検索してはいけない言葉『ねこのティーチくん』をどうか検索してほしい

わたしが作品を知ったのはFNFの略称で知られるリズムゲーム『FridayNightFunkin'』の非公式MODから。可愛らしい青い猫のキャラクターにキャッチーな曲、最初は海外アニメかなにかの類かなと思った。
然しどうやら個人制作アニメーションらしい。一癖ありそうな雰囲気が気になり調べてみると、あの『検索してはいけない言葉』にも選ばれていたことを知る。その一方でサブカル的な人気を誇りファンアートが多数投稿されていたり、公式のキャラソンが存在していること、知名度や再生数に対して、そして作品の雰囲気ともアンバランスに見える評判にどんどんと興味が募った。
そしてとうとう一話から最終話まで一気見し、案の定どハマリして、今に至る。
これが面白すぎる。あまりにも素敵な作品すぎるよティーチくん。もっといろんな人に見てほしい知ってほしいよ〜!という思いでこの文を書いている。怖いもの見たさでちょっと調べてみて、なんとなく概要はわかったしまたいつか……となっている人もいると思う。わたしがその人の手をがっと掴みたい。見てください。ティーチくんを、ちゃんと見てください!!!

それと同時に、掴もうとするこの手を自制したい思いもある。
なんというか、こう、理屈立ててこんなところが〜と語ってしまうのは野暮なのではないかというような感じすらある。これは感性のままに観測するからこそ美しい作品ではないか。しかしええいままよ、一癖どころか二癖も何癖もある作品なので、少し知った程度では全部見るほどの気力が湧かない人もいるでしょう。なので一応、野暮かもしれないという注意書きを添えて以下の文を書きます。念のため言っておくとネタバレはほぼありません。
少しでも興味を惹かれたらこんなぐだぐだした説明は全て忘れて作品の鑑賞をしていただくことを強くおすすめします。

さてではまず。
これを読んでくださっている人は大抵が『ねこのティーチくん』が好きな方か、どこかで見かけて気になっているかでこの文章を開いてくださったような予感がするので不要かもしれないが、一応作品の概要について説明させていただこうかと思う。
『ねこのティーチくん』は おやさい鬼9 さんによって制作、投稿された、個人制作アニメーション作品である。
アニメは本編全373話にて構成されており、完結済み(現在は続編や番外編のようなシリーズが引き続き投稿されている)。話数にして見ると結構多いように思えるが、一話1分にも満たないような短い回がほとんど。基本的にティーチくんをはじめとする登場人物たちが体育座りでこちらに向かって話しかけてくるという独白形式で話が進み、その内容は支離滅裂だったり意味深だったりすることも珍しくなく、ときには無言で一話終わることもある。イラストからアニメーション、声まで恐らくほとんどおやさい鬼9さん本人が一人で手がけており、一度見たが最後、なかなか忘れられない強烈なインパクトを残す独特な雰囲気を持っている。

恐らく、最初に目を引くのは、作品全体に漂う理不尽かつ無気味、それでいてシュールな雰囲気かと思う。
おやさい鬼9さんの絵のタッチや、ノイズや環境音の入った演技らしさの感じられない声、独特の言い回しや抑揚、そしてどこかおかしな世界観に説明や注釈が一切入らないことの不条理さ。
これが好きな方だとハマるのは早いかもしれない。正直わたし自身はこの他に類を見ない奇抜さに最初は見ていると不安になり、慣れるのは時間がかかった。友人に勧めた際もみんな「正気でこれを長時間見てるのか……?」みたいな顔をする。いずれ馴染むのだ。
また、検索してはいけない言葉に選出されているのも納得なホラー要素も含まれている。ビックリ要素にも思える大音量やアニメーションの演出、可愛らしくも無気味にも見える絵柄も相俟って、それほど詳細に描かれてはいないがグロ(怪我描写)、自死、殺人、その他倫理観を損なうシーンも多くある。これらが過剰に苦手な方は難しいかもしれないが、本人様の再生リストで閲覧注意回をまとめていたりもするので身構えながらの視聴も可能だ。支援が手厚い。

それでは、決してホラー作品がすごく得意というわけでもなく、最初のうちは恐る恐る見ていたようなわたしが結果的にこの作品にどうしてこれほどまでにハマり込み、そしてこんな文を書いているのか。
それは、そんな『ねこのティーチくん』及びおやさい鬼9さんの作品の、一見しただけでは伝わらないあまりにも繊細な人物描写と徹底された世界観、そしてその表現方法に圧倒され強く惹かれたから。これに尽きる。

ティーチくん及びその他の登場人物たちの多くは、皆なにか性格や性質に問題を抱えている。
主人公のティーチくんは精神面が心配になる描写が多く、実際自傷行為を行っていたような様子があるし、他のキャラクターも様々な歪みや欠点がはっきりと描かれている。また、作品中で倫理観を疑うような発言、行為をしたり、過去に禁忌を犯してしまった者もいる。
ところがここでは決してその罪や苦しみを軽視しないうえで、彼らのありのままを描く。汚い部分も弱い部分も、常人離れしたたような性格に見える彼らに確かに存在する人間らしさも、愚かさも思慮深さも優しさも醜さも狂気も愛情も、喜怒哀楽やその成り行き、それだけでなく理屈ではどうしようもないような気分の浮き沈み全て。ときには一話見終わったあと彼らのことがぐっと好きになってしまうような親しみや魅力がある。
それが、本当にあまりにも上手い!なんだか偉そうな言い方をしてごめんなさい!でも率直な感想が「うま!?!?」だったので許してほしい。具体的な説明や明言は何一つなく、全てはイラストで伺える表情と声だけ。それも演技や演出とは思えないほど他愛のないものたちなのだが、だからこそ届く。自然と伝わってくる。そのうえ物語を追うごとに着実に彼らの成長や変化が見える。ゆるやかに、それでも確かに変化し、進んでいっている。
元々、キャラクターの性質についての造形が非常に優れているのだと思う。主人公のティーチくん一人をとっても、一言では説明しきれないほどの要素がある。第一印象からはさぞかし暗い性格の持ち主なのかと思えば、実は結構ユニークな性格をしている。そのうえ意外と自尊心も高いし気が強いし豪胆。それでも繊細で、過去のトラウマからかヒステリックなところも持ち合わせている。心優しいかと思えば突然とんでもなくデリカシーのない発言をしたりもする。ありとあらゆるコンテンツを見ていても本当に掴めない。ちなみに公式の説明では『すこし こわがりだけど ともだちおもいな やさしいおとこのこ』となっている。勿論そういった印象も受けるが、これ一つだけでは伝わらない部分のほうが多いと思う。まるで実在する人物かのように多面的なのだ。
何せこの作品には本当に恣意的な要素が少ない。
例えばこの作品には全編通してBGMがない。音楽で場面の雰囲気やキャラクターの感情を演出することもできるのにそれをしない。
意味深に思える要素や発言はやはり多い。そうかと思えば、突然まっすぐに思っていることを伝えてきたりもする。「大好き」「嬉しい」「怖いよ」、ずっと奇怪に見えていた世界の中で突然発せられたまっすぐな言葉はやけに届く。そういうところでの伝え方を見誤らない。
そもそもの会話自体が何だかずっと変だ。取り留めのないことを言っているかと思えば突然大声を上げてわかりやすく感情を表したり、台本があるとは思えないほどつっかえたり不思議な言い回しをしたり、キャラクターによってはこちらにはわからない言葉を喋ったり。会話が全てアニメーションという世界の中では明らかに歪なのに、次第にそれはやけにリアルなコミュニケーションに感じられてくる。演技力に至っても確かなもので、なんと形容したらいいか分からないのだが、芝居がかっていない、然し自然と言うにも違和感があるような、とにかく独特なのだが、声だけで感情や状況を伝えるには実に申し分ない素敵な声の演技をしているのだ。
作品の魅力はそれだけではない。
多くの人が『ねこのティーチくん』に魅せられたのは、キャラクター造形は勿論のこと、徹底された世界観の描き方だと思う。
真っ白な部屋で、何故か視聴者を認識して話しかけてくるティーチくんをはじめとした登場人物たち。そうしたメタフィクション的な要素を持ちながら、こちらを置いてけぼりで進んでいく物語。
本編一つを全て見終えても、きっと分からないことが多いと思う。何ならはっきりと説明されずに終わってしまったことのほうが多い。然し頑なにミステリアスな雰囲気を貫くのではなく、必要なときには躊躇いなくぼかすこともなく真相を解明させる場面もあり(最終局面で訪れる、例のアレによる怒涛の「はいネタバレおわりねw」に喰らった方も多いのではないでしょうか……?)、きっと最後まで本編で描かなかったのは知らなくても一つの物語として美しく完結する部分なのではないか。
それでいて、本編以外のコンテンツでのみ知ることができる話もあるのが、ファンとしては嬉しい点のひとつだ。おやさい鬼9さんのTwitterや、その他続編や派生のアニメーション、公式テーマソング、そしてpixivのアカウント(ティーチくんのもあるよ……!)などから、本編では語られなかった設定や彼らの日常を窺い知ることができる。
その中でもわたしが特に好きなのが公式テーマソングの数々だ。キャラクターたちがアニメーション本編では明確に伝えなかった、自分では上手にまとめることができなかったような思いがはっきりと描かれていて、聴く度になんだかどうしようもなく彼らのことが愛おしくなってしまう。曲をつくってらっしゃるのは別の方々なのだが、どのような話し合いやコミュニケーションがあったら、こんなにもキャラクターや作品のことを上手に汲んで表現する音楽作品を出せるのだろうと驚いた。
はっきりとは語らずにアニメーションの展開や演出だけで魅せ、そして必要な局面ではしっかりと伝える。
なかなかできたことではないと思う。

これを作者のおやさい鬼9さん本人が意図して制作しているのかわからないが、御本人様のSNSやその他での発言、活動などを拝見しているとどうやらそれすらも恣意的な意識はないのではないかと思っている。最初これに気がついたときが、とんでもない衝撃だった。クリエイターとしてなんて類稀かつ恐ろしい才能を持った人だろう!よくぞこれを世に出してくれた、そしてよく有名になったなぁと思うのが率直な感想だった。
わたしが最初のほうに野暮かもしれないと書き置いたのはそのためで、わざわざこの良さを言語化してしまうことはこの作品の良さを寧ろ損なってしまう行為ではないかと悩んだのだ。結局、我慢はできませんでしたが……(すみませんでした……)。

おやさい鬼9さんの他の作品『シカクマン』シリーズや『RAT ON THE BENCH』、その他様々な作品も拝見しましたが、とにかく表現というものが好きで、楽しんでやられているのだろうなぁと感じた。どれも一癖ありますが本当に素敵でまっすぐに語りかけてくる作品です。
思ったこと、考えたこと、面白い、素敵だ、魅力だと感じたこと、伝えたいことを一切濾過せず、これほどまでにまっすぐに表現する力がある方を見たことがない、これからも作品を拝見することができると思うととても嬉しい。知ることができてよかった〜!と思う。そしてまだ見ていない方に、是非どうですかと勧めてみたくなる。

怖いもの見たさでも構わない。どうか、『ねこのティーチくん』を、そしてそこから興味を持ったら、他のものも是非見てみてほしい。
わたしもまだまだ見られていない素敵な作品があると思うので今までのものも、そしてこれからのものも!見られることを心から楽しみにしています。

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