不倫の理由(独語)

なお、待った?
ごめんね、ちょっと支度に時間かかっちゃった。で、話ってなに?
えっ、いっくんのこと?
えっ、私といっくんが、ホテルに?
そんな、いっくんはあなたの旦那様でしょう?
私がとるわけないじゃ……
えっ、証拠がある?
写真?
えっ……これ?
えっ、でも待って、これホテルの近くにいただけで……
えっ、いっくんは白状した?
そう、いや、違うの、なお、聞いて、ね、聞いて?
お願い、お願いだから聞いて?
私ね、いつもそうなの。
何がって、好きになるのはいつも奥さんのいる人ばっかりなの、でもね、これには理由があるの。

キョウコ、知ってるでしょ?
彼女、学生の時からの友達なんだけど、スマホが流行り出して数年経ってから、彼女まだガラケーだったんだけど、「スマホって便利?」って聞いてきたの。
でね、便利だよ、って答えたら、数日してね、浮かない顔してるのよ。キョウコが。
でね、「スマホ買った?」って聞いたの。
そしたら「買ったけど」って言うから、「けどって?」って聞いた訳よ。
そしたらうるさいから使ってないって言うの。
キョウコが!
「うるさい?」って何?って思うじゃない?
キョウコが言うには、記事でも投稿でも必ずコメントがつくじゃない?
そのコメントが話すって言うの。
話すって、音声の読み上げが付いてるだけだと思ったのよ。
で、「それって読み上げ機能をオフにすればいいだけでしょ?」って言ったら、違うって言って、スマホ見せてくれたの。

そしたらね。
いたの。
スマホの上に。
ちっちゃなおじさんが。
2人も。
コメントくんって言うんだって。
良コメ君と悪コメ君。
キョウコが芸能人のニュースを開いたら、この2人がコメントを読み上げて、挙げ句の果てには取っ組み合いのけんかまで始めちゃって。
え? 訳のわからない話して誤魔化そうとしてる?
違うのちょっと前置きが長いんだけど、ほんとに理由を話してるの。
お願いもう少し聞いて?

ありがとう。
でね、キョウコにどこで買ったのか聞いたら、「八幡さまの境内の電気出店」だって言うの。
八幡さまの境内の出店?
そんなのあったっけ?って思ったんだけど、なんか興味でちゃって。
キョウコと分かれてから八幡さまの境内に行ってみたの。
そしたら、確かに出店があったの。
その出店にはね、おばさんが1人座っていたの。
少し小太りのどこにもいそうなおばさんだったけど。
なんか優しそうな感じだったし、ちょっと怖かったけど、そのおばさんに話しかけてみたの。
「スマホありますか?」って。
そしたら「あぁ、あるよ」って。
明るい感じの声でおばさんが言ったから、なんか安心しちゃって。
思わず、「いくらですか?」って聞いたの。
「一万円で一種類しかない」って言うのね。そのおばさんが。
一種類だけ?って変だし、聞いてみると、買ったらプリペイドみたくすぐ使えるんだって。
ちょっと変だなって思ったんだけどね。
だって、スマホとしては安いし。
すぐ使えるって言うのも変だし。
でもなんか興味の方が勝っちゃって。
まっいっかなって買っちゃった。
でも、そのおばさんが言うのよ。
「ひとつ注意があるんだ。このスマホはひとつだけスマホで見たいものが現実化するのだけれど、2年縛りがあるんだよ、2年間は何があっても捨ててはいけない。これを守らないとスマホのたたりがあるんだ」って。
たたりって何?って聞いたんだけど。
「それはわからない、経験したことがないからね」だって。
でも、せっかく買ったし、2年間捨てなければいいんだったら楽勝だと思って、家に持って帰ったの。

家に帰ってドキドキしながら箱を開けてスマホを取り出して見たけど、なんの変哲も無い普通のスマホ。
とりあえず電源を入れ、当時付き合っていた彼にメールしたの。
明日どうする?って送って、返信を待っていたけど、なかなか返信が来ない。
待っていたら眠くなって寝ちゃったの。
一時間ほどして目が覚めてスマホを見たら、スマホの上に何かいるの。
小人、小人がいたの。
小人の女性。
「あなた何?」思わず叫んじゃった。
そしたらその小人、「あなたの彼の彼女!」って言うのよ。
えっ、彼の彼女って、何言ってるの?ってなるじゃない?
だから私言ってやったの。
「彼の彼女は私だけど」って。
そしたら、その小人、
「あなたね、彼の彼女って思ってるみたいだけど、本当はあなたは浮気相手なの、本命は別にいるのよ! 私」って言うじゃない?
どういうこと?
そんなことある訳ないじゃないって思うから、彼に電話をしたの。
もう何回か電話して、5回目くらいかな、やっと出てたんだけど、小人が言う名前出して問い詰めたら、白状したのよ。
彼が、他に付き合っている女性がいるって。
しかもそっちを愛してて、私は遊びだって。
もう、そりゃショックだったよ。
失意のどん底で電話を切ってスマホをみると、小人が勝ち誇ったように「でしょ」と言ってきたの。
思わず、スマホを叩きつけたわよ。何度も何度も。当然壊れた。それもバラバラに。小人も消えてしまった。
捨てそうになったけど、おばさんの「タタリ」って言葉が引っかかって、捨てなかった。

だけど、翌日うちに帰ってきたらバラバラのスマホは無くなっていたの。
お母さんに聞いたら、ガラクタが置いてあると思って捨てたって言うのよ。
大事なものなのにと母を責めて、探しに出たけど、結局見つからなくて。
「で」って?
これよ。
これが理由なの。
そうなの、私が好きになる人が「妻子ある男性」なのはね。
スマホのタタリなのよ。


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