マギ·ザ·ドールズ

第一章   2話  雪融けの少女

時は少女と出会う前に少し遡る。
俺とアスノは例の国の残党を辺境の地の隅から隅まで探して廻っていた。

アスノ『うーん。この辺はもうすっかり、手掛かりすら見当たらないね。』

両手を頭の後ろで組ながらアスノはつまらなそうな顔をして言った。
そんなアスノの頭に軽く手をおき、拗ねる彼を宥める。

トムラ『まあ、奴等も虫じゃないからな。無限に湧き出てくる事なんて無いだろうし、あらかた片付けたからなぁ。まあ、でもこの辺に居なくなっただけで一人残らずって言うのは現実的に考えて無理だろうな。』

そう言うと、アスノはこちらを覗き込むように顔を近付ける。
ただでさえ元々、中性的な顔立ちをしている美少年のアスノの顔が息が掛かる距離まで迫る。
心臓の鼓動が少しだけ高鳴る。

アスノ『ふーん、、。ま、トムラの事だからもうどうでも良いって感じでしょ?』

そう言いながら悪戯な笑みを浮かべつつ、軽く距離が空くくらいに軽く後ろへ跳ぶアスノ。

トムラ『別に、そう言う訳じゃない。ただ、アイツらの生き残りを探して廻るのもいい加減にそろそろ区切りを付けて、この世界を見て巡りたいと思っただけ。』

そう言って俺は何もない辺境の地の先を眺めた。
すると、音もなくいつの間にか隣に来たアスノが俺の片手に抱き付きながら言う。

アスノ『確かに!もうそろそろ、この辺の風景にも飽きてきたとこだしね。ま、ボクはトムラが行く所なら何処だって良いし、どこまでも付いて行くけどね♪』

そう言いながら上目遣いでこちらを覗き込むアスノ。
そんなアスノの態度に内心困りつつ、俺はまたゆっくりと辺境の道無き道をゆっくりと歩きだす。
そんなこんなでアスノに時折からかわれながら道無き道を進んでいると。
しばらくして突然アスノが何かに気が付いて立ち止まる。

アスノ『、、煙の匂い。近いかも!!先に行くからトムラは追って来て!!』

そう言い残すと一足先に走って行ってしまうアスノ。
相変わらず物凄い速さだ、瞬く間にその姿が見えなくなってしまう。
俺はそんなアスノの後をゆっくりと追う、そもそも俺とアスノでは身体能力が全然違うのでアスノの全力疾走には到底追い付く事は俺には出来ない、そんな訳でゆっくりアスノが残してくれたであろう目印を追っていると。
しばらくして空から雪がゆっくりと降り始めた。
この辺の地域ではそう珍しい光景でもないのだが、前世の自分が居た世界ではあり得ない光景だ。
この辺りの地域には四季と言うものがまったくと言っていいほど存在しない。
俺がこの世界に来て過ごすようになってから、約3年くらいが過ぎたが相変わらずこの辺りは寒さは一年を通して厳しい。
少しだけ吹雪いて来た雪が目に入って目が霞む。
腰に巻いていた毛皮のマントを羽織ながら冷たくなった顔を手で包み込みながら息を吐く。

トムラ『、、、まだこの寒さに身体が慣れないな。アスノはどこまで行ったんだ?。』

そう呟きながらしばらく雪が降り積もる道を歩く。
しばらくして一面が白く染まった平地の向こうに煙が立ち上る光景が見えてくる。
歩くペースを少しだけあげながら進む事しばし、そこには何度も嫌ってほど見てきた光景が見えてくる。
無数の屍に、地面に染み出した血、壊れかけた柵に、半壊の家。
降り積もった白い雪が少しだけその生々しい光景を隠してくれてはいるが臭いだけはどうにもならない。
死臭。
焼けた肉の臭い。
焼けた家屋の臭い。
ただ、慣れというものは恐いものだ。
前世の自分だったらおそらく何度も吐いていただろうその光景を、今は目にしても何とも思わないのだから。
そんな事を思いながら立ち止まっていた俺を見付けたアスノが駆け寄って来る。

アスノ『お疲れトムラ!どうやら一足遅かったみたい。ボクが着いた頃にはもうこんな状態だった。生き残りも居ないみたいだし、奴等も引き上げたみたい。ほら、あれ。』

そう言ってアスノが指差した先には何度も見た事がある旗が地面に刺さっていた。
白地に金色の刺繍で、女神のような女性が剣を両腕で抱き抱えるような姿が描かれた旗。
今は無き、神聖国ブライトの国旗。

トムラ『奴等の国旗、、、。まさか、まだ生き残ってたとはな。』

そう言いつつ深い溜め息を吐く。
そう、神聖国ブライト。
あのイカれた人間達の国。
俺がこの世界に来て初めて見た場所であり、アスノと出会った場所であり、そして約1年近く幽閉されていた国だ。
奴等は自分達を神の使徒と称し、数多くの種族を奴隷として虐げていた人間達だ。
そして、この国旗を未だに掲げてバカみたいに略奪と人身売買を繰り返してる連中が、俺とアスノが探しては殺して回っている連中だった。

アスノ『そうみたい。多分、国が無くなった今でもあれを刺してはこれは浄化であり、救いであり、聖戦だとか言ってるんじゃない?バカだよねぇ♪まったく、頭のネジがブッ飛んだ人間がやる事は未だに理解出来ないよ(笑)』

そう言いながら額に片手を当てて、困った顔をするアスノ。
そんなアスノに同意しつつ、俺も溜め息を吐く。
しかし、このままに放置する訳にもいかない。
これだけの数の死体だ、魔物の餌になる可能性やそのままそこを巣にする可能性も出てくる。
もしかしたら、彼等がアンデットや死霊になる可能性だってあるのだ。
なんせ、この世界には魔物という物が存在する世界なのだから。
魔物はあらゆる生物に危険を及ぼす存在だ、放置すれば被害はいずれ出る。
だから、見てみぬふりは出来ない。
俺はアスノと共に壊れた家屋や柵、彼等が生前生活していた時に使っていた物、そしてこの村の村人だった者達を1ヶ所に集め始める。
まずは浅い穴を掘り、そこに彼等の亡骸を積んでいく。
勿論、気持ちがいい作業ではないがこんな作業はもう何度も繰り返しやって来たのだ。
慣れてしまえば何とも思わない。
所詮、人間も生き物だ魂を無くしてしまえば、ただの物。
そこに何の感情も抱く必要もない。
まあ、とは言え死体を運ぶのはまだ抵抗があるので、アスノがてきぱきと運んでは投げて積んでいく。
俺は壊れた柵やアスノが破壊してくれた家屋の破片をそこに同じく投げ入れていく。
そんな中、アスノが声を上げた。
村から少しだけ離れた場所、白い雪が降り積もり、一面真っ白な場所に彼女は居た。
白い雪の中に、赤い染みを作りつつ、雪の中に眠るように横たわる少女。
どうやらこの絶望的状況でも、村人の生き残りが居たようだ。
俺はすぐにアスノに指示を出す。
アスノには後処理よりも、奴等の後を追うように頼むと俺はすぐに彼女に寄り添い声を掛けた。
すると、彼女は微かに声をあげた。

少女『、、、、い、、生き、、た、い。、、、、アイ、、ツ、、らを、、殺、、し、たい、、。』


と、それが俺と少女、ラビィとの出会いとなったのだった。










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