死兆星と呼ばれた男

エピソード3   生誕

男『、、、、雨か。』

男の子『?おじちゃん!!お外は、雨なんて降ってないよ??変なのー!!』

そう言うと小さい男の子は笑いながら楽しそうに病院の廊下を走って行ってしまう。
残された俺は、その後も今は晴れている病院の廊下の窓の外の景色を静かに眺めていた。
確かに、今日は晴れている。
でも、俺には少し先の未来の出来事が目に映るのだ。
意識すればだが。
この病院のベッドで目を覚ましてから約3日間、あれから俺はおかしな光景を何度も見た。
最初はついに頭がおかしくなったのかと自嘲気味に笑ったが、それはやがて確信に変わった。
俺にはこれから起こる事がうっすらと透明に目に映るのだ。
最初はこの病室に来る看護婦が物を落とす所から始まり、次第に慣れると自在に先の先の出来事まで目で視れるようになっていった。
それ以外にも不思議な、いやおかしな事は立て続けに沢山経験した。
相手を意識すると相手の考えてる事が理解できるし、相手の過去の出来事や未来の出来事までもが頭の中に記憶として流れ込んでくる。
最初こそ、その余りの情報量に気持ち悪くなりトイレに駆け込み、何度も吐いたが慣れてくれば何とも無くなった。
それ以外でも、壁越しに隣の病室の住人の行動を目で透視したり、遠く離れた物をまるで上から見下ろすように眺めたりと。
漫画やアニメでよくある、未来視や千里眼的な力が使えるようになっていた。
他にも、遠く離れた人の声を聞いたり、集中すれば近くの物を軽く浮かしたり、少しだけ動かして落としたりする事も出来るようになった。
まるで念力のようなそんな力も。
子供心に戻り、ついつい心が踊ったが直ぐに我にかえった。
いや、我にかえらざるおえなかった。
もし、この世界が異世界だったらこの力で新しい自分の人生をもう一度やり直ししていたかもしれないし、今とは違う人生を歩んでいたかも知れない。
こんな非現実的な力があれば。
でも、俺はここに居る。
このどうしようもない現実の世界に。
力に気付き、それを自由に使えるようになる頃には身の回りの世界をより深く知って深く絶望する事になった。
聞こえてくる心の声は、不平や不満に満ちた声。
勿論、それだけでは無いが。
人の良さそうな隣の老人の過去を知ってはまた深く絶望した。
人には知られざる過去があり、それは自分と僅かな知り合いの中で完結している事で他人が知り得ない物なのだ。
でも、俺にはそれが知り得てしまう。
見えないものや隠そうとしている物ですら見えてしまう。
その人が、今はどんなに良い人物であれ過去は違う人物だった事が。
その後、俺の隣のベッドの老人は急に体調が悪化して死んだ。
彼の家族が駆け付け、彼のその姿を見て涙を流していた。
だか、俺はそんな光景を見ても何とも思わなかった。
それに彼を見て涙を流す家族のその内の息子か娘が思っている事も手に取るようにわかって冷めてしまう。
彼の残した物を欲する者。
彼を元々嫌っており、ホッとする者。
様々な感情が俺に流れては消えていった。
人間はその内に様々な感情を抱いている、それが良い感情であれ、悪い感情であれ相手に気付かれなければそれは無かった事になる。
そして、この死んだ老人も過去に複数の誰かを陰湿な苛めで傷付けて居るがそれは今は無かった事になっている。
今は良い人、過去は悪い人だかそれを知らなければ誰にもわからないまま美化されて行くものなのだと。

医師『、、、さん。黒木さん!!。ちゃんと聞いてましたか?』

そう言うと目の前の医者が少し不機嫌そうにこちらを睨みつつ見る。
今は退院の手続きをしている最中だった。
今朝、晴れていた空は今は雲っていて雨が降っていた。
窓から雨が地面を叩く音が聞こえる。
目の前の医者が思ってる事も手に取るようにわかる。
こちらを見下し、さっさと気味悪い俺を追い出したいと内心で思っているみたいだ。
顔を見てもわかる話だか、あえて言うのも野暮な話。
俺はそんな医者をただ眺めつつ、彼の言葉は何一つ聞いていない。

俺『、、、、、はぁ。聞いてます。大丈夫です。』

そう俺が答えると医者は不機嫌そうな顔を崩す事無く、お大事にと言った。
診察室を後に俺は帰路についた。
残り少ない貯金を切り崩し、入院代を指定の口座へと振り込む。
残った残高を確認してため息を吐いたが、もう俺には必要ない物かも知れないと思いつつ空を眺めた。
黒い雲に覆われて降り注ぐ雨の中、俺は傘もささず空を眺めた。


その後、俺を診た医師が首を吊って自殺したのだがその真相を知る者は誰も居ない。

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