急成長する移動式スーパー「とくし丸」の三方よしな事業モデルとスーパーを超えた可能性
East Venturesの村上です。(@yu8muraka3)
海外スタートアップは大好きですが、国内の良いサービス・企業も沢山あって同じく好きなので今回はそっちを調べてみようと思います。
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この記事では移動式スーパーの「とくし丸」を取り上げます。
移動式スーパーってだけ聞くと、ITとは無縁のアナログでローカルなイメージがありますが、そのモデルや創業の過程はPeter Thielが定義する「ものごとへの新しい取り組み方をする『テクノロジー企業』」そのものでした。
移動式スーパー「とくし丸」とは
移動式スーパー「とくし丸」は、生鮮食品を中心に約400種類の品物を積んだ軽トラックで、主に買い物難民となってしまった高齢者のお家を1件1件回って販売する事業です。
2016年にオイシックスに買収され、ついに今年GMV100億円に到達しました。
面白いのはその仕組み。
https://www.tokushimaru.jp/oubo/
これまでも行商人はじめ移動販売自体は存在していましたが、彼らは仕入れてモノを売るスタイルなので、在庫が余ることを懸念してあまり数多くの商品を持ち運ばず、ユーザー的には満足いく体験ではありませんでした。
そこでとくし丸は販売代行というスタイルをとり、提携しているスーパーから商品を借りて販売。余った分はスーパーに返し割引して売りさばくという在庫ゼロのビジネスモデルを導入しました。
これによって、在庫を気にせず沢山の種類を運べるので、ユーザーの満足度が向上、スーパー側もこれまでとあまり変わらないリスクで売上を積み増しできるのでハッピーに。
さらに販売するのもFC契約を結んだ個人事業主(販売パートナー)が行う形なので、アセットライトに事業を伸ばせる構造で、かつ販売するパートナーもFCのロイヤリティが定額制と良心的で、よくある搾取構造になりにくくなっています。
販売パートナーは約300万円の資金で自分の店舗が持て、仕入れもスーパーから借りるだけのリスクフリー、売れば売るほど身入りが増えるのです。
まさに、消費者もとくし丸もスーパーも販売パートナーも皆が幸せになれる仕組みを生み出しました。
①消費者: 販売代行なので在庫余る心配なく、より多くの品目を届けられる
②スーパー: アプローチ出来てなかった層からの売上をUPできる
③とくし丸: 販売するのもFCのパートナーなので小資本で拡大できる
④販売パートナー: 定額ロイヤリティなので、売れば売るほど稼げる&めっちゃ感謝されるやりがい
ちなみに創業者の方は流通のド素人と自負されています。
とくし丸が伸びたマーケットの背景
とくし丸が誕生した背景は「買い物難民」の増加です。
免許を返納し車に乗れない、足腰も弱く歩くのもしんどい高齢者の方は、近くにない限りスーパーに行けなくなっている現状です。
さらに車で行くことを前提にしたイオンなどの郊外型総合スーパーが、近所のスーパーを喰ってしまったため数自体も減少しています。
運良く連れて行ってもらっても、中々行けないからと買い溜めをして腐らせたりしていました。
当然ネットスーパーを使うにもリテラシーの限界がありますし、生協も1週間のタイムラグがあったりと「ちょうど今欲しいもの(特に生鮮食品)」を手に入れる手段がありませんでした。
なので、仕方なくコンビニ食や弁当の宅配ばかり食べる高齢者が急増し、それにも飽きてしまうという残念な現実・課題がありました。
そして、とくし丸がその課題を解決したのです。
とくし丸の凄いところ
とくし丸の歴史もとても面白いので、ぜひ後半部分も読んで欲しいですが先に事業の話をします。
とくし丸の凄いところは上のビジネスモデル以外に下記があります。
・シニアへ情報とモノを流通させるほぼ唯一のチャネル
・コミュニティと高いエンゲージメント
・メディア戦略
・創業者 住友達也氏の実行力
シニアへ情報とモノを流通させるほぼ唯一のチャネル
むしろ「移動式スーパー」ではなく、こちらがとくし丸の本質的価値だと思います。
というのも、とくし丸は販売する際に高齢者の方と週に2回もダイレクトにコミュニケーションを取るので、「御用聞き」として機能します。
実際、郵便物の投函をお願いされたり、電球を取り替えてあげたり、「次〇〇を持ってきてほしい」と頼まれたり、こうしたやりとりや会話が続くとパーソナルな情報と信頼が蓄積していきます。(*これらは無料サービス)
その可能性に気付いたとくし丸は、普段扱っていない商品も届けるカタログ販売を始めたり、サンプリング調査のマーケティングとしても使われ始めました。
信頼を積んでることによってホンネを聞き出せる価値があるようで、大塚製薬、ネスレなどおもに食品系からの実績があります。
これまで「情報」はせいぜいテレビか新聞、「モノ」はコンビニというマスな方法でしかシニアへアクセス出来ていない閉ざされた流通だったところに、情報もモノもきめ細かく届けられるとくし丸というメディアが誕生して流通が開けた感じです。
コミュニティと高いエンゲージメント
とくし丸はただ単に「商品を届ける」だけでなく、とくし丸を中心に「世間話」も届けていて、「久しぶり〜、元気にしてた?」など地域の会話を生むきっかけになり、コミュニティとしての役割を発揮します。
そうした体験が楽しいのか、とあるお宅に訪問した際には腰が曲がったおばあちゃんが猛ダッシュで駆けつけて「ありがと〜」と言ってくれたり、
娘にスーパーに連れて行ってもらっても、今日とくし丸が来ることに気付いて「とくし丸で買いたい」と何も買わず帰ってきたりする人まで現れ始めます。
とくし丸の方が商品点数は明らかに少ない上に、10円価格が上乗せされているのにです。
価格競争にさらされない付加価値が半端じゃないですし、販売パートナーにとっても物凄く感謝されるので、やりがいがあるみたいです。
メディア戦略
とくし丸は相当足を使って顧客の獲得をしましたが、メディアにもたくさん露出しました。
元々創業者の住友氏がメディア畑なのでその経験をフル活用し、最初のスーパーとの提携が成立したときには新聞社とテレビ局にこの事業構想を発
表したり、事あるごとにメディアに情報発信をし、ときには記者会見も開くなど積極的に露出を図りました。
それと同時に「訪問先募集」「販売パートナー募集」のチラシとポスターを作成し、提携先スーパーの入口、サッカー台、トイレなどに貼ったり、自身のブログの更新も頻繁にしたりと地道な露出も続けました。
それによって「やってみたい」という販売パートナーが続々と現れたり、提携スーパーの獲得に繋がりました。
小資本で事業が立ち上がったゆえの緻密な工夫が見られます。
創業者 住友達也氏の実行力
「買い物難民」のマーケットはあったのかもしれませんが、住友氏の実行力がなければ実現出来なかったんじゃないかというレベルにめちゃくちゃ地道な立ち上げです。
高齢者の方はネット広告は見ないですし、ポスティングしてもまともに見てもらえません。
なので、文字通り来る日も来る日も1軒1軒訪問して聞き取り調査するという日々の積み重ねによって、事業が立ち上がりました。
↓ホームページに掲載されてる宣言です。
この実行をするのは中々にハードな上、しかもとくし丸は熱狂的にユーザーに愛される事業になっているので、スイッチングが起こるのは至難です。
収益構造と業績
とくし丸の取り分は、販売パートナー1台につき毎月3万円を貰うだけです。
あとはカタログ販売の売上、企業からのマーケティング費などがあるのかなと(*こちらは推測)
売れた分に関しては、とくし丸は一切タッチせず販売パートナーが売上の17%、スーパーが13%で分け合います。
またお客さんから全商品一律+10円上乗せして払ってもらい、それも5円ずつ販売パートナーとスーパーで分け合います。
ちなみにこの5円は販売パートナーにとっては、ガソリン代に相当するようです。
稼働する日数によりますが平均日販8.5万円から考えると、販売パートナーの手取りは月に25-30万円ほどです。多い人だと月40万円の手取りも可能だそう。
また、スーパーにおいては売上の数%〜中には10%をとくし丸が占めるくらいまでになっています。
とくし丸 販売開始1ヶ月の売上推移(2012年)
業績
2020年3月期
年間流通総額:107.1億円
稼働車両台数:515台
推定売上高:1.85億円(車両台数 × 3万円)
流通総額を考えると現状テイクレートは大きくないですが、定額3万円という低価格やメディアとしての機能、カタログ販売などの可能性を考えるとまだまだ向上しそうです。
歴史
最後にどのようにとくし丸が立ち上がったのか、どれくらいの成長曲線なのかについてです。
きっかけは両親
そもそものきっかけは創業者である住友達也氏の80歳になるご両親でした。
徳島県の田舎に住む両親も例外なく車の運転を止めてしまえば、今にも買い物難民になるギリギリでした。
よくよく話を聞くと、周辺にも買い物に困っているお年寄りがたくさんいることが判明。
さらに市場ヒアリングを進めると、上で述べたような声を数多く聞き、中には5000円のタクシー代を払ってわざわざスーパーまで買いに行くお婆さんも居たそうです。
そこで、これらの問題を解決できないかと考え、2012年起業したのが移動スーパー「とくし丸」。
この時、創業者の住友達也氏は55歳、2度目の起業です。
元々は23歳のときに徳島県でタウン雑誌『あわわ』を立ち上げ、県内で絶大な人気を誇る一大メディアに育て上げたという経歴があります。
スケールしないことをする
自らの手金1,000万円と銀行からの借り入れ1,000万円で会社がスタートしました。
とくし丸の協力者6人と販売エリア予定地区のお家を1件1件ベタ歩きでお宅訪問する日々が始まります。数十軒に一軒「移動スーパーが来てくれたらありがたい」という声を聞き、5日間で300軒回りました。
その結果、対象地区7,500世帯のうち400軒にはニーズがある算段がつき、ついに2台のとくし丸がコースを回り販売開始、住友氏自ら運転します。
初日の売上は2台合わせて5万円とまずまず。地元のメディアに取り上げられ、徐々に売上も伸びていきます。
すると、次は新コースを開拓するためにまた数百軒のお家をピンポンしながら「要望」がないかを情報収集する。2キロ痩せるそうです。
そしてコースを開拓したらまた自分が販売担当として、運転し高齢者と接していきます。
開始から2週間後には1台で日販5万円を超え始めます。
こうした地道な手法に関して住友氏は
一見、とても効率の悪い話のようだけど、とんでもない。これから先、ずっとお付き合いが続くお客さんに知り合えたのだと考えると、これはとても大切なことなのだ。だからこそ僕たちは、歩くことをいとわないのである。
と言っていて、事業開始から3ヶ月で1000軒以上ヒアリングしました。これだけ自らの足でユーザーと向き合い続けた結果、住友氏は町並みをみるだけで、需要の大きさが分かるレベルに到達したそう。
また面白いインサイトとして、豆腐が売れるかどうかがとくし丸の浸透度を測るバロメーターであることにも気付きます。なぜなら日持ちしづらく、高頻度で今欲しいものが買えるとくし丸でないと手に入らないからです。
この辺りから地元のテレビや新聞などのメディアからの取材も殺到し始め、販売パートナーを希望する人も増えていき、買い物難民を救っていきます。
赤字解消&移動式スーパーの先へ
1年と数ヶ月が経った頃、6台ほぼ全車が日販7万円に到達し、ついに赤字からトントンになり、さらに周辺の県からも引き合いの声がかかります。
ちなみにこの頃でも住友氏が歩いて需要調査をしています。
また、普段の営業では車に載せきれない商品を販売する「カタログ販売」を始めたところ想像以上の反響があり、「おばあちゃんのコンシェルジュ」としての需要も確認。
成長期と買収
3年目になると日販10万円を超え、開業ラッシュが続きます。
しかし3年やってきて、住友氏の給料は誰よりも安い月20万円、はじめの2年は無給という超筋肉質な経営。四捨五入したら還暦の2度目の起業、とんでもないバイタリティです。
その後も順調にエリア拡大、台数は増えていき4年目の月次流通額は1.6億円に達しました。
月次流通額推移
2012年12月:580万円
2013年12月:1290万円
2014年12月:4690万円
2015年12月:1.6億円
そしてついに5年目の6月12日、オイシックスの傘下に入ることになりついには年間流通額100億円まで成長し、まだまだ伸びています。
まとめ
今回調べてこの事業・会社が好きになりました。
高い社会性、経済的インパクト、広がる可能性、どれを取っても素晴らしいなと。
こうした社会を前進させられて、かつ経済的インパクトを与えられる企業ともっともっとVCとしても巡りあっていきたい、支援先に力になりたいと思いました。
正直、まだまだとくし丸について書きたいことはありますが、本をぜひ読んで下さい。
とくし丸を教えてくれた友だち → https://twitter.com/love_moneeey
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