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二眼レフカメラのすすめ

ある日ハードオフのジャンクカメラコーナーを眺めていると、Yashica(ヤシカ)のRookieというモデルの二眼レフカメラが2000円で売られていました。
安さと見た目のかっこよさに惹かれて即購入しましたが、フィルムカメラなんて全く触ったこともないので、動作確認お願いしますと言われても適当に表面を撫でることしか出来ず、まぁ使えなくてもオブジェとして家に飾ればいいかと思い帰宅しました。

改めてケースから取り出してみます。

ファインダーレンズと撮影レンズが分かれています

見てくださいこのかっこよさを。

これが自室にあるというだけでかなり満足です。とはいえせっかくだから使ってみたい。調べてみると、使い方はそこまで難しくありません。

このリングを回すと裏蓋を開くので
フィルムを入れます
赤窓を開けます
ここでフィルムの残り枚数が分かります
ここを回してフィルムを巻き上げます
レンズキャップを外します
ファインダーを覗きます
ピントを調整します
絞りを調整します
シャッタースピードを調整します
シャッターチャージして
切ります

これだけです。何度か撮ってみれば難しくはありません。適正な絞りとシャッタースピードは露出計アプリなどを使って測ることができます。注意点は、シャッターを切る際に指などが当たって戻りを邪魔しないようにすることと、一枚撮るごとにフィルムを巻き上げるのを忘れないことです。


コダックのカラー120フィルムは5本で8000円程度。正直ちゃんと撮れるかも分からないカメラに8000円のフィルムを買うのは躊躇しましたが、これも経験です。ええいままよと購入。1本12枚撮りで、これに現像代1本1600円程度もかかるので、実質1枚約266円。

震える指でシャッターを切り、初めて撮った写真がこちら。

とりあえず鏡に向かって試し撮りしたものです。フィルムの巻き上げが足らず、一度露光したフィルムにもう一度シャッターを切ってしまったので、いわゆる多重露光という状態になっています。

しかしこの、ミスショットとは思えないかっこいい質感にすっかり惚れ込んだ私は、それからというもの行く先々でシャッターを切るようになりました。

全くの素人の私でも、こんなに素敵な写真を撮ることが出来ます。フィルムカメラにハードルの高さを感じる方も、是非1度試してみてはいかがでしょうか。




さて、フィルム撮影にも慣れてきた頃、あることに気がつきました。まずはこちらの写真を見てください。

旅行先で撮ったもの

右上に黒いモヤのようなものが写っているのが分かるでしょうか。
拡大したものがこちらです。

初めは、綺麗に撮れたのにもったいないなと思いました。虫の写り込みには見えないし、前後の写真には写っていないのが変だと首を傾げつつ、とりあえずレンズとカメラの内部を掃除しました。

しかし、その数週間後に撮った写真にも変なものが写っていました。

友人たちを撮ったもの

これは汚れにしてはあまりにも不自然で、モヤと言うよりはなにかで書いた記号のように見えます。

そして、この2枚の写真をくるくる回しながら見比べていると、これらの形が似ていることに気が付きました。

拡大し向きを揃えたもの

三角の中に十字架らしきものが共通しているように見えます。

これを見た瞬間、私はあることを思い出しました。


実はこのカメラを買った際、裏蓋を開けるとフィルムが入っていました。慌てて閉めて写真屋さんに持っていくと、かなり古いフィルムなので上手く現像できるかは分からないと言われました。
それから1ヶ月ほど経ち、なんとか現像できたものを受け取りました。それがこちらです。

12枚のうちほとんどは癒着していて、まともに現像できたのは4枚だけでした。独特な色味はフィルムの劣化とカビによるものと思われます。
同じ場所から撮ったように見える4枚の写真。共通して電柱のようなものが右手前に、そして中央あたりに三角屋根の建物が写っています。

家の部分を拡大したもの

よく見ると三角の奥に特徴的な凸の形の建物があるのも分かります。


さて、先程のモヤとこの風景。

似ていないでしょうか。

ジャンク品ですから、何かしらカメラ側の問題かもしれません。ただの偶然といえばそれまでです。ただ、ホラー映画やオカルトが嫌いではない私は、ついこれがカメラに込められた呪いや残留思念ではないかという所まで妄想を広げてしまいます。いやむしろ、そうであって欲しい。霊的な現象にはついぞお目にかかったこともありませんから、ずっと憧れてきました。もしこれが呪いのカメラならと思うと興奮していても立ってもいられません。まずはこの場所を特定しなければならないと思いました。

まずはこのようなツイートで情報を求めます。

しかし大した拡散力のあるアカウントでもないのでめぼしい情報は得られず。

反応はこれだけでした


次なる策を探してインターネットサーフィンをしていると、あるサイトで写真からの場所特定を専門にしているアカウントを見つけました。価格は成功報酬で3000円。実績も悪くなかったのでこの方にコンタクトを取る事に。

しかし中々有力な情報は得られません。


なかなか上手くいかず諦めかけていた頃、ある番号から不在着信がありました。

かけ直すと、これまでのフィルムの現像を頼んだ写真屋さんでした。
個人の小さな写真屋さんで、大手に頼むと120のフィルムは工場での現像になるため2週間以上かかるのですが、そこはお店の中で現像してくれて1日2日で受け取ることが出来るので重宝していました。

店主は開口一番、店で話す時とは打って変わった上ずって震えた声で、大変申し訳ありませんと言ってきました。今預けているフィルムは無いし、謝られるような覚えはないので驚きながらも話を聞きました。内容は、数件のクレームが入ったので確認したところ、暗室作業全般を任せていたアルバイトの学生が写真にイタズラをしていたということでした。

返金させてくれという提案は断りました。呪いでなかったことに落胆はありますが、怒ってはいないからです。それより、早く安く現像してくれる貴重な写真屋さんなので、これからも頑張ってお店を続けて欲しいという気持ちが強いのです。

なんで今まで確認しなかったのかと思いながら保管していたネガを見てみると、何も写っていません。つまりネガ現像の後の段階でイタズラされたのでしょう。

カメラに元々入っていたフィルムは別の現像所に頼んだので、あの風景と関係ないということになります。しかし、心霊写真のようなものではなくこの意味深な記号を仕込むのは、ただのイタズラにしては不自然に思えます。

お店にもう一度電話をかけ、返金はいらないが、代わりにそのアルバイトの方の連絡先を教えてくれないかと頼みましたが、さすがに個人情報なのでと断られてしまいました。

諦めきれません。どうしても話が聞きたい。暇と好奇心を持て余している私は、お店の前で張り込みをしてその方に会えるのを待つことにしました。

天気予報は異常な気温を警告していますが、負けません。
おー!

張り切って店に向かいます。

暑い、いくらなんでも暑すぎます。ただ、ちょっとコンビニにと少し目を離した隙に出てきたらと思うと恐ろしいのでただ耐えるしかありません。

12:30頃、やっとお店から若い女性が出てきました。お店のエプロンを脱ぎながら歩く彼女は、何となく大学生っぽい相貌をしています。急いで声をかけます。

陽億「あの、すみません!」

??「はい?」

陽億「えーと、こちらのお店の方ですよね」

??「そうですけど」

陽億「もしかしたら現像とかプリントを担当されてる方だったりしますか?あの私、よくこちらで現像をお願いしてるんですけど」

??「あっ、あぁいつもありがとうございます。…あのもしかして、クレームですか?」

陽億「いえ!いやあのそうではなくて、少し気になることがあって、お話を聞きたいんです。今お昼休みですか?」

??「…はい、あ、いやでも…」

陽億「もし良ければ、お食事奢りますんで、少しだけお話させてもらえませんかね?」

??「…」

かなり困惑されているようでしたが、粘って交渉した結果なんとか承諾して頂けました。近くにあったスシローに入ります。

陽億「突然お声掛けしてすみません。私、陽億と申します。変な名前なんですけど、太陽の陽に、億千万の億です。ニューヨークとか、トム・ヨークのヨークで発音していただくと分かりやすいと思います」

??「はぁ…」

陽億「お名前、伺ってもいいですか?」

??「あっ、水野(仮名)です」

陽億「水野さん。私実はちょっと記事みたいなものを書いているんです。記録のために今日のお話の内容をその記事に載せさせて頂いても大丈夫でしょうか。もちろんお名前などは伏せます。」

水野「…記事、ですか」

陽億「本当に大したものでは無いんです。記事と言っても趣味程度で、拡散されるようなものでもありませんし、もちろん水野さんやお店のことが特定されるような形にはしません」

水野「はぁ…まぁ奢ってもらって申し訳ないし、大丈夫ですよ」

陽億「ありがとうございます!ちなみにお顔とかは入れないんで、写真とかも撮って大丈夫ですか?」

水野「あー、まぁ首から下なら…」

陽億「ありがとうございます。…では単刀直入に申し上げますと、お聞きしたいのはこちらの2枚の写真のことなんです。この現像とプリントを担当されたのも水野さんですか?」

水野「あっ、あぁ、やっぱり…」

写真を見せた途端、元々暗かった水野さんの表情が更に曇ります。

水野「…はい、私です。店長からご連絡行きましたよね、あの、本当に申し訳ありませんでした」

陽億「いやいや、本当に怒ってるわけじゃないんです。他の写真はとても綺麗にプリントしていただきましたし。ただ、あの、少し気になってしまって。この2枚に仕込まれてるのって、おそらく同じ記号みたいなものですよね。」

水野「記号、まぁ、はい…」

陽億「この記号ってなにか意味があるのかなって思って。こう並べると、三角屋根の中に十字架に見えて」

水野「…違います」

陽億「はい?」

水野「向きが違います。こうです」

水野さんが示す正しい向き

陽億「…ほう、なるほど」

水野「本当に、ただのイタズラなんです。なんか大学全然行けてなくて、あ、大学3年生なんですけど、単位も足りるかわかんなくて、就活とかもあるし、いろいろしんどくて、むしゃくしゃしてというか、全部どうでも良くなってしまって。この記号は、その…」

水野さんは左腕を差し出してきました。

水野「これなんです」

陽億「…はい?」

水野「ちょっともう薄くなっちゃってるんですけど、ここに傷跡があって」

傷跡を見やすくしたもの

傷跡をよく見ると、あの模様に似ています。

水野「小さい頃に両親が離婚して、父親とはほとんど会ったことがないんですけど、その父親に付けられたものだと言われました」

陽億「それは、大変だったでしょうね…。それで、なぜ…」

水野「なんとなく、ずっと目に入る位置にあるので、昔は嫌でしたけど、高校生くらいの時から私のアイデンティティというか、トレードマークみたいなものとしてこの記号を使うようになったんです。それでその、なにかイタズラで写真に焼き付けてやろうと思った時に、他に何も思いつかなかったのでこれを…。だからこの記号の意味自体は私も分からないんです。どこにいるかも知らない父親に聞くことは出来ないし」

陽億「…なるほど。」

水野「まぁ、本当にそれだけです。魔が差してこんなイタズラをしてしまって。本当にごめんなさい。奢っていただいてありがとうございました。私そろそろ戻らないといけなくて…」

陽億「あぁすみません、休憩中に拘束してしまって。いやこちらこそ、ありがとうございました」

とりあえず連絡先だけ交換させてもらい、その日は解散しました。

ちゃんと奢りました。

本人に深い意味は無いと言われてしまいましたから、調査はここまでになってしまいます。

ただひとつだけ気になることがあります。それは記号の向きです。水野さんから見ると、傷の模様は三角屋根が下になるのが正しい向きなのでしょう。
しかし、私は、水野さんとは逆向き、つまり私の想定していた通りの向きで傷を見せられました。この傷をつけたお父さんも、私と同じ向きで水野さんの腕を見ていたはずです。

つまり、本来この記号は、やはり三角屋根が上なのではないでしょうか。

とはいえ、これ以上のことは調べようもありません。この記号に見覚えのある方がいたら、是非ご連絡ください。

陽億

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