「ザカライア」

いやぁ、すごい映画を観たものだ。

「The First Electric Western Zachariah」邦題「ウエスタン・ロック・ザカライア」という71年製作の一風変わった映画がある。監督ジョージ・イングランド、出演ジョン・ルビンシュタイン(あの偉大なるアルトゥール・ルービンシュタインの息子である)、ドン・ジョンソンのダブルキャストの西部劇なんであるが、一言で言うとまぁ、メチャクチャなんである。

時はアメリカ開拓時代。通販で手に入れた拳銃で早撃ちの練習をしていたザカライア(ルビンシュタイン)と友人マシュー(ドンジョンソン)二人は憧れの強盗兼ロックバンド、クラッカーズの演奏を聞きに行ったのだが、色々あってクラッカーズの仲間となってしまう。以降各地を流れながら演奏をし、ついでに銀行強盗もする内に、、、というあらすじなのであるが、オイルランプかロウソクが唯一のあかりだった開拓時代にエレキギターやらエレキベースやらアンプやらドラムセットが有って当たり前にハードロックとか演奏しているのである。

まあ、それは良い。百歩譲ろうじゃないか。そういうこともあるだろう。七十年代だしな。
さて物語中盤、酒場での演奏シーンで彼らのライバルとなるクールな早撃ち黒人ガンマン、ジョブ・ケインが登場して驚嘆したのである。なんとあの天才ジャズドラマー、エルビン・ジョーンズご本人がジョブ・ケインを熱演しているのだ。酒場の奥の暗がりからのっそり登場した時、大げさでなくひっくり返りそうになったのである。
黒人ガンマンが出てくる映画といえばタランティーノの「ジャンゴ」が有名な訳だけど、エルビンの演じるジョブ・ケインは不思議と自然なエスプリを感じるのだ。その後、キラッキラの衣装でドラムソロを熱演し、ほんの数分ではあるが開拓時代の酒場にジャズマシーンが出現して感無量となったのである。

それにしても一体どんな契約内容だったのだろう?世界的スーパースターのサッチモあたりならいざ知らず、まさかエルビンが映画に、それもちょっとおかしい映画で熱演してるとは五十路も半ばとなるまで知らなかったのである。長生きはするものである。
彼は六十六年の来日中に帰国できなくなるというトラブルがあり、日本のミュージシャンやジャズ喫茶の親父らに援助されて難を逃れたという。彼は貧しさや人の苦しみや愚かさを知っている人だ。ぼくは若い頃何度かエルビンに良くしてもらった事がある。多くのことを教わり、中でも見返りを求めない優しさを教わった。彼はぼくの神様なのである。
エルヴィン、映画に出てたなんて知らなかったよ。とてもクールだった。心からありがとう。

https://www.youtube.com/watch?v=i3n6Nccb9CM

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