジックフェストオンラインは、ウィークリーで一度トップ32に入賞したものの、シーズンファイナルではぼろぼろの成績。
プレイヤーズツアーも初日落ちに終わった。

グランプリトップ8が2回に、ファイナルズトップ8などの昨年との成績を比べると、悲惨なものだ。

昨年が単にラッキーだったと言えば、それは間違いではないだろう。確かに2019年の俺はツイていた。
しかし、今年全く勝てない原因は、単にツキがないから…というわけではない。

ではその原因は、練習時間だろうか。いや、昨年と比べて今年はマジックをプレイする時間は増えた。

自己分析を始めて、俺はそろそろ自ら感じていた答えに向き合わなければならない時が来た。

自分が変わらなければならないということに。


1.マジックで勝つための方法

グランプリでトップ8に残りたいと思ったら、プレイヤーはどんな方法を取るだろうか?

まず思いつくのは、王道の手法だ。環境で最も強いデッキを使い込み、プロプレイヤーの配信や記事で勉強する。それを繰り返していき、最も強いデッキを最も上手く使えるようになっていく。
少し前のスタンダード環境で言うなら、ティムール再生を使い続けていたプレイヤーがこれに該当するだろう。
これはトーナメントで勝つための最良の選択であるのは言うまでもない。

次に、臨機応変にメタゲームに対応していく方法だ。前週の勝ち組デッキを分析し、それに相性の良いデッキを選択していく。
確かな審美眼と、どんなデッキでも回せるプレイスキルがなければ、この手法を取ることは難しい。プロプレイヤー以外が行うとまず失敗するだろう。

最後に、新たなデッキの開発。既存のデッキに対して有利に立ち回れる新デッキを作り上げる。
プレイヤーズツアーファイナルでの熊谷さんがまさにそれだ。黒単アグロというアーキタイプは既に存在していたが、全く新しいタイプの黒単で見事に勝利を収めた。
この手法は決して簡単なことではないが、開発に成功した際には高い効果が得られる。

大まかに言えば、マジックで勝つためにプレイヤーが取る行動はこの3つだ。

そして俺はどちらかと言えば、1つ目以外の選択をする人間だが、その上でとてもワガママな性質を持っている。

まず最強のデッキを避ける傾向にある。
その理由は単純で、自らの実力不足を自覚しているからだ。ミラーマッチにおいて格上に勝つために、70枚程度同じミラーマッチを勝つ自信がないからだ。
そして練習も苦痛だ。最強のデッキで勝つためにミラーマッチ、あるいは強いとされるデッキと繰り返し練習をするという行為が、俺は楽しくない。マジックを苦痛に感じると、練習時間が減ったり、精度が落ちてしまう。

更にその上で、デッキを選り好みする。
先ほどの例で言えば、黒単アグロのようなデッキを開発することは決してない。それは俺が好みではないからだ。
動きやゲームプランが好みではないデッキを練習することはとても苦痛だ。それはメタデッキにも言える。グルールアグロや白単ウィニーのようなデッキがTier1で、それらを使えばトーナメントで勝率を担保できることがわかっていたとしても、俺は決して使うことはない。すぐに上でも言っている通り、楽しくないからだ。

最強のデッキを、練習時間が苦痛だということを理由に避ける。
俺は自分の好みで使うデッキをある程度選別する。嫌い、あるいはつまらないと感じたデッキはそもそも選ばない。
しかしトーナメントにおいては勝利至上主義。

これら3つの矛盾を孕む要素が混じり合っているのが俺なのだ。
そしてそのために、俺は3つの手法を用いてきた。

2.俺が勝つための3つの手法

【1】サイドボードプランの大幅な変更

多くのプレイヤーが、最強のデッキを使い込み、時間を費やしてミラーマッチなどを練習するという、長い道のりを経てトーナメントでの勝利を目指す中、俺は近道を常に模索している。

その一つが、既存のメタデッキを使いながらも、サイドボードから戦略を変える方法だ。

まずこれは時間効率がとても良い。自らデッキを開発する必要がないからだ。一からデッキを開発するには、すさまじい時間を要することになる。
数回回しただけでは、単に引きが良すぎて勝っただけなのか、デッキパワーがきちんとあるのか判断しにくい。仮に負けまくった場合、それはリストが弱いだけなのか、運が悪いだけか、そもそもデッキコンセプトがダメなのかもはっきりしない。回数を重ねることで結論が出る。

しかし、既に存在しているデッキならば、その強さはある程度担保されている。だからそのテストは必要ない。最初からサイドボードに時間を割くことができる。

サイドボードからゲームプランを大きくズラすためには、相手の想定していないカードを入れれば良い。例えば青白コントロールの《永遠神オケチラ》がそれに当たる。相手は《永遠神オケチラ》を想定していないため、クリーチャー除去を抜いてしまう。どれだけ青白コントロールと練習したプレイヤーでも、このプランを取られれば無力となる。

永遠神オケチラ

相手が最強のデッキで1日6時間練習していようとも、《永遠神オケチラ》をサイドボードに入れた青白コントロールとは果たして何時間練習しただろうか?
だから相手の方がそのデッキに時間をかけていようとも、サイドボードプランをずらすだけで、俺が有利に立てるのだ。

こちらはさほど練習時間を割くことなく、準備たっぷりの相手に勝利する抜け道のような手法だ。


【2】絶対的なキラーカード

これは最近のスタンダードでの4色再生を思い浮かべればわかりやすいだろう。
4色再生は、ティムール再生に大きく優位がつくデッキだ。《荒野の再生》にとってのキラーカードである《時を解す者、テフェリー》を入れ、更にミラーマッチで本来強力なはずの《霊気の疾風》を無力化してしまう。素晴らしいアイディアだ。

時を解す者、テフェリー

キラーカードを入れるのは難しくない。色を足すことで想定外のキラーカードを簡単に入れられる。
俺がトップ8に残ったグランプリ横浜では、一般的な青白コントロールに黒を加えることで、対トロンに《漂流自我》、ミラーマッチで《変遷の龍、クロミウム》など、1色足すだけで多くのデッキにキラーカードを採用できるようにした。

変遷の龍、クロミウム

この方法もまた、デッキ構築という部分を飛ばすことができる。その上キラーカードは唱えてしまえばほぼ勝ちなため、特定のマッチで何度も練習を重ねる必要もない。
要するに、キラーカードが何か、そのゲームの肝をしっかりと理解さえすれば良いのだ。


【3】想定外のデッキを使う

最強のデッキを使うプレイヤーは、当然Tier1~2の相手と多く対戦数をこなしている。
だからこそそれらのデッキと相対した時には、適切な再度ボーディングやマリガンを行うことができ、100%練習の成果を出せるだろう。

だが、そもそも意識の外にあるようなデッキと戦った時はどうだろうか。
マルドゥウィノータを例にあげよう。

あなたがマルドゥウィノータのリストを知らない前提だと思ってほしい。
対戦相手はゲーム1で、《急報》→《悲哀の徘徊者》→《軍団のまとめ役、ウィノータ》と展開してきて敗北した。こちらのデッキはティムール再生。

軍団のまとめ役、ウィノータ

さて、あなたは適切なサイドボーディングを行えるだろうか?

《軍団のまとめ役、ウィノータ》しか現状は見えていないが、赤白ならば《高山の犬師》や《軍勢の戦親分》が入っているため、《霊気の疾風》は効く。しかしマルドゥウィノータにはどうだかわからない。サイドインするべきか。

霊気の疾風

どれだけ1つのデッキを使いこもうとも、想定外のデッキと対戦する時には、100%の力を発揮できない。その間隙を突くことができる。


相手に100%の力を発揮させないのは、1と3の共通したテーマだ。自らの力を100%引き出して戦う方法ではなく、対戦相手のパフォーマンスを下げることで優位に立とうとする手法なのだ。


3.リスト公開制トーナメントの厳しさ

そしてこれらの手法は、少なくとも俺の技術では、MTGアリーナの重要なトーナメントで通用しないと感じた。
マジックフェストオンライン、プレイヤーズツアーは共にデッキリスト公開制のトーナメントだ。リスト公開制トーナメントにおいては、サイドボードプランの大幅な変更も、キラーカードの使用も、想定外のデッキも、今の俺のスキルでは通用しなかった。
マルドゥウィノータの例で言えば、《霊気の疾風》の対象がほぼ《軍団のまとめ役、ウィノータ》しかないことが一見してわかる。これならばミスをすることはないだろう(それでもマルドゥウィノータが勝てたのは、素晴らしいデッキだったわけだが)

軍団のまとめ役、ウィノータ

サイドボードプランの大幅な変更も、デッキ公開性のトーナメントとは相性が悪い。最初からクリーチャーが15枚入っているサイドボードを知られたら、相手はただ除去を残すだけだ。
奇襲性がなければ、アグレッシブサイドボードは成立しない。むしろ本来必要なカードをサイド後に使えない、通常のデッキの劣化となってしまう。

永遠神オケチラ

キラーカードについても同様だ。
ジャンドのサイドボードに《燃えがら蔦》が4枚入っていれば、ティムール再生側はそれをケアするプランを取れば良いのだ。
(正確にはキラーカードではないが)ティムール再生が《夜群れの伏兵》を4枚入れているなら、ジャンド側はありったけの除去をサイドインする。

夜群れの伏兵

リスト公開制トーナメントにより、デッキリストやカード選択による奇襲性がなくなると、いよいよマジックは練習の成果がそのまま結果として現れることになる。
そこには勝つための近道は存在しない。

4.未熟さの自覚

オンラインプレイヤーズツアー前に、俺はリスト公開制トーナメントの厳しい現実に向き合うことにした。だからプレイヤーズツアーではトップメタのティムール再生を使用した。
俺は強いデッキを使い込み、練習すれば、結果はついてくるものだということを、昨年のミシックチャンピオンシップで経験していた。
昨年のミシックチャンピオンシップでは、俺は最強のデッキを選択することが多かった。バルセロナではホガークヴァイン、リッチモンドではシミックフードを選択した。

王冠泥棒、オーコ


実際にその2つのデッキでは、ミシックチャンピオンシップという最高峰の舞台でも、俺は勝ち越すことができた。
ミシックチャンピオンシップの練習には、いつも多くの時間を割き、選り好みも捨てていた。
今回も同じことをすれば、結果が得られるものだと思い込んでいた。

しかし、結果は初日落ちだった。
プレイヤーズツアーで負けたのはたまたまかもしれないし、実際に運は良くなかった。
それでも、俺がこれまでの長いトーナメントマジックライフにおいて、もう少し楽をせず、地力を磨くことに注力していれば、結果は変わったかもしれない。

そう感じるようになったきっかけがあった。
プレイヤーズツアーで、俺はティムール再生ミラーマッチの3本目の後手で、《成長のらせん》、《霊気の疾風》、《発展+発破》、4枚の土地という手札をキープした。
結果は、相手が先手2ターン目に《成長のらせん》を打ち、こちらの《成長のらせん》は《神秘の論争》され、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》で土地を伸ばされ、《サメ台風》を2連打されてゲームに敗北した。

サメ台風

このマッチが終わった瞬間、俺は特に何も感じていなかった。ただ相手の方がたくさんのマナブーストと《サメ台風》を引いただけとして、それで終わらせていたからだ。

しかし、その後とあるプロプレイヤーの配信で、ティムール再生のミラーマッチで《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を1枚もサイドアウトしていないのを見て、俺は自分の敗北したゲームを思い出した。

自然の怒りのタイタン、ウーロ

《自然の怒りのタイタン、ウーロ》は、《荒野の再生》を置かれる隙を作ってしまうミラーマッチではサイド後はなるべく減らすというのが、練習で出した結論だった。

が、実際は土地を伸ばして大きく《サメ台風》を打つのが一番の勝ち筋であり、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》はそのプランには必要なカードだ。後手の最序盤以外ならば、3マナを費やすことにさほど隙は無い。
その上、《荒野の再生》自体、サイド後は枚数を減らすのがセオリーだ。

また、《成長のらせん》で一方的にマナを伸ばされた際には、割り切って《自然の怒りのタイタン、ウーロ》でマナ差を埋めるのも悪くはない。
互いに打ち消しを大量に入れ合うミラーマッチでは、消耗戦の末に《自然の怒りのタイタン、ウーロ》が出てきてゲームを決めることも多い。脱出を阻止する術は《霊気の疾風》しかないのだ。

霊気の疾風

5.反省とこれから

ただ引きの悪さだけで負けたと思っていたあのゲーム、重大なサイドミスを犯していたのだ。
その前のたくさんの練習でも、同じプランを取り続けていたのだから、ミスでゲームを大量に落としていただろう。その時にサイドプランに少しも疑問を持っていなかったのは、驕りという他ない。
そしておそらく、同レベルの色々なミスもあっただろう。一つのミスに気づけなかったということは、同じようなものがいくつもあるに違いない。

今まで楽をした分、純粋な地力が足りていない。にも関わらず、俺は自分が優れたプレイヤーだと勘違いし、するべき反省すら怠った。気付くべきミスにも気付かず、運で片付けようとしていた。

負けて当然だった。
自らの未熟さについて、もう自覚しなければならないのだ。そして反省し、地力をつけていかなければ、これ以上先には決して進めない。今まで勝つための近道を選択していた分、他のプレイヤーより力量で劣っていることを理解し受け止め、まずは力を付けていく必要がある。

プレイヤーズツアーファイナルで黒単を披露した熊谷さんや、マルドゥウィノータを持ち込んだMichael Jacob、彼らのような卓越した構築技術は俺にはない。
今の俺の力では、リスト公開制トーナメントでプロプレイヤー相手に通用するデッキは組めない。一つ上の技術を身に着けるには、やはりマジックの地力を上げていくしかないと感じた。
「勝つための最善策としてデッキ構築を選んだ」のではなく、「勝つための最善策から目を背けた結果、楽な近道としてデッキ構築を選んでいた」俺は、今のままでは技術がこの先向上することはないと確信した。

これからは、デッキを選り好みせずに最強のデッキを選択し、練習を重ねていく。今までマジックで逃げていたことから向かい合っていこうと思う。
とはいえ、時にはミラーマッチを勝つためのブレイクスルーを見つけ、もちろん新たなデッキの開発にも精を出していくつもりだ。
今まで培ってきた技術を活用しつつも、勝つための近道という考えは捨てる。そうすれば力が身に付き、自然と結果もついてきてくれるはずだ。

2020年も残り4か月。
俺は実力不足ゆえに、現在あらゆる権利を持っていない状態だ。
目指すべきはZENDIKAR RISING QUALIFIERの突破。だがいつもの手法でただ近道や抜け穴を見つけて予選突破を目指すのではなく、多くのプレイヤーが当たり前にやっている練習方法で地力をつけ、本選に出場したいと考えている。

最後に。
俺は決して、3つの手法を用いるプレイヤーを批判しているわけではない。
勝つための近道はどんどん利用すべきだし、これからも俺は勝つためにあらゆる合法手段を講じていくつもりだ。
あくまでこの3つの手法を使うことで楽をしていた自分を戒めているに過ぎない。他人のやり方に口を出すつもりは全くない。
誤解のなきよう。

次回はこんな誰も得をしない反省文ではなく、マジックに関する有益な情報を届けられるよう、まずは地力をつけていきたいと思う。
それではまたその時まで。

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