死兆星と呼ばれたの男

少女『ねぇ、ねぇ!!お兄ちゃん!!私、将来大きくなったらアイドルになるんだ♪キラキラ光って皆を幸せにしてあげるの♪』

くすんで少し汚れが付いた服の裾を指でつまみ上げながらその場でくるりと回る可憐な少女。
少女の居る部屋は辺りにゴミが散乱し、脱ぎ捨てられた服の山やゴミ袋に入ったゴミの山が狭い部屋の半分を占めていた。
そんな酷い状況の中でも少女の顔には笑顔が咲き誇り、画面が割れたテレビの淡い光が少女を光輝かせて居た。
テレビに写る歌って踊るキラキラした、アイドルの姿。
そのテレビを夢中で観ながら同じように踊って歌う幼い可愛い妹。
そんな妹をなんとも言えない顔で見る俺。

俺『ふーん、まあ、頑張ったらなれるかもな。』

そう言いながら俺は読んでいた漫画の本を閉じた。
妹はそんな俺を見て少しだけ不思議そうな顔をすると。

妹『えー!変なの!!お兄ちゃんはヒーローになりたいんでしょ?前にそう言ってたじゃん!!』

そう言うと少しだけ顔を膨らませて不機嫌そうに俺を見る妹。
確かにそんな話をした気がしたがその時の俺は何故か不機嫌で少し不貞腐れた態度で言う。

俺『俺には無理だよ、、。だってヒーローってさ、悪口を言われてもそんな奴等も助けなきゃいけないんだろ?そんなのおかしいよ!!』

そう言うと不貞腐れて、持っていたヒーロー漫画をその場に軽く投げ捨てた。
妹はその漫画を拾うとその本を胸に抱いたまま、何かを閃いた顔をすると笑顔で俺にこう言った。

妹『じゃあさ!!お兄ちゃんはダークヒーローになりなよ!だってダークヒーローは自分の守りたい物だけを守るそんなヒーローなんだよ♪お兄ちゃんにピッタリじゃん♪』

そう言って笑う妹の顔。
あの時のあの笑顔。
彼女を思い出して少しだけ微笑む。
懐かしい、懐かしい昔の思い出のほんの一面。
今は亡き妹との懐かしい大切な思い出の一つ。
大事な、大事な俺の宝物。
しかし、現実は上手くいかないものだ。
妹亡き後、家族は前にもまして粗く荒んだ、そして自分達のしたこと棚に挙げて、全てを俺のせいにして俺に強くあたった。
そんな最低の環境を作り出した、張本人達はまるで被害者づらをして偉そうに暴言を吐く。
そんな子供時代を過ごし、やがてやっとの思いで家を離れ社会人になって、はや数十年が過ぎた。
一人暮らしにも慣れ、俗に言うブラック企業で魂と精神を磨り減らしながらもただただ生きるために働く毎日。
まともな親の元に生まれてきたならば、、こう思う事は何度も何度もあった。
しかし、現実は金の無い者に、そして才能の無い者にとってはまさに地獄と変わらない。
努力を重ねて足掻いても足を引っ張る同僚や自分の自慢話しか能の無い無能な上司。
少しでも気に入らないとわざと絡んでくる者。
余計なお世話を妬いては逆ギレする者。
特に関係もないのに上から目線で生意気な事を言う者や影口や陰湿な噂話を広げる者。
人間の生きる世界は何故こうも悪意に満ち溢れて居るのだろうか?
そんな自分達を本来、守ってくれる側の者ですら己の事で一杯の自己中心的な者しか居ない、そんな世界。
金の無い者には訴えることも、自ら危害を加えてきた者に手を出すことすら儘ならないそんなルールを作った世界。
でもまあ、しょうがない。
この世界を作った者は違えど、この世界は人間が中心の人間の世界なのだから。
そこに悪や正義なんてものはほんの人間の1面でしかないのだから。
全ての人に平穏と平等な世界を。
そんなのは決して叶わない儚い夢だ。
今、僕達が生きている世界の何処かで誰かが理不尽な理由で虐げられ、人生を蔑ろにされては絶望して、誰にも知られずに死んで行く。
この世に生を受けた瞬間からルールに縛られて生きていく世界。
しかも、人間が作ったルールにだ。
人はいつからこの世界のルールになったのだろうか?
人は生きて、そして死んで行く間に一体どれ程の命を刈り取りながら生きているのか。
動物や植物、虫に至るまで自分達がより豊かに過ごしやすくするために人間は同じ人間ですら傷付け、陥れ、そして死へと追い込んでいく。
無駄なものや邪魔なものは排除される。
豊かなものがより豊かに、貪欲な者がその飽くなき悪意を振り撒く世界。
そんな狂った世界をそんな現実を唯一忘れさせてくれる物、俺を狂わせないで正気を保たせてくれる物、それが俺にとっての唯一の生きがいヒーローアニメやゲーム、漫画や映画、誰かが作った空想上の物語。
勿論、現実であったリアリティのある物もあるが、それでもその作品達は俺に一時の安らぎや感動を与えてくれた。
そんな物ですら、都合の良いように利用し、あたかも自分達が作った偉業だと言い出す愚かな人達がいるこんな世界。
何が正しくて、何が間違いなのか?
常識を決める100人の人間の中に70人の悪意に満ちている人が居るとして多数決で物事を決めているこの国の考え方や常識は果たして本当にそれらの人が出した結論は正しい答えとなるのだろうか?
俺には到底理解出来ないし、したくもない。
ただ人生を生きる事に疲れてしまった。
他人に、人間に関わることが嫌になってしまった。
人に優しく出来ない人達が多いそんな世界に価値なんてあるのか、、、。
そして、俺は身体を重力に委ねて落ちていった。
あれ程怖かった死ぬと言うことに対して今はむしろ落ち着いている気さえする。
確実に死ねるように、万が一が無いように。
やっと、やっとだ。

俺『咲、、、。今、会いに行くよ。兄ちゃんやっぱり、ヒーローには慣れなかったよ。』



そして、人の、世界の悪意がこの世で最も恐ろしく、そしてその後のその後世界にも長く深く痛々しく歴史に刻まれるもっとも恐れられ、畏怖を抱かれ、語られるダークヒーローを産み落とした。





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