【翻訳】アルテタはどのようにアーセナルを再構築していくべきなのか【超大作】

 アーセナルはここ数年、急速に輝きを失った。アーセン・ヴェンゲルの後継者であるウナイ・エメリは18ヶ月の任期を失敗のうちに終え、唯一通年で全うした18-19シーズンでのトップ4入りも逃した。27日の水曜日には、最後のメジャータイトル獲得(FA杯優勝)から3年が経過することになる。当時のスターティングイレブンを見てみると、現在でもスカッドに名を連ねているのはベジェリン・ホールディング・ジャカ・エジルのみとなっている。時間と共にチームが解体されていくこと自体、珍しい現象ではないが。

 19-20シーズンのスカッドは、まだ主力には成りきれていない若手・契約の終わりが近い中心選手・長期的なプランには入っていないであろう高齢化した選手で構成されている。リーグ戦が強制的に中断している今こそ『アーセナルはどこにいるのか(現在地)』『どこまで来られたのか(軌跡)』『夏にどのような見直しをすべきなのか』について立ち止まって考える絶好の機会だ。

 過去5シーズンに渡り、アーセナルは『攻防一体』となって戦う能力が著しく低下している。今季のチームは順位表の中段に埋もれており、『ゴール期待値』から導かれる結果通りとなっている。以下の表は、ゴール期待値での得失点差で順位付けを行ったものである。アーセナルは丁度中央に位置していることが分かる。

画像1

これはこれまでのリーグ戦全28試合を反映したものであるが、実はアルテタへの監督交代以降に限定しても数字に改善は見られないのである。どちらかと言うと、むしろ悪化している。それでもまだトッテナムより上の順位ではあるが。

画像2

結果で見れば多少色は付く(アルテタ政権下でのリーグ戦は10試合1敗)ものの、手を付けなければならないタスクの膨大さは明白だ。アルテタの指導力に関して結論を出すにはまだサンプルが十分ではないが。誰が監督であろうと、アーセナルのスカッドは近年のライバルクラブと比較すると優れているとは言えない。

 良い知らせもある。アルテタはチーム内の『文化』を変革しようとしているようだ。選手にきちんとした責任を持たせようとしている。このペップ譲りの試みがアーセナルに浸透するまでには、まだ少々時間を要するだろうが。これら『ペップイズム』の一端は、ボクシングデーに開催されたボーンマス戦(アルテタ監督の初陣)でも垣間見れらた。アーセナルは攻撃時に『2-3-5』の形を用いたが(※)、これはペップ・シティにおいて頻繁に見られる攻撃システムでもある。
※参考スレッド
https://twitter.com/yuugooner/status/1213284567362097152?s=20

 アルテタはローンで獲得したセドリックとマリを除けばエメリ政権下での夏の移籍市場で形成されたスカッドで戦っている。だが、投資額の大きさと比較すると、今シーズンの獲得選手たちはそれに見合った『リターン』を十分にもたらしているとは言えない。

 アーセナルの近年における低迷は、以下のグラフが端的に示してくれている。FLはリュングベリ監督代行を表している。青のグラフがゴール期待値、赤のグラフが失点期待値である。直線は大まかな傾向を指し示していたものである。

画像3

全体的な傾向として、ヴェンゲル政権後期にはソリッドな攻撃力と硬い防御力があったことを示していることが分かる。そこからゆっくりと確実に、両者の差が縮まっていく。そして今シーズン、その値がマイナスに転落した。つまり、アーセナルは自分たちよりも相手に有効なチャンスをより多く作られているのである。もし青のグラフが赤のグラフの上へと移ることが出来ないと、これが『新たな当然』になってしまう恐れがある。現時点で、この数字は『ビッグ6』と評せるレベルにはなく、タイトルへの挑戦者などとはお世辞にも言えない。オーナーであるスタンの息子ジョシュ・クロエンケが『CL出場クラブ規模の予算でELに参戦している状況だ』と語るように、今のアーセナルには財政的な障壁が存在する。それも考慮すると、現状はより深刻に思える。アーセナルを強い立場に戻すためには、長い時間を要することになるだろう。


 アーセナルの『再構築』は今夏にでも徐々に開始する必要があるものの、現在の世界情勢によって新たな困難が生じている。アーセナルは比較的高い割合で『マッチデー収入』を主要な収入源としているが、このパンデミックのせいでそれが通常運転に戻るまでにはまだ時間が掛かることが予想される。そのせいもあり、昨夏のような多額の移籍金投入は行わないと見られている。契約延長・売却・獲得という順に優先順位が設定されている模様である。

 『再構築』をするにはまず、現在の状況について評価をするところから始めなければならない。下の図は、スカッドにおける各ポジションの層について書かれている。主な起用ポジションに配置され、リーグ戦での出場時間順に並べてある。

画像4

 下から順に見ていこう。キーパーに関しては将来の計算が立つスカッドを揃えられている。レノは移籍して以来黙々とチームのために取り組み、近年では数少ない獲得の成功例に挙げられる。マルティネスはレノの代役として残留するだろう。ただ、第3キーパーに関しては探しておかねばならないかもしれない。メイシーの契約が来月で切れるからだ。

 一列上に目を向けよう。ここでは、スカッドにおけるアンバランスさが露呈している。左サイドと比べると、右サイドがかなり肥大化している。ティアニーは最初のシーズンで負傷に苦しんでおり、コラシナクは調子の波が激しい。したがって、チームは第3の左サイドバックを探す可能性がある。今夏で契約が切れるクルザワ(PSG)は、1月にアーセナルと話し合いの場を設けている。サカは攻撃的サイドバックとして素晴らしいプレーを披露しているが、選手クラブ双方共に、将来的にはアタッカーとしての起用を考えている。

 アルテタが望む左利きセンターバックとして獲得したマリだが、彼については新たな決定に迫られる状況である。現状はローンでの在籍だが、選手本人は完全移籍を望んでいると見られる。獲得の際に相応のローン費用を支払った点、必要な移籍金が1000万ポンド未満と思われる点を考えると、マリは現実的な獲得選手になる可能性がある。

 センターバックはチーム内でも最も肥大化しているポジションだが、ルイス・ムスタフィ・ソクラティスは全員契約が残り1年となっている。したがって、誰か1人を売却して人員整理を行うことは難しくないだろう。この中ではムスタフィが最も若く、アルテタ政権下で復活傾向にあるので、最も多くの移籍金を得られるだろう。支払った移籍金の何割かを回収することも可能だ。ルイスは最終ラインで1番のパサーである。チームが上手くいかない時に中盤がしっかりと守ってあげられれば、ビルドアップ時にボールを前進させるにはうってつけの選手だ。その一方で、ソクラティスは余剰戦力と言えるかもしれない。

 ホールディングは契約を3年残しており、24歳という年齢を考えるとレギュラーとしてのプレー経験が必要な段階にある。サリバはローンから帰ってくる。彼は恐らくスターティングメンバーに名を連ね、今後何年にも渡ってアーセナルの最終ラインを支えることになる。マヴロパノスはまだ22歳なので、更なる経験を積むためにもう1年ローンに出される可能性がある。右サイドバックではナイルズが移籍すると見られている。

 チェンバースは昨季フラムへのローン移籍を経験し、今季は膝の大怪我で長期離脱中だ。ベジェリンは負傷前のトップフォームを取り戻すべく、ロックダウン期間中にハードワークを重ねてきた。チェンバースは間違いなくセンターバックとして計算されているが、アルテタは右サイドバックに深い位置でプレーする選手を配置する傾向もあるのでそこに収まる可能性もある。セドリックは今夏でセインツとの契約が切れる。多少人材が不足していることを考慮すると、負傷がなければ貴重なバックアッパーとして重宝されるかもしれない。アーセナルが本当に求めている選手は、モンレアルのようなユーティリティ型のディフェンダーである。そういう意味で言うと、チェンバースが最も適している選手である。

 中盤を見ていこう。表記が『ディフェンシブ』と『セントラル』に分かれているが、これはアルテタが用いる4-2-3-1において各選手が課されている役割に応じたものである。ジャカはクラブに対して長期的な将来を約束したようだ。彼とアルテタは『6番』としての役割を共有し、同じビジョンを持っている。トレイラはこの2年でイングランドに定住したとは言い難いが、この世界情勢で買い手が現れる可能性はそれほど高くないだろう。

 セバジョス・ゲンドゥージ・ウィロックに関する決定は、頭痛の種だ。セバジョスはアルテタの下、中盤の深い位置で良いプレーを披露していてビルドアップに寄与している。しかし、彼に付けられた4000万ポンドという移籍金を支払う余裕があるとは思えない。ゲンドゥージはこの2シーズンで素晴らしい出来で、年齢以上に成熟したプレーを見せている。とは言え、彼は今季懲戒処分を受けており、他のポジションを補強するために売却される可能性もある。ウィロックはさらに若く、まだまだ完成形とは程遠いのが現状である。ローン移籍によって恩恵を受けられるかもしれない選手だ。したがって、セバジョスは退団が濃厚であり、ゲンドゥージとウィロックはまだレギュラーメンバーとしての準備が不足している。中盤にはより優れたオプションが必要になるかもしれない。以下の表には、ゲンドゥージに最も近いタイプの選手が挙げられている。彼らは、ゲンドゥージの試合における特徴(繋ぐプレー・深い位置からの持ち上がり・やや脆弱な守備能力)を基準にして弾き出されている。

画像5

このリストには6名の選手が挙げられているが、ゲンドゥージがいかにユニークな選手であるのかがよく分かる。最も似ている選手は、昨季のゲンドゥージ自身なのだから。グバミンとエンドンベレは、昨夏にそれぞれエヴァ―トンとトッテナムに移籍している。残る3選手はグリリッチュ(ホッフェンハイム)・イブラヒマディアロ(ブレスト)・ベルガルド(ストラスブール)である。グリリッチュはこの中で最年長で、トップチームでの経験が最も豊富である。ディアロはここ数週間で実際にアーセナルに関する噂が出たことを考えると、興味深い選手だ。ベルガルドはゲンドゥージやウィロックと同様、もう少し先を期待されている選手である。

画像6

 攻撃陣に目を向けると、左右のウィングは共に『ビッグ6』レベルと言える選手が揃っている。ただ、若干数が不足している。サカとの契約延長は、トップチームで最も給与が安いことを考えても、夏の最優先事項であろう。ペペに多額の投資をしすぎたために、早期の延長が叶わなかった。ネルソンはまだ20歳であり、今後数年でチームにとって欠かせない選手になるための十分な期間が残されている。ただ、違う角度からスカッドに厚みをもたらす選手がいても良いだろう。中には嘲笑する者もいるだろうが、素直な回答になり得る選手がフレイザー(ボーンマス)だ。夏に契約が切れるフレイザーは、今季多少調子を落としているが18-19シーズンには14アシストを記録している。年齢的にもキャリアのピークを迎えており、財政が制限されているアーセナルにとっては彼がフリーで獲得可能だという事実は無視できないだろう。

 トップ下では、エジルがこの『悪名高い』契約の最終年を迎えてムヒタリアンがシーズン終了後に退団しそうな情勢である。残るは、まだ19歳でプレミアリーグでの先発出場が1試合しかないスミスロウのみだ。アーセナルがこのポジションをどうするのかは、アルテタが将来どの陣形で戦いたいのかという点にかかっている。4-2-3-1に拘るのであれば、この問題を早く解決するべきである。エジルはアルテタ就任以降全てのリーグ戦に先発出場していることから、現システムにおいて重要視されていることは明白だ。もっとも、現状このポジションで計算できるのはエジルただ1人であるというのもまた事実ではあるが。このまま4-2-3-1を続ける場合、エジルのポジションは差し迫った課題である。彼はもう若くはないし、データ上では相当衰えていることが分かる。エジルは頻繁に点を取るタイプではないが、長きに渡ってアーセナルにおける1番のチャンスメイカーだった。15-16シーズンに19アシストを記録した時がピークで、その後の4シーズンでは21アシストに留まっている。これが分かりやすい衰えの根拠だが、それだけではない。創造的な選手の貢献は、何もラストパスだけの話ではないのである。以下の表は、いかに上手くボールを前進させ、ゴールを決めるための適切な立ち位置を取れているのかという指標を評価したものである。リーグレベルに応じて微調整され、同ポジションでの比較のみ有意に働く。99が最高で1が最低となる。

画像7

エジルの衰退は明らかだ。以前は危険なエリアにボールを運ぶことが出来ていたのに、今や遥かに少なくなっている。彼はもはやかつての彼とは言えない。一部は周りの選手たちのせいでもあるが。

 最後はストライカーだ。現段階では、エンケティアとマルティネッリ、それにあともう1人が選択肢になっていくだろう。オーバメヤンは今季大活躍中だが、契約が残り1年であり最適ポジションは左サイドのように思える。間違いなく効率的なフィニッシャーなのだが、ゴール期待値で考えると評価が少し下がる。したがって、間もなく31歳を迎える彼が現在の効率性を維持できるのかは不透明な状況である。

 ラカゼットはオーバメヤンのゴール数を上回ることはないが、この3シーズンにおいて非常に一貫したパフォーマンスを見せている。今季は8試合に欠場しているが、うち4試合は9月の負傷が原因である。もしラカゼットが残留するのであれば、より多くのゴールをラカゼットに取ってもらうか他の選手が得点力を引き上げる必要がある。

 現在、チームは両者のどちらを残してどちらを売却するかという決断に迫られている。オーバメヤンの新契約は高額になる可能性が高く、アーセナルは過去に若くない選手に高額契約をしてしまって手を焼いている。したがって、同じ轍を踏むような真似は避けたいであろう。加えて、オーバメヤンを残留させるとマルティネッリやエンケティアの出場機会を奪ってしまう恐れがある。このことは考慮せねばならない。もし残すのであれば、短期間の契約延長にするか給与を払い過ぎないことが必要となる。もっとも、2人とも残した上でヤングスターたちが成長するのを待つことが理想的ではあるが。もしオーバメヤンが契約延長をしないのであれば、売却して得た資金を再投資するのが最も賢明な方法である。

(この後ゲンドゥージの時みたいにオーバメヤンの代役候補が書かれているが、あまり面白くないのでカット。表だけ貼っておくので気になる人は調べてみてね!)

画像8

【後語り】

 内容は以上になります。現状把握という意味では、中々に網羅的な記事だったのではないかと思います。スカッドの整理という点に重きが置かれ、各選手の契約状況や立場がきちんと書かれています。記事内にもあった通り、今は物事を振り返るにはうってつけのタイミングです。移籍市場もにわかに活気づいている(いつ開幕するのかは完全に不透明)中、こういった現状を踏まえてゴシップに触れると一段と面白いかもしれませんね。ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

出典
https://theathletic.com/1830505/2020/05/23/ozil-aubameyang-sell-arsenal-arteta/?source=user_shared_article

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?