鬼灯の冷徹の「の」はなんの「の」か

おのののかバリにのが多くなってますがちょっと前から気になってることなので書きます。
マジで駄文です。

「鬼灯の冷徹」という作品をご存知でしょうか。地獄を舞台に獄卒や亡者、裁判官から歴史上の人物が登場し、しっちゃかめっちゃかする大変ユニークな作品です。

僕はアニメのみの鑑賞なので原作コミックスまではよく知らないのですが、今回書きたいのは作品の内容ではなくタイトルについてです。

ちなみに作品を全く知らない方のために少し説明しますと、

鬼灯(ほおずき)とはこの作品の主人公で、かの有名な閻魔大王の補佐官をやっている常に冷静沈着な男の名前です。

さて、

「鬼灯の冷徹」

パッと聞いたときにインパクトはあるんですが日本語として若干引っかかる感じがありませんか?

その引っかかる感じが却って読者の頭に残りやすいのかも知れませんが、僕はこの「の」はなんの「の」だ?

とずっと気になって気になって仕方ないのです。

例えば

「鬼灯は冷徹」
「冷徹な鬼灯」
「鬼灯の冷徹さ」

だったならどうでしょう。

いいタイトルかどうかはさておき日本語としてはしっくりくると思います。

「鬼灯の冷徹」
を品詞分解してみると

鬼灯(名詞)+の(格助詞)+冷徹(形容動詞)

です。
日本語のちょっとした引っかかりは体言止めっぽい感じで形容動詞が使われているからかもしれません。

体言止めとは文末を名詞などで終わらせる方法のことですね。

例えば
夕陽に照らされる海岸。

さて、この形容動詞で終わらせる一文、僕の知る限りでは他にもう一つしか聞いたことがありません。

それは

「イワンのバカ」

イワンのバカとはロシアの文豪トルストイがロシアに伝わる民話をもとに創作したお話です。

ここで登場するイワンはこの物語の「バカ」の代名詞となっています。

バカで有名な、バカのイワンというわけですね。

ちなみに原題は「Иван-дурак」。
英語に直すと「イワン・ザ・フール」となるそうです。

「イワンのバカ」よりも「バカのイワン」がニュアンス的には近いと思います。

邦題をつけるにあたって「イワンのバカ」とした理由は分かりませんが

例えばある親が自分の愚息について知人に話をするときに
「イワンのバカがまたやりやがったんだよ」なんて言い方をしたりしますよね。

この時の「イワンのバカ」はこれひとつで名詞としての使われ方をしています。

恐らくタイトルも名詞としての「イワンのバカ」であり、となりのトトロの「メイのバカ!」とは使われ方が違うと推測します。

「メイのバカ!」
「お姉ちゃんのバカ〜!」

エクスクラメーションマークの付くと形容動詞で終わってもとくに違和感がないのはどうしてでしょう。

きちんと調べるまで「イワンのバカ」は上記のサツキメイケースと同じ呼びかけとしてのバカだと思っていました。

「イワンのバカ!!」

みたいな。

話が逸れました。恐らくこの一文で名詞としての役割を持っているんでしょうが、「の」が入っている以上品詞分解は可能なわけです。

ちなみに品詞分解ツールというウェブ上のソフトを使って2つの文を比べてみました。↓

①イワンのバカ

イワン(名詞)+の(連体修飾の格助詞)+バカ(名詞)


②鬼灯(名詞)+の(連体修飾の格助詞)+冷徹(形容動詞)

おかしいですね。

僕もうすうす気づいていたのですが、バカは形容動詞と名詞二つの側面をもっているみたいなんです。
バカを調べると「名詞」と紹介するところと「形容動詞」と紹介するところとふた通り確認出来ました。

①のように名詞は体言に分類されますから「の」が連体修飾の格助詞として機能するのは文法的に合っています。

しかし②の場合、冷徹は形容動詞ですから用言なわけです。格助詞「の」は連用修飾の用法はないので文法的には誤りということになってしまいます。

用言に連なる助詞は「を、と、へ、から」などが挙げられます。必ず動詞のような用言が後に続くわけです。

例)
朝食を食べる
友達と行く
家へ帰る
昨日から寝てない

では連体修飾じゃないとしたらなんなのか。
もうひとパターン考えられるのが「主語をつくる格助詞」というパターンです。

この場合は「の」を「が」と言い換えても成立するのが条件です。

どういうことか言うと

海の見える部屋→海が見える部屋

という感じです。

イワンのバカ→イワンがバカ
鬼灯の冷徹→鬼灯が冷徹

日本語として成立しないわけではないですが「が」と置き換えると文のニュアンスが変わってしまうので主語を作る格助詞の用法ではなさそうです。

とするとやはり連体修飾の格助詞「の」が妥当な線ではないでしょうか。
つまるところ「冷徹」という形容動詞を「バカ」同様に名詞化して連体修飾の「の」を使っている、というのが僕の結論です。

先ほどイワンのバカは「バカのイワン」と言われるように作中ではバカの代名詞となっている、と紹介しました。
この物語はバカのイワンが持ち前のバカさで常識外れに物事を解決していくお話です。

これに倣って鬼灯の冷徹の作者も「冷徹」の代名詞というポジションを鬼灯に与えたかったのではないでしょうか。

鬼灯が地獄においていかに冷徹であるかを読者に見せる、そのための「鬼灯の冷徹」であると。

いいタイトルや優秀なキャッチコピーというのは時にあえて文法から外れたときに生まれることがあるのかも知れません。

以上、そんなことどうでもいいと言われたら1ミリも反論の余地がない駄文でした。

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