女郎蜘蛛

彼女の長い手が
私を絡めとる
私は何もすることができない
彼女の口が
私に近づいてくる
甘い吐息
そして耳元で
彼女が囁く

「身体の力を抜いて」

そこで目が覚めた
ひどい寝汗
台所に立ち
水を一杯飲んだ

そして

夢の記憶を手繰った

彼女の長く伸びた白い腕
彼女の赤い唇
彼女の甘い声
彼女の長く黒い髪

顔は見えない
漆黒の向こうから
腕がこちらに近づいてきて
私の首に触れ
身体をつかむ
そして
次々と伸びてくる
幾つもの白い腕
その腕は
すべて彼女のもの

水をもう一杯飲む

カーテンと窓を開け
外の空気を吸う

冬の空気が
私の肺に
ズカズカと
土足で踏み込んでくる

窓の前の電線に
大きな女郎蜘蛛の
巣が張っている

お腹が
パンパンに膨らんだ
一匹の雌蜘蛛

なんだ
お前だったのか
私を絡めとろうと
していたのは

一気に腑に落ちる

乾いた朝の空気
私はしばらく
蜘蛛を見つめていた

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