死兆星と呼ばれた男

エピソード1   胎動

私がその現場に居合わせたのはほとんど偶然だった。
たまたま近所のいつものお散歩コースを歩いていた時、何か大きな物が落ちた音が不意に耳に届いた。
その音は不気味で生々しいグチャっと何かナマモノが地面に叩き付けられたような嫌な音だった。
連れていた愛犬がその音がした方向へと吠える。
全身に悪寒が走って身体がそちらの方に行こうは思えず力が抜ける、愛犬が力一杯、私をその場所へと連れて行こうとリードを引っ張るが。
勿論、そんな音がした方へ行きたいと思うわけもなく私はリードを必死に引っ張った。
それに時間は深夜を回っていた。

私『ちょっと!?、、行かないから!!ほら、こっちに来なさい。』

犬『ワン!!!!ワンワンウゥヴヴヴヴー!!!!』

何かに怯えるようにその方向へと吠え続ける愛犬。
物凄く、嫌な感じはする。
時間は深夜、しかもこの先には古い廃校があったはずだった。
確か、老朽化が進んでいて今月中には取り壊しの作業が入るとチラシが近所全てに配られてたはず。
新しい校舎はそのすぐ近くにもう既に建っていたはずだ。
そらからまもなくして誰かの悲鳴が響き渡った。
勿論、私じゃない。
私は急いでその場から逃げるように家へと帰った。
バクバクと脈打つ心臓。
私が悪いことをしたわけでもないのにその鼓動は治まる気配すら無かった。
その日は寝るまでにも何度も何度もあの嫌な音がよみがえってきてあまりの怖さに耳を塞ぎつつベットに深く潜って寝た。
翌朝、目を覚まして洗面台で顔を洗う。
昨日の出来事がまだ頭から離れてくれない。
それにあの時感じた嫌な気配とあの音。
今でもその時に感じたあの嫌な感じが抜けきっておらず身体が身震いする。
あの後も愛犬は興奮が治まらない様子で窓の外を観ては昨日の場所へと顔を向けて眺めている様子だった。
あの現場からは、かなりの距離があると言うのに、それが更に不気味さを増してその日は珍しく眠りが浅くなってしまった。
目の下に出来たクマを指でなぞる。

私『、、、はぁ。気が重すぎ、、、。会社、今日は休もうかなぁ、、、、。でも、休んだら休んだでめんどくさいしなぁ。』

そんな小言を言いながらも、メイクをして会社に行く準備を済ませる。
入念にファンデーションを顔につけ、目の下の深いクマを隠した。
家から出る際に愛犬にご飯をあらかじめ多めにあげて家を出る。
昨日は興奮していた分、随分とぐっすり眠っていた様子だった。
スーツに身を包み、メイクもバッチリ決めて家を出る。
アパートに鍵をかけて仕事場まであとは車通勤だ。
変わらない日常、平凡でそれでいて退屈な日々。
そんな日常を今日も過ごす。
そんなはずだった。
しかし、そんな日常は唐突に変化することになった。
昨日の現場に沢山の人だかりが出来上がっていた。
気にはなったが見て見ぬふりをした。
関わらない方が良い、そう判断したからだ。
職場にたどり着き、いつもの事務作業を始める。
同僚の子には体調悪そうだけどと心配されるがそんなこと無いよと笑って誤魔化した。
実際に体調は悪くはない。
ただ、今朝の事が頭から離れてくれなかった。
そんな矢先にテレビからニュースが流れてくる。
その内容は昨日の出来事の様だった。
一瞬、身体が身震いする。
ニュースでは昨夜、深夜1時頃、男性が古い廃校の屋上から飛び降り自殺を試みたと言っていた。
しかし、その男性は現在、意識不明で病院に搬送されたとしか言われていない。
おかしい。
あの時、確かに聞いた音は何かが地面に叩き付けられ潰れたような音だった。
今でもまだ耳に残っているあの生々しい音。
忘れたくても、忘れるはずがない。
ついつい業務の手を止めては、そのニュースの情報に意識を持っていかれる。
搬送された病院は流石に公開されなかったが、近所の緊急搬送を受けられるデカイ病院なのは間違いない。
意図せずとも、頭の中ではその病院を絞っていってしまっている。
恐らく、あそこの総合病院には間違いない。

私『、、、あそこかなぁ、、。いや、、やっぱり止めよう。考えるのも怖いし。それにしても生きてる、、、うーーん。あの時の音は絶対に違うはず。』

そんな事を一人で呟いていると隣の同僚の子が話し掛けてくる。

同僚の女『?おーい。やっぱり、今日変だよ菜穂子。早退した方が良くない?顔色もやっぱり悪いみたいだし、、。それにさ、さっきからテレビのニュースに意識もってかれすぎ(笑)今、机に文字書いてるよ?(笑)』

そう言われて初めて自分が書類にでわなく、机に文字を書いていることに気がつく。
慌てて、修正テープを机の引き出しから出そうとして思わず机に手をぶつけてしまった。

私『、、、、痛っ。はぁ、最悪、付けづめ剥がれちゃったし、、、。』

同僚の女『うわぁー。痛そぉー。大丈夫?血出ちゃってるじゃん。やっぱり、今日休みなって。私から上司に上手く言ってあげるからさ。』

確かに、今日は駄目かも。
そう思った。
そして、その日は同僚の子が上手く上司を説得してくれたみたいですんなりと帰宅することが出来た。
なんなら上司にも心配されたくらいだった。
それにしても、あのニュース。
実は気になった事は、もう一つあった。
それは、その搬送された人が昔の友達のお兄さんだったからだった。
ふと、昔の知り合いの面影を思い出す。
イジメにあって自殺してしまった、当時の私の一番仲が良かった友達。
クラスでも目立たなかったあの子事を。
あれは今でも思い出すとやるせない気持ちになるそんな出来事だった。


そんな彼女が昔の思いでを思い出している頃。
ある病院の一室では、ある人物がその眠りから目覚めようとしていた。

男『、、、、、天、、じょ、、う、、。』

うっすらと目を開けるとそこには白い天井が目に入ってきた。
そうか、俺は。

俺は、死ねなかったのか、、。




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