【2025年度】立命ロー前期入試 答案(刑法)

1 概要

 2024年8月に実施された、2025年度入試の刑法の答案です。

2 問題

 公表されるまでお待ちください。

3 答案例・コメント

(1) 問題Ⅰ

 第一印象は、非常に難しい問題だなという感じです。例年刑法は、司法試験・予備試験の改題や、近時の裁判例からの出題がほとんどだったと記憶しています。本問は大判大正13年12月12日(百選Ⅰ32事件)が素材と思われ、ここにきて傾向が変わった可能性があります。
 本問は過失犯+緊急避難という組み合わせです。司法試験・予備試験合わせて過失犯が出題されたのは平成22年司法試験の一度のみと記憶しており、出題頻度の低い論点からの出題と言えます。なお、緊急避難、特に自招危難については、2022年に出題があります。

 設問1の方は、甲がBを認識していない場合の罪責について検討が求められています。
 まず、前提として、実行行為をどの行為とするか(安全を確認して徐行しなかった行為か、とっさにハンドルを右に切ってBの方へ進路を変えた行為か)が問題となります。
 Aへの接触を避けるために右に転把した行為を実行行為とすることも考えられます。もっとも甲は、この時点ではBを認識しておらず、転把しないという行為にでることが期待できません。構成要件のうち結果回避可能性が否定されると思われたので、徐行義務違反を実行行為としました。
 なお過失の意義について、旧過失論を採用すれば過失は責任要素であり予見義務違反が過失となります。この場合、Bを認識していなかったという事実は、Bを予見するべきなのにしなかったという予見義務違反として構成でき、転把行為を実行行為としうるように思われます。(もっとも、新過失論からは、過失は責任要素であり、心理状態なので、構成要件該当性をどう書くか悩ましいところではあります)。
 他方新過失論であれば、過失が実行行為であり、しかも具体的な予見可能性までは要求されないので、Bを認識していたか否かにかかわらず、注意義務違反は肯定できるように思われます。
 また、実行行為をどの行為にするかという問題は、自招危難につきどのような処理構成を選択するか、という点とも関連します。例えば、自招危難について、「原因において違法な行為」の理論(山口厚先生他)を採用した場合、実行行為自体はBに追突した行為となり、これについては緊急避難が成立し不可罰となりますが、追突行為の原因となった行為(本問では安全を確認して徐行しなかった行為)に過失がある場合、過失犯としての罪責は問いうることになります(百選Ⅰ32事件の解説を参照されてください)。もっともこの場合、本小問ではBを認識していないことから、Bへの追突行為を何罪の構成要件で把握するかが難点であるように思われます。
 自招危難について、緊急避難の成否の検討が要求されているので検討することになります。もっとも、「自招危難の問題については、学説において、未だ一致した解決がなされておらず、また本判決(百選Ⅰ32事件のこと)以後、最高裁の判例においても、問題解決のための具体的な判断基準を示したものが存在しないのが現状である。」(百選Ⅰ32事件解説[山本輝之教授])と言われているほどであり、明確な基準は存在しない分野と言えます。そうだとすると、自分なりの解決策を示せていれば十分なのではないかと思います。


 設問2の方は、Bの存在を認識しつつ追突していることから、実行行為は追突行為で把握でき、殺人罪の検討をすればよいように思われます。
 そして、緊急避難の成否ですが、こちらも設問1と同様の処理になろうかと思われます。ただ、設問2の方は実行行為を追突行為とできるので、原因において違法な行為の理論が採用でき、そちらで書くことも可能だと思います。もっとも、そうすると、設問1と設問2で自招危難の処理基準が異なることとなり、その点について、明確な説明が求められることは間違いないでしょう。 
 仮に、Aをよけるべく転把しBに追突した場合に緊急避難が成立するとして、A・Bを認識しつつ、Bへの追突も避けねばならないという葛藤を経て、結局Aに追突した場合、緊急避難が成立するのかという疑問はあります。外形的に見れば、徐行せずに進行しそのまま突っ込んだように見え、避難意思はあるとしても、避難行為が観念できないのではないでしょうか。そうだとすると、Aをよけた場合とよけなかった場合とで結論が異なることになってしまい、妥当性を欠きます。
 逆にできるとすると、Aを認識できず、単に突っ込んだ場合には普通に過失運転致死罪が成立するので、この場合も、結論の妥当性を欠くように思われます。結局、これら3類型の間で結論の妥当性を欠くのではないかとの疑問があります。

 なお、立命館の教授の中には、通説と異なり、37条の緊急避難には、違法性阻却としての緊急避難・可罰的違法阻却としての緊急避難・責任阻却事由としての緊急避難の3種があるとの説を採用されている先生もいます。参考までに。

 一応答案も添付しておりますが、かなりできの悪いものと心得ております。適宜修正させていただこうと思います。
 また、この答案は1時間で解いたものではないので、悪しからず。


(2) 問題Ⅱ

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