東京オリンピック ブラジル代表分析 決勝 スペインvsブラジル

 こんにちは。馬目裕也です。
 今回はWindtoshさんの企画で、「東京オリンピックアーカイブ企画」をご紹介いただきました。その中で「グループD サウジアラビアvsブラジル」 「準決勝 メキシコvsブラジル」に引き続きブラジル代表の分析をしていきたいと思います。

 東京オリンピックにおいて見事優勝を収めたブラジル代表。決勝の相手スペインは今日の戦術最先端であるヨーロッパの主要国であり、そのチームを差し置いて優勝したのにはどんな理由があるのか。ブラジル代表が各局面でどのように戦ったのかをわかりやすく説明していく。

 結果は延長戦を含め2-1でブラジル代表の勝利だった。試合を振り返るとスペインがボールを保持する時間が長く、ブラジルの守備の時間が長かった。ブラジルの攻撃はこれまでと同様の部分がありつつも変化が見られた。ビルドアップでは、キーパーに戻し攻撃をやり直す場面が増えた。そしてこれまで以上に縦に早い攻撃が目立った。フィニッシュワークでは深い位置を取りに行く動きが増えた。これまでよりも変化が見られ攻撃に幅が見られたように思う。ブラジルのスペインにボールを保持されながらも下がってでも守り抜いた守備と、キーパーに戻しながらつなぎつつも縦に早くいく攻撃、深い位置を取りに行く攻撃が勝利につながったと思う。今回は ①スペインのビルドアップに対するブラジルの守備②スペインの守備に対するブラジルのビルドアップ③ブラジルのフィニッシュワーク について説明していく。

 スタメンはこちら。

1.スペインのビルドアップに対するブラジルの守備

1-1.スペインのビルドアップ

 スペインのビルドアップについて説明していく。システムは4-1-2-3。特徴的だったのが、相手のシステムの急所を使ってくることでだった。ブラジルのシステム4-4-2の以下の急所となるスペースを取り続けた。
2トップの脇
FWとMFの間(2トップの間)
ボランチの脇
2ボランチの間
SBの外側
 主に2トップの脇を取るプレーが目立った。2CB[12][4]が開くか、IH[8][16]が降りてそのスペースを使った。そこからFWとMFの間のスペースボランチの脇のスペースを経由した攻撃が多く、攻撃の始点として2トップの脇を取るプレーはその後の攻撃においてもスペースを作るために有効であると思う。


1-2.ブラジルの守備

 上記のスペインのビルドアップに対し、ブラジルは4-4-2でこれまでと同様ミドルゾーンから守備を始めた。ボールを見つつまずはゾーンから埋めるが、そこから相手(人)についていく守備を行なっていた。スペインが前線5枚気味になるのに対し、ブラジルはこの試合でもSHを外に戻し(幅を取る選手に対しマンツーマンでついていく)SBに内側を見させる守備をして後ろの人数が足りなくなるのを防いだ。
 スペインのビルドアップに対して取りにこうとした場面もあったが、2トップの脇を基点に、FWとMFの間ボランチの脇を使われうまくプレスを外され、結果下がって守備をすることがほとんどであった。


1-3.ブラジルの対応
 

 上記のようにプレスに行っても外されてしまうブラジルだったが、修正でなく許容し我慢する方向で試合を進めた。ボールを奪いにいく守備を第一に考えるのであれば、出どころを防ぐために修正を入れる思うがそれをせず、相手に優位に保持、前進されてもそこは許容し、その先(中盤、ゴール前)で守るやり方で戦った。
 個人的には必ずしも修正すればいいわけではないと思う。修正してもその修正したやり方にまた別の穴があるからである。スペインの狙い通りにされ受け身にはなってしまったが目的はゴールを守ることでそれができればと割り切った采配だったのではないかと思う。ただそれができたものブラジルの身体的な強さをベースにした守備があったからこそだと思う。

2.スペインの守備に対するブラジルのビルドアップ

2-1.スペインの守備

 スペインの守備について説明していく。システムは4-1-4-1。システム、プレスのかけ方同様に「準決勝 ブラジルvsメキシコ」のメキシコ代表に近かったと思う。
 1トップの選手が逆のCBに出されないようにプレスをかけて、運ばせて、ボールサイドでコンパクトを作る。ただメキシコより味方同士の距離を守りながら守備をしているように見え、その分人につく意識は高くなかったと思う。

2-2.ブラジルのビルドアップ

 ブラジルのビルドアップについて説明していく。システムは4-4-2。配置もメキシコ戦とそれほど変わらす、ボランチが1枚降りて1枚は残る形になった。
 変わった点としては、キーパーを使ったやり直しが増えたことだ。メキシコ戦ではボールサイドへ圧縮する守備に対しそのまま同じサイドで前進してしまったため攻撃が窮屈になった。スペイン戦でも同じように狭い空間を作られ窮屈になった場面があったがここで最後尾のGKに戻すことで攻撃のやり直しを行うことができていた。

 またビルドアップで見られた変化としてもう一つが、縦に早い攻撃が目立ったことである。これまでは短く繋ぎながら前進させていく中で、SHのアントニー[11]、クラウジーニョ[20]も足元で受けてからのプレーがほとんどだった。この試合ではボールがない場面でのランニングがあり後ろからのパスを引き出していた。決勝点はコーナーキックからのカウンターであったがここでも早い攻撃が得点につながった。

2-3.ブラジルのフィニッシュワークについて

 ブラジルのフィニッシュワークについて説明していく。これまでのサウジアラビア戦、メキシコ戦では、深い位置を取りにいくのではなくシンプルにゴール前にクロスを入れていく攻撃がほとんどだった。サウジアラビア戦では中に入れ込むパスも見られたが、メキシコ戦では相手の守備もありほとんどがクロス攻撃で終わってしまっていた。
 だがスペイン戦では大きく変化がされていた。前線の選手がゴール前に入るだけでなく、サイドでボールを受けた選手と近い位置、内側の位置をとったり、FWもなるべくサイドに流れような攻撃になっていた。

4.まとめ

  ブラジルが2-1でスペインに勝利し見事優勝を飾った。勝利できた要因は攻撃ではメキシコ戦からの変化があったこと、守備では修正は行わなかったが我慢ができた采配と我慢を実現できた身体的な強さがあったからだったと思う。スペインは立ち位置の優位性を生かして狙い通り進めていたが、その出どころを防ぐのではなく受け身でもそこを許容し我慢に入った守備を見せた。攻撃ではメキシコ戦では攻撃が窮屈になり、スペインも同様の守備をしてきたが、窮屈なところに入れるのではなく、キーパーへ戻しやり直したり、背後にボールを持っていくプレーが増えた。またクロス一辺倒になるのでなく深い位置を取りに行くための配置と動きが見られた。ブラジルは感覚や個々の強さ、技術ベースなチームだと思っているが、この試合ではそこに攻撃の修正で論理の部分を加えて見事勝利につなげたと思う。


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