【考察】社労士試験における基礎力とは

はじめに

先日X(旧Twitter)でフォロワーさんがこんなポストをされてました。

基礎を理解する、よく言われる割にフワッとした言葉です。
私自身、受験生だった時は基礎を大事にしていたつもりですが、じゃあ何を意識していたかと言われるとパッと言葉が出てこず。自分なりに言語化したアンサーを持ってないなと感じたのがこの記事を書こうと思ったキッカケだったりします。

今回お伝えしたいことは大きく2つ。

社労士試験で求められるのは「知識」と「能力」
大切なのは問題演習の深さ。

  • あと数点で涙を飲んでる方

  • これ以上の勉強は細かい知識を覚えるしかないと感じてる方

  • 見たことない論点への対応に難儀している方
    向けの内容になりそうです。
    (もちろん初学者の方にも役立つ内容にしたいと思います。)

社労士試験で求められるのは「知識」と「能力」

前提として、社労士試験がどんな力を問うてる試験なのか、私なりの視点で考察していきたいと思います。

まずは一次情報から当たろうということで、社労士試験の根拠条文である社労士法を引用します。

第9条
社会保険労務士試験は、社会保険労務士となるのに必要な知識及び能力を有するかどうかを判定することを目的とし、次に掲げる科目について行う。
一 労働基準法及び労働安全衛生法
二 労働者災害補償保険法
三 雇用保険法
三の二 労働保険の保険料の徴収等に関する法律
四 健康保険法
五 厚生年金保険法
六 国民年金法
七 労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識

社労士法第9条

これによると、社労士になる上で必要な「知識」と「能力」を持つかどうかを判定するための試験とのこと。
ということは(少なくとも作問者の意図としては)法律や通達に書いてあることを丸暗記するだけではダメなようです。

「知識」は「知らなきゃいけないことを知ってるかどうか」。これは社労士試験の勉強をした方なら疑問の余地がないところでしょう。選択式では条文の細かいところまで穴埋めにされて、どこまで覚えれば良いのか不安になる経験は多くの方がしたことがあると思います。

では「能力」とは何でしょう。人によって解釈が分かれると思いますが、今の私が定義するなら

「知識を活用する力」と「相場観」

だと考えます。
それぞれに分けてさらに深掘りしていきます。

能力1:知識を活用する力

こちらは比較的イメージがつきやすいんじゃないでしょうか。
試験問題でいえば事例問題が典型です。

(雇用保険)「働いてた期間が3年で、そのあと2年無職のあと、3年働いて再度離職。この人は基本手当を何日分もらえるでしょーか?」
みたいなやつですね。
(分かりやすさ重視のため被保険者要件のこととか書いてないです。なので答えられない問題ですがご愛嬌。)

学んだ知識を適切に引っ張り出して、具体的な事例に落とし込んで正しい結論を出せるかどうかが求められるタイプの問題です。

能力2:相場観

次に相場観について。ちなみにこの言い方は私がこの記事を書くにあたって思いついた表現です。

相場観は一言でいうと「許容範囲のラインを感覚的に判断する力」
極端な例を挙げると、

会社のお金1億円を横領したら解雇→分かる
会社のお金100円を横領したら解雇→やりすぎ

と感じられるかどうか、という意味です。

試験問題の例だと、
五択のうち三択は切れた
→あと二択で迷うがどっちも知らない論点
→正しそうな方を自分の判断で選ばないといけない
みたいなシーンで発揮される力だと思います。
(具体的な問題文の例が出ずすみません。)

そしてこっちが社労士試験を「運ゲー」と言わしめてる理由なんじゃないかと考えています。

相場観を問われてると思うのは、実務でも必須のスキルだと感じているから。労務相談に携わる機会をいただいて日々実感するのが、相談内容にどう答えるかが本当にケースバイケースであること。

法律自体がふんわりしているし、判例を見ても「総合的に判断する」「信義則から鑑みる」みたいな曖昧な判断基準しかない。しかも相談いただく案件によってその時の状況、会社の制度や文化の違いを考慮しないといけないので、当然といえば当然かもしれません。

答えがない中で法律の専門知識に基づいた適切なアドバイスをするためには、明確にラインを引けない部分に「一般的にはこういう見解になると思われる」と伝えることも必要で、そのための感覚を持ってるかどうか試験で問われている、と私は思います。

社労士試験の基礎力は知識を能力に変換する力

前置きが長くなりました。本題である「社労士試験における基礎力とは何か」に戻ります。

結論としては、私の考える基礎力は

  1. 正確な知識

  2. 事例に当てはめる力

  3. 条文や通達から相場観を読み取る感覚

の3つです。

誤解しないように言っておきたいのは、知識を覚えることの重要度が低いということではありません。むしろ1番重要ですし、知識だけで試験問題の6割くらいは解けると思います。
その上で「点数がこれ以上伸びないと思ってる人は2,3をないがしろにしてませんか?」がこの記事の主張です。

体感ですが、多くの受験生は1の正確な知識を覚えることに偏りがちな気がします。知識さえしっかり固めたらあと1歩のところまでいける問題構成も原因かもしれません。

2の事例に当てはめる力があれば事例問題が解けるようになるし、3の相場感が身につけば知らない論点でも自分なりの基準を持って選べるようになります。知識だけで解くよりも合否を分けるもう1点をもぎ取れる可能性は上がるはずです。

大切なのは問題演習の深さ

では普段の勉強においてどうやって能力、つまり知識を活用する力と相場観を身につけるか。ザックリ一言でいうと「常に意識しながら問題を解こう」ということになります。

そもそも知識を問うてるか能力を問うてるかは問題ごとにハッキリ分かれる訳じゃありません。知識の当てはめや相場観に基づいた判断をするためにはそもそも知識が必要ですし、五肢択一の中でも

・基本論点を聞いてる肢
・事例チックな肢
・知らない論点の肢

が並んでる問題なんてよくあります。
具体例として労働基準法の男女同一賃金の原則を挙げたいと思います。

(男女同一賃金の原則)使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

労働基準法第4条

社労士試験においては、

  • 女性であることを理由にした差別は禁止

  • 賃金のみについて規定

  • 有利な差別もアウト

あたりがこの条文の問題で必要な知識です(と私は当時習いました。)。

この3つを覚えるのと同時に、

  • 知識を活用:「同じタイミングで入社した職位や条件が同じ2人なのに男性社員だけが月給1万円高い、はアウト」をイメージする、

  • 相場観:「賃金だけについて規定しているということは、(少なくともこの条文では)賃金差別を1番重いものと考えている→労基法全体でも同じような前提があるかもしれない」と把握しておく

単なる数字の暗記になりがちな国民年金の「第1号被保険者は20-60歳」という規定だって、

  • 知識を活用:大学生だろうと20歳になったら保険料が取られるようになる

  • 相場観:20~60歳は保険料を取られる→60歳を超えたらもう引退、みたいな前提が国民年金法にはあるのかもしれない

と押さえておくだけで数字を覚えるだけよりも理解力、応用力が伴うと思います。

「復習のときは答え合わせして合ってた、間違ってた、だけじゃダメ。ちゃんと根拠を確認する」とは勉強全般によく言われることですが、社労士試験においては具体的な事例や条文の背景をある程度自分の頭で考えて整理しておくことが復習でやるべきことかな、と個人的には思います。

応用問題は適応力・相場観を養うために使う

過去問や講座の問題を解いていると結構な確率で出くわす応用問題。「こんな細かい知識覚えたって出ない」と思いつつもとりあえず覚えてる人も多いんじゃないでしょうか。

私はこういう問題こそ、そのまま出題された時のための知識として覚えるのではなく、法律や条文の趣旨をより深く理解して、知識の活用力や相場観を養うために使う、と思っています。

自前で恐縮ですが、同趣旨のツイートを昔してたので引用します。


社労士試験の場合の応用問題は、条文や通達の字面を追ってるだけでは把握できないエッセンスを身につけるイメージ、といえば伝わるでしょうか。

発展的な論点に触れた結果、基本的な部分の記憶・理解の幅が深まる。結果的に知らない応用問題でも対応できるようになる、みたいな流れが理想の流れかなと思います。

終わりに

note一発目の記事なのに自己紹介もせず偉そうに私見を語ってしまいました。ここまで読んでいただきありがとうございます。
まぁこの記事読んでくださる方の大半は普段からXで交流ある方々だと思うので、ご愛嬌ということで(笑)

役割分担をまだ決めかねてますが、需要があればブログと並行して更新していきたいと思います。よろしくお願いします。


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