マギ·ザ·ドールズ

第一章  1話   雪兎


辺境の地域に冬の間しかその姿を現さないある珍しい魔物が居る、その魔物は身体全てが貴重な薬の素材になるがその数が限り無く少なく、魔物なのに臆病で争うのを嫌う。
あの恐怖の象徴たるドラゴンと同等に価値の高い魔物、ただの獣なのにその希少さから幻の幻獣とさえ言われた魔物、雪の様に白く銀色に輝く体毛に包まれていて、ルビーの様に紅い瞳を持つ魔物。
群れを作らず、その生涯を1匹か家族のみで過ごす魔物。
私はそんな魔物を美化した、今の自身の姿に重ねて思った。
身体に降り注いだ雪が残り僅かな身体の熱を奪う。
辺りに染み出す自身の血が白い雪に赤い染みを作る。
切り刻まれた足の感覚や腕の感覚はもう既にない。
踏みつけられ、殴られたお腹はもう痛みも雪の冷たさも感じない。
力一杯に引っ張られ、千切られた私の栗色の髪の束が辺りに散乱している。
ボロボロのになった服は最早元の姿すらわからない程に汚れ、汚された。
ナイフで抉られた片目は、その焼ける様な痛みすらもう何も感じなくなった。
私に残された時間はあと僅かだろう。
だから、あの有名で美しい雪兎に自身を重ねたって罪にはならない、そう思いながら遠ざかる意識の中おぼろげに笑った。
大した人生では無かった、辺境の田舎の名も無い冒険者夫婦の娘で、ただの何処にでも居る農民の娘。
髪は栗色、瞳も栗色、顔には小さな出来物がちらほら出来ているそんな何処にでも居るただの娘。
それでも、それでも夢はあった。
いつか、父や母の様な冒険者になり、この世界をこの足で巡り、この瞳で世界中の美しい景色を見て回る。
そしていつか、旅で出会った素敵な人と愛を育み、子を成す事を。
摩りきれて文字化けした、あの絵本の様な素敵な冒険をしてみたかった。
だけど、それはもう叶わない夢になってしまった。
何度も、何度も神様に願った。
だけど、誰も助けてはくれなかった。
何度も、何度も叫んで、助けを求めた。
それでも、奴等はそんな私を嘲笑いながら犯した。
勇敢で優しかった父は、あいつらに弄ばれながら殺された。
聡明で優しかった母は、あいつらに犯されながら私を残して先に旅立ってしまった。
優しかった村の人達も、あいつらに弄ばれながらその半分以上が殺された。
私の親友達はあいつらに犯されながら何人か残して連れていかれた。
残されたのは、山積みにされた死体と、犯されて殺された女達。
やつらは三日間かけて、私の故郷を汚し、壊した。
焼けた家から人と物が焼けた臭いが漂う。
積まれた死体からなまものの臭いと排泄物の悪臭が漂う。
だか、それももう何も感じなくなった。
私は死ぬんだろう。
夢も叶わず、助けも無く。
それすら、今となってはどうでも良いと思えた。
まどろむ意識が少しだけ心地よかった。
降り注いだ雪の冷たさも今となっては心地よかった。

少女『、、、、、、綺麗ぇ。』

死に際に見たその雪が降り注ぐ景色が片目に映り、涙が溢れた。
遠のく意識、人生の終わりに見たその景色を私は忘れる事は無いだろう。
悔しさや悲しさ、怒りや恐怖、それすら忘れて私は思った。
それを最後に私の意識はまどろみに沈んだ。


少年の声『あちゃー。少し遅かったみたい。、、、あれ?この子、まだ息してる?嘘!?こんな状態でも生きてるよこの子、まあ、もう死にかけだけど。トムラーこっち!こっち!』

青年の声『、、、、、。あいつら。まだ生き残ってたのか。悪い、アスノそっちを優先してくれ。』

少年の声『はーい!そんじゃ!行ってきまーす。あ、そうそう!!ご褒美は熱いチューで勘弁してあげるね♪』

遠ざかる足音、残された青年は少し恥ずかしそうに小さくため息を吐くと残された少女に寄り添う。


青年『、、、聞こえるか?。もし、このどうしようもない世界にまだ未練があるなら、俺が君を繋ぎ止めようか?』


私は手放したはずの意識をまた手繰り寄せては、彼に願った。
もう一度、あいつらを殺す機会を私に下さいと。




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