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組織カルチャーを浸透させるために行った、たった二つのこと

先日、キズキの創業から8年間で最も辛かった時期を振り返ってnoteを書いた。組織が壊れかけていたあの時代、行動規範を作ったことで最終的に乗り越えられたことは、大きな成功体験となった。

今、組織づくりの真っ只中で悩んでいる方々からも、たくさんの感想をいただいた。

また、キズキの現COOである仁枝からはこんなコメントをもらった。

仁枝がいう通り、今キズキがなんとかやっていけているのは、ただ「行動規範をつくったから」ではなかったように思う。

まずは、社員の賛同を得られるような行動規範だったこと。

その上で、採用基準・人事評価基準に組み込み、組織に浸透させられたこと。

振り返ってみると、組織が上向いてきたのは、この2つが大きかった。

今回は、より具体的にどのようなプロセスを経て行動規範を定めたのか、それをどう社内に浸透させていったのかを、より詳しく書いてみようと思う。

いわゆる「30人の壁」に悩む経営者やマネージャーの方々の参考になれば嬉しい。また、これからもキズキではカルチャー形成や浸透に力を入れていきたいと思っているので、アドバイスや意見もぜひいただけたらと思う。

自分本位な行動規範では、誰もついてこない

正社員アルバイトを合わせてちょうど40名を超えた創業5年目の頃、キズキには明確な採用・人事評価基準がなかった。それにより意見が対立するスタッフが集まり、組織はまとまりを失っていた。

この状況をなんとか打開しようと行動規範をつくることになった経緯は、前回のnoteで説明した通りだ。

行動規範の作成にあたり、まずは僕が一度原案を作成し、経営メンバーの意見を聞くことが決まった。

「そうだな…まずは自分で考えて動いたり、新規事業を立案してくれるような行動力のある人材が欲しいなあ」

「あとは、ビジョンやミッションへの共感は必要不可欠だろう。社会を変えていくことに情熱的な人を評価したい」

そんなことを考えながら、業務の合間を塗って日々原案作りに取り組んだ。

こうして2週間ほどかけて「経営者目線で行動する」「ビジョンやミッションに共感し、情熱を持って目の前の仕事に取り組める」といった僕なりに考えた要素を盛り込んだ原案が完成した。

そして迎えたMTGの日。僕は徹夜で考えた案を、策定会議のメンバーであった、プロボノのNさん、現COOの仁枝、管理部門長(当時)の伊藤に差し出した。

「どうかな?今の状況が少しでも改善するように考えてみたんだけど…」

「おお、いいですね!」

きっとそんな反応をもらえるだろうと期待しながらそう質問すると、みんなの反応はそれとは正反対のものだった。

顔を見合わせた後、難しい顔をして黙り込んでしまったのだ。

少しすると、言いづらそうにポツポツと意見が上がり始めた。

「経営者目線って本当に必要でしょうか?現場で支援にあたる人にとっては、目の前の生徒や教室のスタッフと信頼関係を築く方が大切な気がします」

「いくら情熱的でも目の前の仕事に真摯に取り組めないと意味がない気がしてしまって…」

徐々に出始めたみんなの意見を聞きながら、僕はある大きな勘違いに気付かされた。

僕は、無意識のうちに「自分好みの人材」を求めてしまっていたのではないか。だからこそ、行動規範の内容も自分本位なものになってしまっていた。

しかし、今考えるべきは「僕の好みの人材」ではなく「キズキに必要とされる人材」だったのだ。

そう気づいてから、行動規範の作り方を180度変えてみることにした。

僕が原案を作るのではなく、社内で活躍していたり「キズキらしい」と感じる人をみんなでリストアップしていき、その特徴を考えることにしたのだ。

これならば「僕の好みの人材」ではなく「キズキに必要とされる人材」の要素をうまく洗い出すことができるはずだ。

すると、みんなから様々なスタッフの名前があがり始めた。

例えば、学習教室事業部のSさん。彼女は子育てがひと段落した段階でパートタイムスタッフとしてキズキに加わり、そこから長年キズキを支えてくれているスタッフの一人だ。今は、学習教室事業部のマネージャーとして複数教室を統括し、活躍してくれている。

彼女は周囲で意見の対立が起こっていても、その争いに加わることなく、いつでも生徒や保護者の方に必要なことを考え、淡々と業務進めていた。誰かを批判することなく、常に自分ができる限りの改善を重ねる。その姿勢は周囲のスタッフから信頼を集め、何か困ったことがあれば彼女を頼るスタッフも少なくなかった。

そこで、彼女や彼女に似たスタッフの言動から、キズキの一つ目の行動規範が作られた。

一人ひとりがプロフェッショナルであり続けます
どんなときも他責することなく、「自分が果たすべき責任は100%実行できたのか?」を自分に問い続ける姿勢はとても大切です。そういう姿勢をキズキでは「プロフェッショナル」と呼んでいます。

また、当時経理や人事、財務などのバックオフィスを一括して担当してくれていた管理部門長の伊藤さんの名前も上がった。伊藤さんは、話し合いの場面で積極的に意見を出してくれた。かつ、その意見は常に事実に基づき論理的に組み立てられたものだったのだ。

当時、キズキは組織としてのまとまりを失っており、感情的な意見の対立が日常茶飯事となっていた。そんな中で、伊藤さんは論理立てて議論を進め、組織を少しでも前に進めようとしてくれていた。

そこで、他にも伊藤さんに似たスタッフの特徴を整理し、以下の行動規範が盛り込まれることになった。

ファクトとロジックを用いて、自由闊達に議論をします
キズキは「最短の道のり」で「何度でもやり直せる社会」をつくりたいと考えています。そのためには、論理的に考えて仮説を導出し、その仮説を事実に照らし検証し進化させるという思考を高速で回す必要があります。そこでキズキでは、ファクトベースとロジカルシンキング(=事実と論理的思考)の2つを、組織の共通の思考様式として徹底しています。

こうして、プロジェクトが始まって4ヶ月後。みんなが「キズキらしい」「信頼できる」「一緒に働きたい」と思える人の特徴が集まった6項目からなる行動規範を完成させることができた。

行動規範が、絵に描いた餅に

と、ここで話を終わりにできればよかったのだが、実は行動規範が浸透し、組織が軌道に乗るまでには、さらに半年以上の時間を要した。もう少しだけ話に付き合っていただければと思う。

行動規範が完成してから、全社会議では設定した背景や意図を丁寧に説明した。また全社にポスターも貼り出し、日頃からスタッフに意識してもらうようにした。

そうこうしているうちに、完成から約3ヶ月ほどが経過した。徐々にスタッフにも浸透し始めたのではないか。そう思い始めた頃に、事件は起きた。

ある日のマネージャー会議で、ふと行動規範の話になったのだ。

「では、6つの行動規範についてですが……」

あるマネージャーがこう発言すると、他のマネージャーからこんな声が上がったのだ。

「え、行動規範って5つじゃなかったっけ…?」

その場がざわつき、集まったスタッフで行動規範の内容を確認してみた。すると、そこで誰一人として行動規範を暗唱できる人がいない事実が発覚したのだ。冗談のように思えるが、これが当時のキズキの状態だった。

行動規範の発表以降、表立った反発や批判はなかった。それを見て、僕は行動規範は「浸透している」と勘違いしていた。

でも、実際は「意識すらされていなかった」という最悪な状態だったのだ。

採用面接・人事評価を行動規範に則って行うように

それから先は、行動規範がどうすれば浸透するのか試行錯誤が始まった。話し合いの末、経営メンバーが選んだのはまず採用を行動規範に則って行うことだ。

採用基準に盛り込めばそもそもキズキのカルチャーにあう人が集まるようになり、社内での浸透も早まるはずだ。そう考えて面接では行動規範に沿った人材かどうかを判断する数十の質問をあらかじめ用意することになった。逆に言えば、面接ではそれ以外のスキルや経験を計る質問はほぼしていない。あくまで「行動規範に沿った人物かどうか」の判断に集中するようになった(※)。

また、もう一つ行動規範の浸透のために行なった施策がある。それが、評価制度への導入だ。

現在、キズキでは「等級要件を満たした実務ができているか」と、「行動規範に沿った行動ができているか」で昇給とボーナス額が決まる。数値目標については基本的には評価に加味されてない。これは、マネージャーも同じだ。

また、導入と同時に気をつけたのが、評価への納得感の担保だ。納得感の低い評価は反発につながり、行動規範への納得感も薄れてしまう可能性がある。そのため、評価を行う上長は部下と1ヶ月に一度1on1を実施し信頼関係を築くこと、評価は直属の上長だけでなくマネージャー会議で数日かけて議論し、第三者の目線を入れること、なども同時に施策に盛り込んだ。

行動規範を人事評価に入れたことで、社内での行動規範の浸透は急速に進んだ。

行動規範の作成と浸透のその後

行動規範を採用・人事評価基準に導入してから2年がたった。

浸透が進んだおかげで、徐々にキズキのスタッフがみんな同じ方向をむいて仕事をできるようになり、組織は徐々にまとまりを取り戻していった。

実は、行動規範を設定する前、売上の伸びは一時鈍化していた。組織があれだけ崩壊していたから無理もないとは思う。

しかし、行動規範を作り、採用基準や人事評価に盛り込んだ今、売上は年々増加。直近2年で2.5倍を達成した。

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キズキ共育塾キズキビジネスカレッジを主軸とする僕らのようなビジネスモデルでは、「働く人」が何より重要だ。目に見える製品を売っているわけでもない僕たちのサービスの質を決めるのは、「人」でしかない。

そこに目を向けなければ、組織の成長はありえないし、社会にインパクトを与える事業を作ることもできない。だからこそ、採用や人事評価の仕組みや、それらを通じた行動規範の浸透が重要になる。

改めてそれを実感する一連の出来事だったように思う。

今、組織がまとまりを失い絶望している経営者やマネージャーの方にとって少しでも参考になれば嬉しい。

(※)面接通過後には実務能力を測るワークサンプルテスト(メール対応、提案書作成等)の実施も行なっている。

TOP画像:Photo by Nik MacMillan on Unsplash


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