ドーナツの穴

「ドーナツの穴?」
と君は首を傾げた

街のドーナツショップ
昼下がりのこと

僕が
「ドーナツの穴ってどんな味?」
と聞いてみたんだ

君は
お皿に乗せられた
ドーナツを
しばらく見つめてから

「甘いんじゃない?」

と言って
フフフ
と笑った

「でも食べたコトは無いな
穴の部分はちょっと苦手で」

冗談のつもりで
言ったつもりなんだけど
真面目なハナシになってしまった

「毎回残しているの?」

「そう
お店の人には申し訳ないけど」

君は紅茶を一口
口に含んで
ドーナツを一口かじった

君のお皿には
一口かじったドーナツ

僕のお皿には
半分食べたドーナツ

「残したドーナツの。。。」

と言いかけて
僕はコーヒーを一口飲んだ

「残したドーナツの穴は
どうしてるの?」

「そうね。。。」

君は宙を見上げて
しばらく考えてから

「野に放してるわ」

と言った

「野良ドーナツの穴」

僕はつぶやいた

「そうね
野良ドーナツの穴」

君の口角が上がる

「あなたは
ドーナツの穴どうしてるの?」

「僕は。。。」

僕はどうしているだろう
ドーナツの穴を

目の前のドーナツを見つめ

「僕がドーナツを食べると
ドーナツの穴が逃げ出すんだ」

と僕

「逃亡ドーナツの穴」

と君が言う

君は紅茶を一口飲んで

「この世界は
野良ドーナツの穴と
逃亡ドーナツの穴で
形作られているのかもね」

と言って
残っていたドーナツを食べた

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