マギ·ザ·ドールズ

都内某所、12月25日午後1時30分頃。
某アパート一室にて、一家惨殺事件が発生。
被害者は加害者の父親、母親、弟、妹ら4人で、加害者はその兄とみられる。
現場には赤い血だまりが外の廊下に滴る程に凄惨な現場だったとその事。
父親、母親は顔がわからなくなる程に殴られて撲殺。
弟、妹に関しては、刃物により複数箇所を滅多差しにされて死亡しているのが確認された。
加害者である神埼 葬(30歳)はその場に佇んだまま警察が突入するまで動かなかったとの事だった。
当時、この事件は世間の注目を浴びた。
何よりも、彼らがある世界的にも有名な会社である、神埼グループの社長一家だった為だ。
何不自由無く、育ったはずのその息子が起こしたこの凄惨な事件は、当時、数多くの謎や陰謀論などが出回った。
それ程にこの事件は謎が多く残る事件だったのだ。
そもそも、あの金持ちの一族の息子である葬氏が何故、一般人の住むアパートに住んでいたのか。
そんな謎を多く残したまま、当時の週刊誌やSNSなどのネット関連の情報サイトでは、多くの意見や色々な説が囁かれた。
そして、何よりも裁判の際に彼が言い残した言葉が当時、多くのメディアをざわつかせた。

裁判官『被告人、神埼葬に、死刑の有罪判決を言い渡す。何か言い残す事はありますか?』

葬『ただ、、愛し愛されたかった。それだけなんです。自由に生きて普通に死にたかった。皆さんにはわからないでしょうけど、、、。何かを愛したり、誰かに愛されるのはそんなに難しい事なんですか?』

当時、それをテレビで観ていた視聴者や傍聴席の人々からのバッシングや野次は物凄く、一時的に視聴率は急増し、傍聴席を乗り越えて殴りに行こうとする者すら現れた。
人でなし。
クズ。
人の皮を被った悪魔。
サイコパス。
イカれたジジイ。
そんな数々の暴言に晒されながら彼は死刑となり、この世を去った。
それからしばらくしても、世間では彼の事をこの世が産み出したクズの代表例として扱われる事となる。

何故、生まれたのだろうか?その意味は?


勿論、男女が混じり合えばそれらの行為によって子供が産まれてくるのは当たり前なのだが、そこに子供本人の意志は有るのだろうか?
優れた親に、優れた環境、優れた才能、健康的な身体。
それら全てを持って生まれるのなら誰しもが願う自由が待っているのかもしれない。
だか、世界はそれを許しはしない。
産まれてくる命に自由の意志は無いのだ。
親が望めば。
周囲が望めば。
国が望めば。
誰もが、産まれてくる子供が幸せになることを望むのか?
本当に?
そうじゃない。
誰かの願いは、あくまで他の誰かの願いであって本人の意志ではない。
そもそも、本人の意志なんて物は始めから重要視されてなどいないのだ。
世界は誰かのために今日も明日も廻り続ける。
それが、皆が幸せに成る為では無くとも。
人間が何かを愛するのは無償の愛ではなく、何かしらの理由があるから愛するのだ。
そして、魂は巡り、やがて辿り着く。
彼の魂も、彼が本来結び付く筈だった者達の元へと。
あるべき場所へと、赤い糸は魂と魂を優しく包み、彼等を巡り会わせる。
異なる世界と、異なる時間軸。
かぼ細い赤い糸をそっと繋ぎ合わせながら、魂の運河の中からそれらを結び付ける。
あったはずの運命を確実な運命へと。


そして、彼はやがて新たな世界で産まれ落ち、運命で結び付いた者達と出会い、やがて新たな神へと至る物語。


マギ·ザ·ドールズ(魔導の人形達)



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