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コミュニティデザインの源流 イギリス篇

コミュニティデザインの源流 イギリス篇
著者:山崎亮
2016, 太田出版

山崎はラスキンから始まり、モリス・アシュビー・オクタヴィアヒル・ヘンリエッタ バーネット・ハワードの流れを体系化し、大元にロバート・オウエンとカーライルを据え、都市と産業の大きな変革があったヴィクトリア期のロンドンにおける偉大な思想と実践をまとめ上げている。

この時代のロンドンが、産業革命以降の都市人口の増幅により、スラムが大量に発生した劣悪な環境であった状況に対して、現代の日本はIT革命以降の人口減少による都市の縮退と、高齢化社会による新型スラムの発生した状況であることを、対照的であるが問題が通底した時代状況として相対化しようとしている。また、既存建物のストックをDIYなどでリノベーションしたり、丁寧な営繕によって耐用年数を長引かせることや、そのために住民のコミュニティ形成と自発的な働きが注目されている状況は、日本でもようやく定着しつつあるがロールモデルとして、ヴィクトリア期のロンドンは参照する点が多い。

その点で、個人的にもっとも興味を持ったのは、オクタヴィア・ヒルの活動である。彼女は元々画家を目指しラスキンに弟子入りしたが、それと並行してスラムの居住環境を改善するには、住民自身が清潔で充実した暮らしを心掛けることや、自然に触れる楽しみや労働の歓びを知ることが、もっとも効果的で重要なことだと説いた。そして、自らが直接管理をするアパートを購入し(ラスキンからお金を借り)、住民に上記のことを教えこみ居住環境を改善させていった。また住む場所の近くには子供たちが走り回れる広場が不可欠だと考え、オープンスペース(この言葉もオクタヴィアがつくったもの)を普及させた。それだけでなく、郊外にあるイギリスならではの美しい公園や緑地帯が、住宅開発から逃れるためにナショナル・トラストを設立し、いくつもの場所を守った。こういった活動の数々は、オクタヴィア自身の出自や幼少期の体験が影響し彼女を突き動かしたが、それがある都市像を持ちつつ何かつくらなくとも実現していることに驚かされる。

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