最高のヘタウマ邦楽3選


はじめに

まず、ヘタウマとかいう褒め言葉なのか貶しているのかわからない言葉を使ってしまって大変に恐縮です。僕はこの言葉を最大級の賛辞をもって使用しています。もし万が一ファンの方がこの記事を目にすることがあれば、申し訳ありません!
僕もこの3曲は大好きで、毎年のSpotify再生数TOP100には入ってくるくらい好きなんです。

ヘタウマって?

1970年ごろを起源に、アート、イラスト、広告のの方で使われる言葉です。

引用したWikipediaでは、音楽についての言及はないのですが、「上手い/下手」という評価軸の他に「面白い/つまらない」という評価軸が生まれ、それがこのヘタウマという言葉が生まれたそうです。

しかしながら音楽では「下手だけど良い、面白い」なんて山ほどあります。
「晩年のビル・エヴァンズ、特にライブ盤なんて演奏もヨレヨレで荒いけど、緩やかな自死の終着点としての命を振り絞った演奏が良い」とか「アンソニー・キーディスがおちゃらけたラップで表現したパンクイズムとマッチョイズムに加えて、その半身であるナーヴァスでセンシティブな一面を、拙いヴォーカルで赤裸々に表現した、ドラッグカルチャーに染まったことへの後悔を赤裸々に歌ったUnder the Bridgeは最高の名曲」とか。

というわけで、僕は邦楽に絞って、以下のような感じで好きな曲をヘタウマというパッケージにして書かせていただいた次第です。

  • 曲が良い(主観)

  • 優れたカバーがあって、特に歌唱はカバーが完全に優れている

  • その人が歌うから、という良さが完全に曲の良さと一致している

その1:若者のすべて/フジファブリック

誰でもご存知?フジファブリックの名曲です。

先にカバーから紹介すると
Bank Band/槙原敬之/柴咲コウ などが代表的なところで、他にもたくさんのミュージシャンがこの曲をカバーしています。また、高校の教科書にも掲載されています。リリースされた2000年代を代表する、スタンダードナンバーといっても差し支えないほどの曲だと思います。

この曲ですがまず、フジファブリックの元ヴォーカル、故志村正彦さんの歌はお世辞にも上手いとは言えません。YouTubeで観られるライブ映像では、ヴォーカリストとしての技術、力量は高いとはいえないのはわかっていただけるかと思います。

志村正彦さん以外の歌う「若者のすべて」からは、この曲に歌われている「夏の終わりの切なさ、虚しさ。感傷的になり考えてしまうところ」という部分が不思議と失われてしまっているような気がしています。特に感傷というところ。

最後の花火に 今年もなったな

若者のすべて

サビ頭の歌詞の引用です。
意味は伝わるけど変な語順ですよね。「今年最後の花火になった」と言うところだけれど、この整理されてない言葉が感傷的な部分だと思うんですよね。こういう部分をしっかり表現しきるには、桜井和寿さんや槇原敬之さんのヴォーカルでは完璧に過ぎて、解像度が高すぎると感じるわけです。もっと言えば、バックバンドの寸分の狂いもないお手本の演奏も、感傷、という演奏からはほど遠くなってしまっています。

音楽的なところでいえば、淡々と1度→4度の繰り返しで進むAメロから、徐々にコードが増えて進行感が増してくる。Bメロでは4度→1度の進行にひっくり返るだけでガラッと雰囲気も変わる。サビではF7のセカンダリ・ドミナントや、2度からの上昇進行などで大きく盛り上がる。

その2:Hello Again 〜昔からある場所〜/My Little Lover

40代の方ならみんなご存知、My Little Lover最大のヒット曲です。
この曲、もしかしたら2010年にリリースされたJUJUさんのカバーの方が有名かもしれません。絢香さんもゲームの劇中曲としてカバーしてますね。

マジで圧倒的にすごい2人の歌唱なんですけど、どこか物足りなく感じてしまうんです。

Wikipediaにあるベスト盤掲載のライナーノーツと、マイラバのWikipediaに、何故小林武史がakkoをマイラバのヴォーカリストに選んだか、の言葉を踏まえて考えたんですけど、この曲のテーマである「少年性」を表現するのに、akkoさんの透明感と、未熟さが必要不可欠なのではと思います。

例えばBメロ

泣かないことを誓ったまま時は過ぎ
痛む心に気が付かずに 僕は1人になった

この辺り、メロディが少し高低あるんですけど、当時のakkoさんは高いところに行くときに音がうわずったり、ちゃんとジャストな音程にヒットせずに音を伸ばしながらジャストに近づける、という歌唱法としてはNGなところがちらほら見受けられます。もちろん、JUJUさんや絢香さんはそういうところがありません。重箱の角を続くようなことではあるから、音痴だなーってレベルではないですけどね。

超一流かつヒットメーカーである小林武史さんがこのことに気づいていないわけではなく、これは曲想としての狙いにマッチしているからに他ならないわけです。

その曲想とは、少年性の表現であると思います。未熟な少年がある経験を経て、季節をめぐり一つだけ成長する、そのような物語を歌うには完璧な歌声で語られるものではないわけです。

舞台装置となる曲そのものは、印象的なイントロのリフ。テーマ提示のAメロ。転換を予感させるBメロ。サビへの見事な転調に合わせ心象風景の描写に変わる歌詞とピークへ向かい昇り続けるメロディ。小林武史さんの追加したサビ終わりで4小節で元の調へと転調し、また景色の描写へと移る素晴らしくドラマチックに美しくまとめられています。完璧な構成をしていて、J-POPの最高の見本です。

そこで物語を語るakkoさんはまさに少年そのもので、男っぽいとかそういうところではなく中性的です。中性的というのも、女性がアルトで歌う、とか、美しいファルセットの男性、という意味での中性的、ではなく、性の自認ががまだ確固としていない心がそのままに歌ったような。もしかしたら僕もそうだったかもなあ、というような

若者のすべてにも通じる「細部まで緻密な演奏と抜群の歌唱で表現されることで失われる曲の根幹の魅力」がこの曲にもたしかに存在していると思います。

あとはこの曲はイントロのギターリフが最高ですよね。エンディングにもタイトルのリフレインと共に繰り返されますけど、そこではイントロとコードが違うというのも、季節がめぐり、違う自分に成長したということが表現されててとても良きです。

その3:それもきっとしあわせ/鈴木亜美

この曲については宇多丸さん、ジェーン・スーさんがそれぞれのラジオで語り尽くされているので、それ以上言葉を重ねる必要がないのです。

鈴木亜美が、様々なアーティストとコラボするプロジェクトの第3弾シングルです。
あんな歌詞の歌を、鈴木亜美に歌わせるってえっぐいし、さらにこの曲は詞先で作ったそうです。詳しくはぜひ、宇多丸さんのラジオを聴いてください。

歌いたい歌がある
私には描きたい明日がある
そのためになら そのためになら
不幸になってもかまわない

それもきっとしあわせ

サビのフレーズなのですが、鈴木亜美さんはこの時期、アーティストとして再度売り出そうというプロデュースをされていたように思います。
が、大半の皆さんは彼女をアイドルとして認識しており、正直なところこのプロデュースはそれほど成功したものとはいえないと思います。
しかしもう一度歌詞を読んでください。アイドル時代、様々な紆余曲折を経てきた彼女が、このような覚悟を歌うことを。

どのような創作であれ、作品は自分の切り売りをしていくものだと思っています。心に宿る狂気であったり、過剰なまでの美意識であったり、常人に理解し得ない細部へのこだわりであったり。もちろん、歩んできた壮絶な道のりと、その過程でつけられた傷の数々も自己の一部でしょう。

これは彼女が創作者として歩むための一歩、決意表明としての名刺代わりになる歌なのではないでしょうか。

これは前2つに挙げた曲よりも、あまりにも歌い手と一体化しすぎて、そのテイクが1番になってしまった例ですね。

さいごに

もちろん、この3曲は曲単体でも最高であり、だからこそたくさんカバーされたり、いろんな人の心を動かし、歌いたくなる、語りたくなる、という一面を持っています。ヘタウマなど超えた魅力を持っていることは言うに及びません。

でも、最高の歌手が最高のプロデュースで最高の曲を歌うことが、歴史に名を残す名曲を残す唯一の手段ではなく、曲のほんとうの魅力を引き出し、ある種の瑕疵があるからこそ人の心をうつ例としてあげさせていただきました。
また、歌を歌ったり曲を演奏したり、絵を描いたりなどするアマチュアの皆様におかれましては、ヘタウマという言葉に逃げずに、技術の向上に努めてまいりましょう。



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