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就活中の専門学生を道案内した話

僕は、大阪の都心から近い町に住んでいる。
会社から近い場所に住みたくて、結婚するのを機に引っ越してきた。
自転車での通勤や移動は非常に快適だ。

最寄り駅までは800mほど離れているので、電車に乗るときはたまに自転車で、あとはだいたい歩いて駅まで移動してる。

都会だけあって美容院も多く、駅までの通り道だけでも4軒くらいある。みんな切る髪がたくさんあって羨ましい。

その中の一軒に、入ったこともないけど、思い出のあるお店がある。
特別何があったというわけでもない、どこかで見聞きしたような、オチもない話だけど、自分にとってはちょっとした思い出。3年前ほど前のことだ。

ある冬の休日、午前中の用事を終えて家に帰るために電車で移動していたとき。途中の駅で、落ち着いた色合いの服を着た20歳くらいの女性が大荷物を肩にかけて乗ってきた。

僕はドア横(いわゆる狛犬ポジション)に立っていたが、彼女の荷物があまりに重そうだったのと、座席はだいたい埋まっていたので、思わず「ここ、よかったらどうぞ」と狛犬ポジションをお譲りした。その女性は少し驚きながら、「ありがとうございます」と笑顔で荷物を置き、肩で息をしていた。

僕は彼女の大荷物を見て「美容学生かな」と思った。学生のころ、地元の路線で同じような大荷物を持った美容学生をよく見かけていたから。

電車が自宅の最寄りに着くと、その女性も同じ駅で降りた。
僕より先に降りた彼女は駅のホームで明らかにキョロキョロして、どこに行けばいいのか戸惑っている様子。

今時珍しく、紙で印刷した地図を片手に「??」という顔をして立ちすくんでいたので、おせっかい心から「どこか行かれるんですか?」と声をかけた。まぁ、「大丈夫です」と言われたら引けばいい。ちょっと凹むけど。

彼女は少し戸惑いながらも「ここに行きたいんですけど...」と地図と見せてくれた。『こちらにお越しください』という文字の下、印刷されたgoogle mapのピンが立っているのは、家への帰り道にある美容院。

僕が「あー、そこ帰り道で通るんで、よかったら案内しましょうか」と言うと、彼女は「いいんですか、ありがとうございます」と少し安心した表情で答えた。お嬢ちゃん、知らん人にそんな簡単についていったらあかんで。

案内している途中、彼女の話を聞いた。
広島に住んでいて、地元の美容専門学校に通っていること。今日は就職活動で大阪に来ていること、今から地図にある美容院に行って面接と実技試験を受けること。春から大阪で一人暮らしをしたいと思っていること。

知らない土地に一人で出てきて頑張ろうとしている彼女を見て、何とも言えない、元気をもらった。

目的地に到着したとき彼女は緊張の面持ちだったので、僕は「あなたの大事にしてきたこと、努力してきたこと、これからしてみたいと思ってること。素直に話せば、きっとうまくいきますよ。応援してます」と無責任なことを言い、お店に入っていく彼女を見送った。

死ぬほどカッコつけまくってたけど、今思えば、このシーンはお店の人からはどう見られていたんだろう。

「地方から出てきた美容学生が、面接を受ける美容院にちょいハゲのおっさんと一緒に来た」というのは、どうポジティブに見積もっても加点対象となる事項ではない。彼女には非常に申し訳ないことをした。陳謝。

普段は急ぎ足で前を通り過ぎるけど、帰り道とかゆっくり歩いているときにこの美容院の看板が目に入ると、この出来事を思い出す。思い出して、謝りたくなる。

名前も聞かなかった彼女は、結局このお店に就職したんだろうか。それとも別のお店で働いているんだろうか。

何にせよ、素直で明るい空気感を持っていた彼女だから、きっと仲間やお客さんから愛されて、今日もお店に立っているんだろう。と、最近『続・終物語』をdアニメストアで完走した僕は、CV.神谷浩史ばりにナルシズム満載でエピソードを締めようとするわけです。

ここで桜でも舞い散っていれば完璧なのだけど、残念ながら冬のコンクリートジャングルに舞い散るのは僕の前髪。田口くん、エピソード締めるのもいいけど、お店閉める前に落ちた髪をちゃんと掃いといてね。はーい店長。
おあとがよろしいようで。\ドンドン/

(※地名などは変更を加えております。また僕の言動もカッコよく映るように3Dで脚色しております)

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