It’s Cool!

   人 物

我望淳(27)会社員

君島翔太(28)会社員

皆実リサ(26)会社員

マスター(55)バーDのバーテン

女子社員A

女子社員B



○バーD店内(夜)

カウンターに我望淳(27)と君島翔太(28)とが並んで座っている。君島がタバコにジッポで火をつける。それを見ながら淳は、

淳「ねえ、君くん、今日はタバコの火、マッチじゃないの?」

君島は淳の方は向かずに、

君島「おまえさあ、俺がどうやって火をつけようが勝手だろ?お前は俺の彼女か?」

淳「いや、だって、いつもマッチでつけるじゃない?あのマッチで火つけるの格好いいんだよね。片手でシュッてやつ」

片手でマッチをする真似をする淳

君島「そうかぁ、ありがと。マスター、エバァン、赤ね、ダブルで、お前は次何飲む」

淳の方を向く君島。

淳「僕、僕はカシスオレンジ」

君島「おい、男だろ?もっとそれっぽいもん飲めよ」

淳「いや、お酒強くないし」

君島「飲みやすいのもあるんだぞ、バーボンにも、エズラとか」

淳「えー、無理だよ、バーボン」

カウンターの中にいたマスター(55)が君島の方を向いて、

マスター「君島くん、エズラなんてまた意地悪して。淳くん、ジンベースでなにか飲みやすいのを作ってあげるよ。最近日本のジンは美味しいんだ。ロク、試してみる?」

淳「はい、ありがとうございます」

マスターはアイスピックだけで氷の塊を丸く整える。

淳「いつ見てもすごいね、マスター、氷」

マスター「ああ、長くやってるからね。でも少しずつ変わってるんだよ。日々進化さ」

淳「へー、マスターでもそうなんだ」


○オフィスビルの前(朝)

ビルへ入ろうとする淳の後ろから皆実リサ(26)がやってきて元気な声で

リサ「淳くん」

淳、リサの方を振り向く、

リサ「おはよう、元気?昨日もD?」

淳「うん」

リサ「君島くんと?」

淳、嬉しそうに

淳「うん」

リサ「ふーん」

淳「何だよ」

リサ「いいえ、ごちそうさま。さ、早く行こ、課長に怒られるよ」

リサに急かされて、不満顔のままオフィスビルに入る淳。


○会社給湯室

淳がコーヒーを淹れに給湯室へ入る。そこで女子社員2人が会話している。

女子社員A「君島くん、ニューヨーク支店に移動だって」

女子社員B「それに専務の娘さんとお見合いしたみたいだよ」

淳は呆然と聞いていたが、2人の視線を感じて我に返り、

淳「そ、それ、ほんとに?」

女子社員B「淳くん、君島くんと仲イイじゃない、何も聞いてないの?」

淳「いや、なにも、昨日会った時もなにも言ってなかったし」

女子社員B「そう、移動もだけど、お見合い気になるよね」

淳「そう……うん、そうだね」

トボトボと給湯室を出る淳。

女子社員A「あーあ、これでまた我が社の独身イケメンが一人いなくなるかァ」

女子社員B「でも淳くんもイケメンだよぉ、可愛いって感じだけど」


○オフィスビル前(夕)

会社のあるビルを出て、うなだれて歩いている淳。後ろからリサにトンと肩を叩かれる。

リサ「淳くん、なーにしょげてんの?」

淳、リサの方を振り向き、少しムッとした顔で

淳「何も、しょげてなんかないし」

リサ、淳の顔を覗き込んで、

リサ「君島くん?移動だってね」

淳「そう、みたいだね」

リサ「彼から聞いてないの?」

淳「うん」

リサ「え、なんで?……淳くん、今日はD行くの?」

淳「うん、なんか気が進まない……かな」

リサ「じゃあさこれからウチとデートしよ」

淳「え、なんで?」

リサ「いいから」

リサに手を引かれて走り出す淳。


○遊園地(夕)

リサに引っ張られて遊園地に入る淳。


○メリーゴーラウンド(夜)

リサに手を引かれて、メリーゴーラウンドに乗ろうとする淳。

リサ「次は、これ、乗ろ!いいでしょ?」

淳「やだっていっても乗るじゃん」

リサ「そうだね」

馬車のシートに並んで腰掛ける二人。静かに動き出すメリーゴーランド。その動きに合わせて話し出すリサ。

リサ「淳くん、私のことどう思う?」

淳「えっ」

リサ「私は淳くんのこと好きだよ、かわいいし、ホッとする」

淳「うん、ありがとう」

リサ「淳くんは?」

淳「僕もリサのことは好き、だよ」

リサは淳の手を握って

リサ「じゃあさキスしようか?」

淳「え?」

リサ「ね!」

淳「うん」

ゆっくりと顔を近づけて、そっと唇を重ねる二人。数秒唇を重ねる。その間、二人の時間が止まったように周りの景色だけが猛スピードで流れる。リサは顔を離して

リサ「どうだった?正直に言って」

淳「なんか、違う、かな」

リサ「うん、だろうね……」

メリーゴーランドが止まり、

リサ「行こうか?」

淳「どこに?」

リサ「D」

リサは淳の手を引いて駆け出す。


○バーDの前(夜)

Dの扉を前にして立つリサと淳。

リサ「さ、深呼吸して」

淳「うん」

リサ「じゃ、頑張れ」

淳の後ろに回り込んで、淳の背中を押すリサ。

淳「え、リサは?」

淳は振り返る。笑顔で手を振るリサ。


○バーD店内(夜)

店の扉を開き中へと入っていく淳。君島がカウンターに座っていた。カウンターの中にいるマスターが淳を見て、

マスター「いらっしゃい、淳くん」

その声を聞いて、淳の方を見る君島、ぶっきらぼうな調子で、

君島「よう」

淳「隣、座ってもいい?」

君島「いつも座ってんだろ、指定席みたいなもんだ」

淳「うん、ありがと、あのさ、ニューヨーク栄転だね、おめでと」

マスター「君島くん、ニューヨーク?すごいね、栄転だ。お祝いしないと、そうだ、エヴァンの23年ものがあるんだよ」

君島「あれでしょ」

一本の青いボトルを指す君島。

マスター「そう、流石に深みのあるいい酒だよ。栄転のお祝いだ、ごちそうするよ」

君島「ありがとう。いただきます」

ロックの準備をするマスター。

淳「なんで言ってくれなかったの?前から知ってたんでしょう?」

君島「ああ、でも正式に辞令が出るまで言うなって言われたから」

淳「そうなんだ……で、お見合いは?どうだったの?」

君島「ん、そんなことも知ってるのか?」

淳「みんな噂してる」

君島「そうか、でも見合い自体断った」

淳「え、なんで?専務のお嬢さんだって」

君島「だからだよ、みんなから出世のために見合いしたみたいに言われるのは、俺は嫌だし、彼女もだと思うって、言ったんだ」

淳「そう、らしいね・・・で、どれくらい行ってるの?ニューヨーク」

君島「多分3年」

淳「遊び行っていい?」

君島「ああ、来いよ」

淳「うん行く……そう断ったんだ」

マスターがロックを君島に差し出し、ニコニコしている淳に

マスター「淳くんは何飲む?」

淳「じゃ、ブッカーズをロックで」

淳を驚いた目で見る二人

淳「僕も少し変わんないと、進化、進化」

君島「そうか、そうだな、でも淳はそのままでいいと思うけどな」

片手でマッチを擦ってタバコに火をつける君島。その様子をじっと見て淳は

淳「君くん、火の付け方はそのままがいい、クールじゃん」(了)











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