声をかける。
私はお仕事の一環で、ある喫茶店のお手伝いをしている。
そこでこの前、うれしいことがあった。
70代ぐらいの女性のお客さんがひとりで来店されて席にすわっていた。
なんだか気になったので、
近くの机を拭きながらできるだけ自然に近づいて、
目が合ってから、
「こんにちは、今日はどちらからいらっしゃったんですか?」
と声をかけてみた。
すると、その方はぱっと笑顔になって、
「いや、私はこの島の者でね。」と、そこからは堰を切るように、うれしそうな顔でお話をしてくれた。
聞くと、お店ができる前から気になって見学をしたり、
本土にいる息子さんたちに教えてくれたりしていたそうだ。
若造の私に対してもとても腰の低い、優しい方だった。
他にお客さんもほとんど居なかったので、しばらく話し込んで、
最後には、
「声をかけてくれて本当にありがとうございました。」
と丁寧にお辞儀までして言ってくれた。
じんわり心があったかくなった。
実はその日、他にも70代ぐらいの男性二人組に声をかけて、
その方にも最後には、
「気さくに声をかけてくれてありがとうね。」
と言ってもらった。
この喫茶店で仕事をしていて思うことは、
意外とみんな話しかけてほしいんじゃないかってこと。
一見、「この人話しかけないほうがいいかな?」と思うような人でも、
あのテーブルちょっとしんとしてるなという人たちでも、
声をかけると笑顔になってくれることが多い。
もちろんそうじゃない人もいるだろうけど、
少なくとも私が働く喫茶店では嫌な顔をされたことがない。
私は、来てくれたお客さんがどんな方なのか純粋に気になるのもそうだけど、
やっぱり、お話をする中で声も表情も明るくなってくれる瞬間がすきだ。
「どちらからいらしゃったんですか?」
「大阪からです。」
「えー!そうなんですか!実はわたしもです!」
そうやって共通点が見つかると、相手はほっと安心した笑顔になる。
世の中の「お店」と言われる場所では、「店員さん」と「お客さん」というそれぞれの仮面をかぶっているところが多い気がするけど、
喫茶店なんかだと、不思議とその仮面がないところも多い気がする。
ある程度は「店員さん」だし「お客さん」なんだけど、
でも、ひとりの人間とひとりの人間で会話してるなって。
そう思うことが多い。
そのときも別にお互い名乗り合うわけではなくて。
そのゆるやかなつながりが丁度いい。
あなたがそこにいること、ちゃんとわかってますよ。
ゆっくりしてってくださいね。
そんな気持ちで声をかけている。
またちょっと別の話になるけど、
オーナーの趣味嗜好が表れているお店に安心感を覚えることが多い、というのも最近の気づき。
あ、この人こんな感じの人なんだな。ってわかるから。
あちらから開示してくれているから「かかわりしろ」がある。
匿名性の高い空間、
たとえば置いてある家具や雑貨が全部無難なものとか
働いているスタッフがみんなアルバイトっぽくて同じ制服とか。
そんなんだと、どこか居心地の悪さを感じるときがある。
空間にも人にも存在感がない。
何か作業をするとかなら集中できるかもしれないけど。
私みたいに、声をかけるのが好きな人間からしたら、
どこかにちょっとその人の個性がぽろっと出ていたほうが「かかわりしろ」があって安心するのだ。
私が将来お店をもつなら、
こちらから関わりにいくことはもちろん、
お客さんからも関わってもらえるような、「かかわりしろ」のある空間をつくりたいな。
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