マギ·ザ·ドールズ

第1章  4話  屑達の行方

元神聖王国第一師団のアジトでは一人の大男がその行き場の無い苛立ちを奴隷の女にぶつけていた。
獣のような声が薄暗い地下室にこだます。
ガチャガチャと鎖が激しく揺れ、女の奴隷の喘ぎ声なのかそれともうめき声なのかわからない程の声が激しく辺りに響く。

大男『ふん!ふん!。おら!!もっと俺を気持ちよくさせろ!!!出来なければ殺すまでだぞ!!ほら!!もっと叫んで俺様を興奮させてみろ!!』

そう言いながら女奴隷の髪を引きちぎる勢いで激しく握り、腰を激しくうちならす。
しばしの間、激しく響いていた音がやむと男がその地下室の扉の向こう側で待機していた部下へと声をかける。

大男『おい!!聞こえるか?水と替えの服を持ってこい!急いでだ!!』

すると返事が反って来るなり、急いで何処かへ行く部下の足音が聞こえた。
男はその音を聞いたあと、一通りの行為で疲弊しきって床に転がっている鎖に繋がれた女奴隷に声をかける。

大男『おい、、。いつまでそうしているつもりだ?さっさとお前の液で汚れた俺の物を舐めて綺麗にしろ。』

大男にそう言われた女奴隷は力無くゆっくりと起き上がると男のそれに付いた自身の液と男の汚らわしい液を丁寧に舐めとる。
男はその様を見下ろしながら大層上機嫌に顔を歪ませた。
しばらくすると部下の声が扉越しに聞こえてくる。

部下『騎士団長!!お持ちしました!!』

それを聞いた男は今の今まで自身のあれを丁寧に舐めとっていた女奴隷の髪を掴み上げその顔を大きなその手で平手打ちにした。
吹き飛んだ女奴隷が地面に数度頭を打ち付けるが、その腕に嵌まっている鎖がその場に彼女の身体を引き戻した。

大男『ふん、、、、。汚らわしい。おい!あとは洗っておけ。他の女奴隷共もだ。』

そう言って部下から服を受け取るとその場から出ていく大男。
残された部下が地下室の扉の向こう側を見て少しだけ嫌な顔をしたがそれは男には気付かれなかった。

部下『は!!女奴隷共の身体の怪我はどう致しますか?ポーションを掛けましょうか?』

すると大男は立ち止まり少しだけ考えたあと去り際にこう言った。

大男『その程度の怪我で奴隷共にポーションは勿体無かろう。放っておけば自然に治る。それよりも他の部下達に言っておけ、死ぬ程に痛めつけるのはやめておけと、そうそうあの頃のように替えが利かないのだからな。』

そんなやり取りが行われている一方で、突如現れた全身フードで隠れた謎の人物と対峙する形となった元神聖王国第一師団の副団長を勤める男はその子供が放つ不気味なまでの雰囲気に今にも飲まれそうになっていた。
部下の一人のマルサに至ってはさっきから取り乱し使い物になら無い。
相手は子供、その実力も正体も未知数。
ただ解っている事は、相手はこれだけの人数を相手に全く怖れる事無く、それでいて武装すらする事無くこの場に現れたと言う事。
さらにはマルサの恩恵[鷹の目]の効果を何らかの方法で無効化し、我らに一切気付かれる事無くこの場に現れたと言う事だけ。

副団長『探す?さて何の事だか解りかねますが。失礼、私はこの団をまとめる副団長のエルムと申します。貴方は何故私達を探しているのですか?それに見ての通り、私達は忙しいのです。邪魔しても何も良いことなんてありませんよ?』

私がそう返事を返すとその少年はしばらく無言で何かを考える素振りを見せる。
そして、こちらを小馬鹿にしたように笑うと、こう言った。

少年『ふふふ♪あーおもろ♪何処からその自信が湧いて出てくるんだか。まあ、いいや♪僕はその君達がこれから向かう先と、君達がこれからどうするかが気になるけどね♪邪魔すると、どうなっちゃうのかなぁーって(笑)あ!もしかして殺されちゃうとか?きゃーー♪ヤバイかも!!♪』

そう言って楽しそうに無邪気に笑う。
その言い方や態度に苛立ちを普段だったら覚えるのだが、彼から放たれる存在感が一際大きく増したのを私は見逃さなかった。
他にもその気配に気付いた者が何人か居たのだが、それ以外の部下達はその少年に苛立つ様子を見せる。
これは危険だ、私の勘が激しく警鐘を鳴らす。
そもそも色々とおかしいのだ、この少年は私達と反対側から来た筈なのに彼の後ろには足跡さえ無く、それでいて先程から魔物の気配すら一切感じないのだ。
普段ならあり得ない、私達はこの道を熟知している。
しかし、どう考えても今のこの状況は異常そのものだ。
私は相手に気取られぬように片腕に光の魔力を集中させ、回りに居た部下達へと声あらげる。

エルム『皆さん!!、今装備しているあらゆる防具や武具をその場に投げ捨てて後ろを振り返る事無くこの場から逃げなさい!!全力で、魔力による身体強化を最大限に出しきって立ち去るのです!!』

私の言葉に素早く反応した一部の部下達は振り返る事無くその場から装備の大半を投げ捨てながら逃げ出した。
残った部下達は私の言葉に疑問をうかべながら私と相手の少年を怪しむように見る。
次の瞬間、一人の部下が疑問の言葉を上げようとした。

部下『副団長ー(笑)相手は子供一人、何をそんなに必死に警戒して言わなくても、、、なあ、?皆、、、、、。ん?』

その言葉を最後に少年から一番近くに居た部下の一人の首がその場に転げ落ちる。
一瞬の早業、その場に居た元神聖王国騎士団の誰もがその転がった頭を目で追った。
そして、また次の瞬間にはその場に居た筈の少年の姿が一番近くにあった荷車の荷台に積まれた牢屋の上へといつの間にか移動していた。
そしてまた、その近くに陣取っていた部下達六人の首が音もなくその場に転げ落ちる。
首を失った胴体が大量の血渋きを上げながらその場にバタバタと倒れると、余りの事に理解が追い付かなかった残りの部下達も必死の形相で装備の大半を投げ捨てて悲鳴を上げながらその場から逃げ出した。
そしてその様子を楽しげに上から眺める少年。

アスノ『あははは♪ほら、早く逃げないと君達じゃなくて、僕が君達を一人残らず殺っちゃうよー?♪』

その様子を唖然としながら見るだけしか出来ない私。
動こうにも恐怖と驚きで身体がその場に張り付けにされる。
しかし、このままでは全滅してしまう。
やっとの思いで私は片手に集中させた光の魔力を一気にその少年の額に向けて放つ。
次の瞬間、バヂッンと言う独特の音と共に牢屋の上に座っていた少年の身体が宙を舞い後ろの雪が積もる地面へと叩き落とされる。
確かな手応え、この魔法は私の十八番で、今の今まで多くの敵兵や冒険者、数多の魔物達を殺してきた。
文字通り光の速度で練り上げた光属性の魔力の塊を相手にぶつける魔法。
倒れた少年を見て、まだ油断は出来ないが小さく微笑む。

エルム『ふふふ、、、。不可視の弾丸(プリズムレイ)どうですか。流石の化物でもこれを食らってただでは済まない筈、、、。皆さんは、どうやら逃げきったみたいですね。あとは、私だけ、この際、奴隷達は後で回収する事にしましょう。』

私はそう言って警戒を緩めた。
しかし次の瞬間、それが間違っていると気が付くのには余りにも遅すぎた。

アスノ『ふーん♪やるねー♪ド派手で高威力な魔法じゃなくて、派手さは無くとも確実に相手の急所を貫く程の圧縮された高威力魔法。プリズムレイだっけ?もしかして、オリジナル?ふむふむ、そうか♪おじさん(光の加護)持ってるんだね♪道理で、、、。納得納得♪』

そう言うと倒れた筈の少年が無傷で何も無かったかかのような様子で立ち上がった。
驚くよりも早く私は更に魔力を練り上げ、両手に力を集中させ続けざまに立ち上がった少年へと魔法を放つ。

エルム『ば、化物が!!プリズムレイ·デュオ!!!』

不可視の弾丸が少年の頭と心臓を貫く筈だった。
しかし、少年はなんと不可視の弾丸をその場で人並み外れた身体能力で身体を宙で高速回転させて避けて見せた。
余りの事に理解が追い付かなくなる私。

エルム『ば、バカな!?防御するならまだしも避けるなんて出きるわけがない!!!この、化物が!!!次で終わりだ!!!プリズムレイ·ファンファーレ!!!』

続けざまに魔力を高速で練り上げ、不可視の弾丸を頭、心臓、両手、腹、計五ヶ所を狙い定めて撃つ。
私が作り出した最大級の秘蔵魔法を相手にぶつける。
流石の化物でもこれだけの数の光速で撃たれた弾丸を完全に無効化する事は不可能の筈だった。
しかし、いつまで経っても手応えも無ければ、少年はその場から倒れる事すら無い。

エルム『、、、、。影?いや!、そんな筈は無い!?私の魔法は今の今まで外した事が無い。まさか、無効化!?いや、そんなはずは、、、!?!?』

私が言葉を続けようと声を発するより前に恐ろしいまでに冷たい声が私の後ろからかけられる。

アスノ『違うよ?あれは幻影♪さっきの魔法はもう完全に見飽きたから、地面にはたき落としたよ?ほら、よくあの影の下を見てみなよ♪ほら?』

私はその声が言うようにゆっくりと視線を幻影の下に向ける。
そこには地面に確かに、五ヶ所深い穴が穿たれていた、未だに地面が光の熱で熱くなっているのか回りの雪が溶けて水になっている。

エルム『そ、そんな、、、、。私の奥の手が、、。そうか!?お前、闇魔法の使い手か!?どうりでわた?!?!?!、、、ヴグィ!』

私が言葉を発するよりも早く私は声が出なくなる。
息が出来ずに苦痛でもがくが何故か手が上がらなかった。
それどころか下を見れば自分の首以外地面に横たわっているではないか。

エルム『!!?!。』

声にならない叫び声を上げる。
だが、何より意味がわからないのはこの状態でも私がまだ生きていると言う事。
下には頭をむしりとられた身体が未だにバタバタと何故か、大量の血渋き上げながらのたうち回っている。

アスノ『どお?♪意味がわからないでしょ?でも、苦しくて物凄く痛いよね?よしよし♪大丈夫大丈夫♪僕が回復魔法をかけ続ける限りは死なないから♪あ、違うか♪死ねないから♪』

少年は私の頭を優しく撫でながら、もがれた私の頭を持って未だに脅えて地面にひれ伏して動かない部下のマルサの所に歩み寄る。

アスノ『君、あの時の生き残りだね?まさか、生き残りが居たなんて僕もまだまだ詰めが甘いよね。ほら、これ持って♪これから君はこの頭を持って例の騎士団の団長さんに渡しに行くんだ♪良いね?』

すると今の今まで脅えて地面に頭を伏せていたマルサが頭を上げて顔面を涙でぐちゃぐちゃにしながら頷く。

アスノ『よしよし♪良い子だね♪んじゃ、早く行って♪落としちゃダメだよー♪』

そう言うと私の頭を抱き抱えたマルサは夜の闇へと消えて行った。
私は自分がどうなってしまっているのか、意味がわからないまま、この永遠に続く苦しみを味わう事となる。

その後、私の頭を抱えたマルサはアジトの前まで辿り着くとそのまま自らの舌を噛み切って自害した。
残された私は何故私がこんな仕打ちを受けなければならないのかと嘆きながらいつの間にか意識は暗い闇へと飲まれていった。


その後、この森では頭の無い胴体が何故か魔物となり永遠に無い頭を探し回り、森の中を徘徊する様子が冒険者達の間で噂となった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?