【後編】「前期中間テスト」アーセナル×リヴァプール マッチレポート

◎後半開始~60分「応用問題」

 さて、後半開始です。いきなりリヴァプールが陣形の修正を行いました。ファビーニョのアンカーシステムから、ワイナルドゥムと組ませる4-2-3-1に変更したのです。それに伴い、フィルミーノがトップ下・ミルナーが右サイドへ移動。サラーが1トップを務めます。
 こうして中盤の厚みを増したリヴァプールは、徐々に安定感を取り戻します。前半致命的だったファビーニョ周りを手当てし、流れを引き寄せます。普段のスタイルを考えると大きな変化でしたが、ひとまずこれが功を奏したと思いました。超攻撃的守備は控えましたが、その分確実に試合は落ち着きました。
 この変更により、アーセナルのビルドアップ部隊はかなりの自由を得ました。しかし、前半ほどスムーズな前進が出来ません。決して苦労させられているとまでは言えないのですが、前半と比較してしまうとある程度対策されたかな、という印象。アーセナルはそれでも次第に対応を見せていました。ここでも図示してみます。

 結構無茶しました。無茶というか苦慮というか。リヴァプールはサラーとフィルミーノの2枚が前衛だったので、アーセナルは2CB+2CHで対処可能でした。アーセナルから見た左サイドはオーバメヤンとアーノルドがランデヴー。ミルナーはコラシナクを気にしたり中に絞ったり。アーセナルの狙いはワイナルドゥム・ファビーニョ・マネの間のチェーンであると予想しました。そこを狙って相手を動かし、スペース創出を試みていました。実際、トレイラにフラフラと寄せたファビーニョの背後を、すぐさまムヒタリアンが使って前進したシーンがありました。そこを気にして圧縮すれば、左でコラシナクが活きる。そんな計算だったのでしょうか。正直自信はないですが、ある種の仮説として紹介しました。

◎60分~75分「失点」

 風向きが変わった後半、とうとう試合の均衡が崩れます。立役者は間違いなくマネ。アーセナル最終ラインに位置していたマネは、1度大きく下がります。すると、マネに気を遣っていたベジェリンがそれに釣られて付いていきます。ここでアーセナル守備網に穴が開きます。釣られたベジェリンとムスタフィの間、すなわちチャンネルが大きく広がってしまったのです。そこを見逃すマネではありません、ベジェリンを出し抜き爆速スプリントでチャンネルを侵攻。そして、高速クロスがレノを弾き飛ばし、こぼれ球がミルナーの元へ。万事休す。ついに失点を喫したアーセナル。このまま陥落してしまうのでしょうか。
 しかし、今季のアーセナルは折れません。リヴァプール守備網の合間を縫って、ボールを動かしていきます。ムヒタリアンとオーバメヤンに代わってイウォビとラムジーを投入、局面打開を狙います。
 そして、この時間帯もリヴァプールのセットプレーは恐怖の塊でした。コーナーキックからファンダイクをフリーにしてしまったシーンでは、レノのファインセーブがなければ試合が終わっていたでしょう。
 さぁ、このまま勝ちたいリヴァプールと何としてでも追いつきたいアーセナルの死闘はここからが本番。最終局面へと向かいましょう。

◎75分~試合終了「成績発表」

 失点後に気落ちする様子など一切見せず、再びリヴァプールを押し込むアーセナル。左サイドのイウォビを中心に攻め立てます。深い時間帯ではありましたが、アーセナルの攻守の切り替えはまだ錆び付いていませんでした。そして、アーセナルはコラシナクに代わってウェルベックを投入。イウォビを左SBに回す捨て身の特攻に出ました。一方のリヴァプールはフィルミーノに代わってシャキリ。形はそのままです。
 そして81分、ついにその時は訪れます。

 選手名でゴチャっとしているのは勘弁して下さい。これはイウォビがラストパスを出した時の概略図です。イウォビが左サイドでボールを受けると、ラムジーがフォローに流れます。すると、アーノルドはそちらのケアのためにやや外へ流れます。イウォビはその後カットインし、目的のコースの正面に入ります。それは黄色い矢印が示した軌道、SH-CHとSB-CBを同時にブチ抜く一撃必殺パスです。特にSB-CBのチャンネルをラムジーが広げてくれたおかげで最初の門を突破してしまえば比較的楽に通るパスでした。そのスペースに斜めの動きで走り込んだラカゼットもお見事。
 飛び出すアリソンより先に触ったラカゼットはボールを収めることに成功。すると中でウェルベックがコールへのコースを空ける囮の動き。これが功を奏し、ゴール右隅にラカゼットのシュートが決まって同点に追いつきました。

 ついに試合を振り出しに戻したアーセナル、エミレーツの雰囲気は最高潮に達します。その後押しを受けてリヴァプールを飲み込み、ついにクロップは勝利を諦めてマティプを投入しました。試合終了間際だったとはいえ、クロップに勝利を諦めさせた気迫は称賛に値します。こうして押し込んだまま5分の追加タイムを終え、手に汗握る死闘はドローに終わりました。

◎あとがき(長いわ)

 アーセナルにとってこの試合の位置付けは、まさに試験と言うべきもの。ビルドアップからの攻撃形成を信条とするアーセナルにとって、嵐のようなプレッシングを浴びせてくるリヴァプールは今後絶対に越えなければならない高い壁でした。正直に言うと開始前は怖さもありました。あっという間に試合が壊れるという最悪の事態も想定されました。しかし、結果と内容はご覧の通りでした。決して引き分けに満足したわけではないのですが、結果以上に得たもの、示したものは大きかったです。丁寧なポジショニングと配球でリヴァプールのプレッシングを困惑させたビルドアップ、失点に折れることなく逆に飲み込んでみせたメンタリティなど、決定的に自信となる成果もたくさんありました。個人にフォーカスしても、出色だったジャカを筆頭に、これからも大いに期待出来るパフォーマンスでした。イウォビやホールディングの成長も著しく、月日と試合を経るごとにチームとして先に進んでいるのが明確です。今はまだ敵わないチームがあります。リーグ優勝を語るのは酔狂です。しかし、描いた成長曲線の先はまだ見えていません。その到達点は一体どれほどの高さになるのでしょうか。来年の今頃、アーセナルはどのような立場でリーグ戦を戦っているのでしょうか。そんな輝かしい未来に思いを馳せたくなる、ここまでの成長ぶりです。前期中間試験は決して学年最上位の成績ではありませんでしたが、以前に落ち込んだ成績は思ったよりも随分と上がっていました。努力のやり方と自信を身に着けた人が、一体どれほど劇的な成長を遂げるのか、皆さんも想像に難くないでしょう。

 ・・・思わず感情的になりました(笑) 今回は相当長くなってしまいましたね。最後に拙作ポエムでも貼ってお別れとしましょうか。ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。それではまた!


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